自分を責めてしまう優しい人たちへ━「失敗したら人生終了?」にNOを言う小説『緋文字』
僕はちょっとコミュ障の文学猫、にゃん吉ですニャ。ようこそ僕の屋根裏文学サロンへ!
僕のこのブログに来てくれる読者さんたちは、自分を責めてしまう優しい人たちが多いみたいなんだニャ。そんな人たちに、ぜひとも「緋文字」(ホーソーン作、八木敏雄訳、岩波文庫)を読んでほしいんだニャ。
17世紀の厳しい清教徒の社会で、不義の子を身ごもったヒロインは、徹底的に排斥されるニャ。不倫は良くないことだけれど、そこまでやるか?っていうぐらい、バッシングがむごいんだニャ。
今の日本のSNS社会も似てるニャね。みんなが決めた「ルール」に疑問を持つ人は叩き潰されるから、自省的な人ほど辛い世の中だニャあ。
でもニャ、緋文字(原題:The Scarlet Letter, A Romance)を読めば、苦境から立ち上がるヒロインの強さに救われて、元気が出てくるニャよ!
戦う聖母子、ヒロインの気合がすごい
にゃん吉:ホーソーンさん、お野菜のスープをどうぞ。奥さんのソフィアさんは健康志向で、シンプルなお料理が得意だったそうですニャ。
ホーソーンさん:ありがとう。タイムの香りがいいね。
にゃん吉:今日は、本当にうれしいんだニャ。僕は「緋文字」が大好き。読者のみなさん、女性像の名手、フランスの画家ユーグ・メルルさんが描いた「緋文字」をご覧くださいニャ。
ホーソーンさん:この絵、いいよねえ。私も気に入っている。
にゃん吉:まるで戦う聖母子ですニャ。不義の子パールさんを抱くヒロイン、へスターさんのこの面構え!厳しい開拓地に生きるアメリカ女性の気合が伝わってくるニャあ。

ウォルターズ美術館所蔵、wikimedia commons
あらすじ
🔸1850年の作品。厳しい戒律と女性差別の社会、17世紀のボストンが舞台。へスター・プリンは不義の子を産むが、子供の父親が誰なのか、絶対に明かさない。へスターは胸にA(adultery=姦通)の文字を縫い付けた服を着せられ、さらし者にされ、「本来なら死刑だ」と侮辱され、石を投げられ、村八分にされる。
🔸へスターは裁縫の仕事で身を立て、娘のパールを育てる。貧しい人に自分の持ち物を分け与え、疫病が流行すれば、修道女のように看護した。村人は、やがて、罪と向き合い、償い、自立し、他者に施すへスターの姿に、アメリカの自立の哲学と、寛大で高貴な魂を発見するようになる。
めちゃくちゃ厳しい清教徒さんたち 罪とは何か
にゃん吉:Aの文字を縫い付けた衣服を義務づける「羞恥刑」は、実際、あったんですってニャ。怖いニャー。
ホーソーンさん:そうだよ。律法主義がまかり通っていた。日曜に教会に行かないと罰金、妻が夫に従わないと処罰、婚前交渉はむち打ちの刑、罪人は徹底的にさらし者。監視社会だった。
にゃん吉:いいか悪いかわかんニャいけど、村の掟に従え、っていう時代だニャ。そんななか、へスターさんは、罪とは何か、を問うんだニャ。そして、それは、神と自分の良心が判断することだ、と考えるんだニャ。
ホーソーンさん:それは、清教徒の原点なんだけどね。
にゃん吉:へスターさんは、人のせいにしないニャ。わずかな持ち物を貧しい人に分け与えても、施した相手にバカにされるほどの激烈な村八分だけどニャ。裁縫のセンスが良くて、儀式用の刺繍が大人気になるニャ。経済的に自立した、シングルマザーになるニャ。
アメリカの哲学、アメリカの思想、アメリカの孤独
にゃん吉:「緋文字」は歴代の偉大な作家たちに愛された“アメリカ文学の母胎”ですニャ。「白鯨」の作者メルヴィルさんは、ホーソーンさんの大・大・大ファンで、白鯨を「その天才へのわが讃仰のしるしとして」、ホーソーンさんに献じているニャよ。
● ヘスターという女性像の力
● アメリカ的精神(個人・罪・孤独)の象徴性
● 暗い淵から希望を見る、心理描写の深さ
● Aという文字の象徴の見事さ
「緋文字」の思想は、アメリカそのもの、なんだニャ。
集団主義に負けそうになったら、へスターさんを思い出そう
にゃん吉:日本のSNS社会でも、実社会でも、「正しいやり方は1つ」と押し付けてくる声が大きいニャ。
ホーソーンさん:日本には「空気を読まない罪」っていうのがあるみたいだねえ。
にゃん吉:そうだニャ。
同調圧力
失敗する人への人格否定
個人より集団を優先
でもニャ。失敗しない人間が、罪を犯さない人間がいるだろうかニャ。
ホーソーンさん:人間は弱いからね。そして、その弱い人間たちが決めた「ルール」が、本当にいつも「正しい」のか、って問いかけたんだよ。
にゃん吉:僕は「空気を読まない罪」に問われる度に、へスターさんのことを思い出すニャよ。もちろん、他者の意見は大いに参考にするし、法律も守るニャ。わがままはだめだニャ。そして、僕は、自分のやり方は、僕の良心に従って決めるニャ。
アメリカ最高の「ロマンス」
にゃん吉:副題は「ロマンス 」だニャ。A Romance. この作品は、アメリカ最高のロマンスだと思うんだニャ。恋愛ドラマというよりも、高貴な魂の持ち主による、情熱の真髄。ニャンという、この情熱の無垢な美しさ。
へスターさんが、罪の意識で弱っていく恋の相手を鼓舞するこの場面は、アメリカ文学のハイライトのひとつだニャあ。
「過去はなくなったのです!過去にこだわっていたところで、なんになるでしょう!ごらんなさい!このしるしともども、そんなものはかなぐり捨てて、なかったも同然にしてみせます!」
そう言いながら、彼女は緋文字をとめていた留め金をはずし、そのしるしを胸から取りはずすと、遠くの枯葉のなかに投げ捨てた。
Aが意味するものは?
へスターは利己的な目的を持たず、自分自身の利益と楽しみのために生きることがまったくなかったので、人びとは悲しいこと、困ったことをことごとく彼女のところへ持ってきて相談をもちかけた。(中略)もっと明るい時代が繰れば、新しい真理があらわれて、男女のすべての関係が相互の幸福というもっとたしかな土台のうえに築かれることになろうというのであった。
にゃん吉:へスターさんのAは、もはや、adultery(姦通)のAではなくなっていくニャ。
ホーソーンさん:Angel(天使)、あるいは、Able(有能な)に変わる。
にゃん吉:この、ニャンとも素敵なAの文字の象徴性、あの象徴主義のキング、ボードレールさんも激賞してるニャね。
ホーソーンさん:君は、何のAだと思う?
にゃん吉:訳者の八木先生に100%同意するニャ!アメリカン・ウーマンのAだニャ!
序文で挫折しないでニャ
にゃん吉:ホーソーンさんは、天国のソフィアさんのもとに帰っていったニャ。「緋文字」は、アメリカの高校の授業でもよく読まれている名作で、これを読んだら、その感動は一生、持続するからぜひ読んでニャー
有名な序文「税関」は、税関職員をしながら小説を書いていたホーソーンさんが、小説の技巧を凝らして書いたので、ちょっと難解かもしれニャい。序文で挫折しないでニャ、へスターさんがさらし刑にされる場面から読み始めてもいいニャよ!
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