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“エゾシカカツカレー”という物語

ザモチに来たら、ぜひ味わってほしい特別な一皿があります。
それが 「エゾシカカツカレー」

これはただの珍しいジビエカレーではありません。北海道の自然、命の循環、そして漫画『ゴールデンカムイ』から学んだ文化までもが込められた物語です。


蝦夷鹿(エゾシカ)とは?


エゾシカは北海道に生息する日本固有のシカで、本州のニホンジカよりも大柄。
しなやかな赤身肉は大地のエネルギーをそのまま宿したようで、栄養価も高く、低カロリーで上質なたんぱく質を含んでいます。

一方で、今や北海道では頭数が増えすぎ、畑を荒らしたり森林を枯らしたりする被害が深刻化しています。
「害獣」と呼ばれ、駆除されてそのまま廃棄される命も少なくありません。

けれど、それではあまりに勿体ない。
いただいて、命をエネルギーに変えること。食べてこそ守れる命がある。
エゾシカはまさにそんな存在です。


ゴールデンカムイがくれた着想


私がエゾシカに特別な思いを抱くようになったのは、漫画 『ゴールデンカムイ』がきっかけでした。
日露戦争後の北海道を舞台に、杉元佐一とアイヌの少女アシㇼパが金塊を巡る旅を繰り広げる物語です。

この作品の大きな魅力は「食」
狩りをし、捌き、料理して食べる――
北海道の自然と命の営みが驚くほど丁寧に描かれます。
食卓ではアシㇼパさんが必ず 「ヒンナヒンナ」(=おいしい/ありがたい)と口にし、命をいただく感謝を表します。

中でもエゾシカは繰り返し登場する重要な存在です。

  • 初めての狩りで杉元は鹿を撃てず、「自分を見ているようだ」と感じてしまう。

  • アシㇼパが素早くとどめを刺し、裂いた腹に杉元の手を入れて温めさせる。「この温もりは、命が別の命に移っている証」だと語る。

  • 吹雪に閉ざされた大雪山では、鹿の体内に身を寄せて生き延びる。その極限の中で杉元は「好きな食べ物は干し柿」と答え、食に宿る記憶や心までも描かれる。

ゴールデンカムイの中で鹿は、ただ“食べられる存在”ではありません。
人を迷わせ、人を救い、人を温める。
命を奪うことと生かすことの境界線に立つ存在として描かれています。

そうした描写を読むたびに私は、「命をおいしくいただくことを料理で伝えたい」と強く思うようになったのです。


北海道で食べた最初の衝撃


実際に北海道で蝦夷鹿を初めて食べたとき、その衝撃は忘れられません。
カツではなく、シンプルに焼いた赤身でした。
ラムのようでありながらもっと澄んだ香り。
噛むと繊維がほぐれ、赤身の旨みがじわっと広がる。

「蝦夷鹿ってこんなに美味しいのか」と思わず声が出ました。臭みもなく、力強いのに優しい。

その瞬間から、私は完全にエゾシカに心を奪われた。
帰りの飛行機の中でもずっと考えていたのはひとつ。

「これ、カツにしたら絶対おもしろい」


北海道・札幌「チセのある個室居酒屋 海空のハル」で食べたアイヌ創作料理セット
奥にある蝦夷鹿串

北海道・別海町から届く恵み


ザモチで使う蝦夷鹿は、北海道・別海町から直送してもらっています。

狩猟の現場では「クリーンキル」という方法を徹底。
鹿をなるべく苦しめずに仕留め、すぐに解体する。
なぜなら、苦痛を与えると体温が急上昇し、血が回って雑菌や品質低下の原因になるからです。

ハンターの腕前こそが、肉の美味しさを決める。
その信念を持って15年以上続けている自社ハンターから届く鹿肉は、ジビエ初心者でも安心して食べられる品質です。


部位選びの試行錯誤


とはいえ、蝦夷鹿は奥深い。
部位によって食感も風味もまったく違います。

  • 内モモ肉は柔らかすぎて、カツにすると“噛みごたえ”が足りない。

  • 一見柔らかそうでも、揚げるとカチカチになる部位もある。

  • 筋が多すぎる部位も扱いにくい。

何度も試した結果、行き着いたのは 外モモ肉
繊維質が粗く、しっかり歯ごたえがあって、噛むたびに旨みが広がる。
「鹿をカツで味わうならこれしかない」と確信しました。

