消える練習 第五話(完) 「輪郭」
〜9月13日 22:00
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葬儀は二日後だった。
小さな葬儀だった。
参列者は三十人ほどだった。
祖母の知り合いはほとんど亡くなっていた。
八十四年生きるとそうなる。
先に知り合いが消えていく。
最後に残った人の葬式には人が少ない。
そのことをわたしははじめて知った。
近所の人が焼香に来た。
みんな年寄りだった。
そのなかのひとりがわたしに話しかけてきた。
八十くらいの女の人だった。
「お孫さん」
「はい」
「よく聞いてたわ」
「なにをですか」
「あなたの話」
わたしは驚いた。
「祖母がわたしの話をしたんですか」
「したわよ」
その人は言った。
「東京で働いてる孫がいるって」
「本を読むのが好きな子だって」
「頭のいい子だって」
わたしは言葉が出なかった。
祖母とはたいして話していない。
本が好きだと言った覚えもない。
「なんで知ってたんでしょう」
「見てたんじゃないの」
その人は言った。
「年寄りは見てるのよ」
「口には出さないけど見てる」
そう言って笑った。
わたしはその場を離れて外に出た。
十月の空気が冷たかった。
そして考えた。
祖母はわたしを見ていた。
年に一度会うだけの人が。
わたしの好きなものを知っていた。
わたしがさびしそうなことも知っていた。
そしてそれを近所の人に話していた。
つまりこういうことだ。
わたしは知らないところで語られていた。
わたしが消える練習をしている夜に。
だれかがわたしの話をしていた。
その事実にわたしは打たれた。
人はひとりで存在していない。
自分の知らないところで。
人の口のなかで存在している。
そのことを二十五歳ではじめて知った。

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8月14日 22:00 〜 9月13日 22:00
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