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古草原の分布を全国的に見える化

株式会社シンク・ネイチャーのサイエンスチームは、100年以上にわたり人為的な管理が継続されてきた「歴史の古い半自然草原(古草原)」の分布を、日本で初めて全国規模で地図化した研究成果を、生態学の国際学術誌「Ecological Research」に発表しました。

水田の近くにある、歴史的に古い草原

あわせて、この研究成果を研究者・自治体・企業・市民が広く閲覧・活用できる情報サイト「日本の古草原ウォッチ(Japanese Old Grassland Watch)」を新たに公開しました。地図データは研究・行政での活用を目的とし、生物多様性保全計画の立案や環境影響評価、防災・減災施策の検討における活用を想定しています。

研究背景:可視化されてこなかった「歴史の古い草原」
草原は、火入れ・採草・放牧など人間の管理で森林への遷移が抑えられ成立する生態系です。日本での面積は国土のごく一部ですが、氷期から生き残る氷河遺存種など多様な種を 育む生物多様性の高い生態系です。
近年の研究では、地域住民の資源利用と結びついてきた「半自然草原」は、原生的な自然草原や成立の浅い二次的草原とは異なる生態系であることが分かってきました。しかし、その重要性は広く認識されておらず、どこにどれだけ残っているのかはこれまで可視化されていませんでした。

研究成果:古草原の総面積はわずか58,872ヘクタール、国土の0.16%
本研究(Ikari et al., 2026)では、100年以上にわたり草本植生が継続してきた土地を「歴史の古い半自然草原」と定義し、複数時点の地図資料や統計データを統合する独自の手法によって、1ha以上の歴史の古い草原について、その分布を全国規模で明らかにしました。解析の結果、現存する古草原は2,654件のポリゴン(区画)として特定され、その総面積は58,872ヘクタール、日本の国土面積のわずか0.16%にとどまることが判明しました。本データは、生物多様性保全の優先順位付けやモニタリング、景観規模での再生事業の計画立案を支援することを目的としています。

半自然草原ウェブビューアーのイメージ図(出典:半自然草原ウェブビューアー)

情報サイト「日本の古草原ウォッチ」内のウェブビューアーでは、こうした分布データを地図上でインタラクティブに確認できます。半自然草原全体の分布密度を示す「SNG」レイヤー、今回特定された100年以上の継続性を持つ古草原そのものの分布に加え、植物・動物・全種を対象とした保全優先度ランキング(上位5/15/30地域)など、複数のレイヤーを切り替えながら閲覧することが可能です。

日本における草原面積の経時的変化(出典:日本の古草原ウォッチ)

さらに、この分布データをもとに情報サイト「日本の古草原ウォッチ」で公開した統計によると、以下のような減少の実態も明らかになっています。

•過去50年間、古草原の面積はおよそ20年ごとに半減しており、近年の年間減少率は約2.5%にのぼる。

•最も急速な消失は1900年から1976年の間に起こり、この76年間で全体の90%以上が失われた。

同サイトの分析によれば、消失した古草原の多くは森林化(人工林・二次林への転換)によるものですが、近年(1997 年以降)は太陽光発電施設等の整備に伴う「造成地・建築 用地」への転換が増加しており、開発圧力に直面していることを示しています。

自治体・行政における活用可能性
今回公開したデータレイヤーおよび情報サイトは、研究目的にとどまらず、自治体・行政実務における次のような活用を想定しています。

•生物多様性地域戦略の策定:地域内に残る歴史的価値の高い草原を客観的に把握し、重要生息地の選定や保全優先度の検討に活用できます。

•自然共生サイト認定候補地の抽出:継続性の長い半自然草原は生物多様性上の価値が高く、認定候補地選定の基礎資料となり得ます。

•開発事業における環境配慮の検討:太陽光発電施設をはじめとする開発転換が増加する中、事業計画段階で古草原の残存箇所を把握し、保全と開発の両立を検討する材料として活用できます。

•防災・減災施策との連携:当社は2026年6月、国立大学法人熊本大学と「阿蘇の草原生態系が持つ防災価値の経済的可視化」に関する共同研究契約を締結し、野焼き・採草・放牧といった草原管理が斜面崩壊の抑制に果たす役割の定量評価を進めています。今回のデータ整備は、こうした草原の持つ生態系を活用した防災・減災機能(Eco-DRR)の評価を全国の草原へと広げていくための基盤ともなります。

当社は、今回のデータおよび情報サイトについて、自治体・研究機関等からのお問い合わせ・共同活用のご相談を歓迎しています。

今後の展望
当社は今後もデータの更新・拡充を継続し、古草原の保全価値を経済的・社会的な指標として可視化する研究を進めます。半自然生態系の歴史的な継続性を考慮したこの分析手法 は、自治体による生物多様性地域戦略の策定支援をはじめ、地域の生物多様性戦略や国土 保全政策への貢献にもつながる新たな基盤になると考えています。

論文情報
タイトル:Geospatial Data Layer of Semi-Natural Grasslands With Century-Old or Longer Temporal Continuity
著者:Shogo Ikari、Mahoro Tomitaka、Yasuhiro Kubota、Tanaka Kenta
雑誌:Ecological Research 41, no. 4: e70108(2026年)
DOI:https://doi.org/10.1111/1440-1703.70108
URL:https://esj-journals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/1440-1703.70108
ライセンス:CC BY-NC 4.0

共著者のTanaka Kenta氏(筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所)は、本研究の遂行中にご逝去されました。同氏は本研究における資金獲得およびプロジェクト運営に中心的な役割を果たされました。生前のご貢献に、謹んで感謝と敬意を表します。
情報サイト:日本の古草原ウォッチ https://grassland.think-nature.jp/
ウェブビューアー:https://grassland.think-nature.jp/sources/

本研究は、当社サイエンスチームが、以下のプロジェクトで実施した研究成果です。

環境研究総合推進費環境問題対応型研究 課題番号:【4-2305】 2023~2025年度研究課題: 歴史が生み出す二次的自然のホットスポット:環境価値と保全効果の「見える化」


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