粗い繊維質としっかりした歯ごたえ。
噛むほどにあふれる赤身の旨み。
「鹿をカツで食べるならこれしかない」と確信した瞬間だった。


試行錯誤の日々

ザモチ史上の革命

最初の頃、私は大きなブロックを丸ごと揚げていた。
提供のたびに「20分かかりますがよろしいですか?」と確認していたほど。

お客さんが全員エゾシカカツを頼んだら、店の回転は壊滅的。
自分でも「これは無理あるな」と思っていた。

ブロック時代のエゾシカカツカレー

そんなとき、お客さんからの一言。
「もう少し細かく切ってくれませんか?」

なるほど、大きな塊を一口で終わらせるのは勿体ない。
そこでブロックを二つに分け、細かく切って揚げる方法に変えた。

結果は驚くほど良かった。
火通りは安定し、揚げ時間は短縮。
切り口が増えたことで見た目も華やかになり、食べやすくなった。

「なんで最初からこうせんかったんやろ」
そう思うくらいの大正解。
これはまさに、ザモチ史上の革命だった。

現在のエゾシカカツカレー

味わいと欧風カレーの合流


エゾシカカツは、衣の中にぎゅっと詰まった“赤身の旨み”が主役です。

噛むと、まず衣のサクッという軽い音。
その後すぐに、繊維質の肉がほどけながら、鉄分を含んだ豊かな旨みがじわっと舌に広がる。

そこに合わせるのはスパイスカレーではなく、ザモチの欧風カレー
重層的なコクが鹿肉を包み込み、味は一気に立体的になる。
大阪にいながら北海道の大地を食べているような体験になるのです。



お客さんの声


ありがたいことに、多くのお客さんがこのカレーを愛してくれている。

「ジビエが苦手でジンギスカンも無理だったけど、ここで克服できた」
「思った以上にクセがなくて食べやすい!」

そんな声をいただいたとき、ただの珍しいカレー以上の意味を持てた気がした。

ゴールデンカムイ好きのお客さんも多い。
推しのぬいぐるみをカツの横に並べて撮影したり、毎年北海道から仕入れる北海道限定サッポロクラシックゴールデンカムイ缶と一緒に楽しんだり。

SNSでその写真が流れてくるたびに、「漫画と現実がここで繋がった」と嬉しくなる。

余談ですが、一度ゴールデンカムイ関連でニュースサイトに載りましてその文章でもエゾシカカツカレーの事も書いてくださりました。当時このニュースサイトの転用でYahoo!ニュースも載ったので、まさかのYahoo!ニュースデビューが大好きなゴールデンカムイ関連で嬉しかったです!



ゴールデンカムイへのオマージュ


実は、ザモチではたまに限定で 「蝦夷鹿肉のライスカレー」 をお出しすることがあります。
カツではなく、鹿肉をルーにじっくりと煮込み、旨みを全体に溶け込ませた特別仕立て。
これはまさに『ゴールデンカムイ』へのオマージュ。

作品の中で描かれる「シカを仕留め、煮込み、食べる」あの一連のシーンを自分なりに再現したい――そんな思いで生まれました。
漫画のページの中でしか味わえなかった世界を、実際に自分の手で料理し、お客様に食べてもらえることが本当に嬉しい。

コップにスプーン入れてるのも再現

「漫画再現飯」と呼ぶには大げさかもしれません。
けれど、あの作品を愛する人たちと同じ料理を囲み、同じ“ヒンナヒンナ”を共有できる瞬間は、私にとってかけがえのない体験なのです。


価格と想い

エゾシカカツカレーは 1,500円

北海道からの送料、新鮮さを保つための徹底管理、部位のこだわり…。
正直、この価格はかなり挑戦的だと思います。

でも「できるだけ多くの人に食べてほしい」という気持ちを優先しています。
一皿に5〜6切れのカツを乗せ、満足感も大切にしています。


最後に

関西で、エゾシカをカツカレーとして味わえるのはおそらくザモチだけ。
北海道の自然、アイヌ文化、そして『ゴールデンカムイ』が教えてくれた“命をいただく”感覚。

そのすべてを込めて、エゾシカをカツにしています。
まだ食べたことのない方へ。
一口でいい、騙されたと思って食べてほしい。
きっと「エゾシカってこんなに美味しいんや」と驚いてもらえるはずだから

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