【ティータイム】デイドリーム②
今日は楽しみにしていた推しのライブの日。
しかも、久しぶりにアリーナ席だ。
早々に会場に到着し、開場になると、早々に入場。
席に着き、確認すると、メインステージもそこそこ見えそうだ。
ライブが始まるのをワクワクしながら待っていると、右隣の席に肥満体のおじさんがゼェゼェ言いながら、着席。
こっちにはみ出してるやん!
ただでさえ狭いパイプ椅子で、少し左寄りに座る。
いよいよ、ライブ開演まで10分というところで、今度は左隣にがっちり体型のおじさんが着席。
これで、左に寄れなくなった。
やむなく、両足を閉じ、肩もすぼめて座る。
にしても、左隣のおじさん、汗臭い…。
まぁ、ステージの方は見えるから…。
そう、自分を慰めていると、3列前の席に、背の高いお兄ちゃん達2人が到着。
ライブがスタートし、一斉に、皆が立ち上がる。
メインステージの真ん中が、3列前のお兄ちゃん達で全く見えない!?
あ〜、最悪や!
ライブ中、ファン一体となってペンライトをブンブン振っていると、右隣の肥満おじさんが、一人、ペンライトをくるくる回すなど、オリジナルの振りをし出す。
気になって仕方がない。
さらに、コールをしていると、左隣から酷い口臭が漂ってきて、包まれる。
鼻が曲がる…。
センターステージにメンバーが来ると、背の高いお兄ちゃん達が自分の頭の上に高々と推しメンタオルを掲げる。
せっかく、推しメンが近くに来たのに、全く見えない…。
もう、我慢の限界や…。
僕は、「ハートして!」と書いたページを開いていたスケッチブックをめくり、例の言葉のページを開き、通路に立つスタッフの方へと掲げる。
入ってー
すると、センターステージの方を照らしている照明を反射し、頭頂部をひときわ明るく光らせたあの男が歩みを進め、こちらへと来た。
まず、左隣のがっちりおじさんだ。
おい、てめぇ!
内蔵、腐ってんのか!?
生ゴミみたいなニオイ、させてんじゃねえよ!
この口かぁ!?
えぇ、この口なのかぁ!?
よく、こんなニオイをさせて、平気でいられるな!
普通なら卒倒してるぞ、こんなひでぇニオイ!
お前、もう、息を吐くな!
ずっと吸い続けてろ!
それに、この汗臭さもハンパねぇな、おい!
お前は悪臭のデパートか?
ファブリーズの風呂に入って、二度と出てくんな!
そして、小峠は、僕の前を無理矢理通って、右隣の肥満おじさんの元へ。
お〜い、このデブ!
てめぇ、イスからはみ出してんじゃねぇか!?
ブクブクブクブク太りやがって!
ライブよりライザップへ行きやがれ、この野郎!
ライブでも、新幹線でも、チケットは2人分、買いやがれ!
それに、何、ペンライトをくるくるくるくる回してんだ、あぁ!?
そんなに、くるくるくるくるしたいんなら、そのまま、くるくるくるくる回して、どこかへ飛んでいきゃあ良いだろうがよ!
そうすりゃあ、みんな、大喜びすんだよ!
中途半端にくるくるくるくる回してるから、目障りだってんだよ!
この、ブタ野郎!
小峠は、頭に汗を光らせて、既にゼェゼェ言っている。
僕は、前を通る小峠に酸素マスクを渡し、目で3列前のお兄ちゃん達の方へ行くように促した。
小峠は、酸素マスクを口元に当てながら、片手を上げて、それに応え、3列前へと移動した。
おい、てめぇら!
お前達だよ、おい!
ただでさえ、デケェんだよ!
後ろの奴らのこと、考えたこと、あるのかよ?
考えたことがあるんなら、これから、ずっと、空気椅子してやがれ!
まぁ、デケェのは、百歩譲ってやるけどよぉ…。
推しメンタオル、高けえんだよ!
推しメンタオルでも、うちわでも、スケッチブックでも、胸の高さまでなんだよ!
ただでさえデケェくせに、何、高々と掲げてやがるんでぇ!?
夏鈴ちゃんも、天ちゃんも、影ナレで、そう言ってただろが!
推しメンの言うことぐらい、ちゃんと聴いとけよ、おい!
ブラックリストにてめぇらの名前、書き込んでおいてやるからな!
気が付けば、スポットライトの一つが小峠を包み込み、小峠の頭が何より明るく発光している。
そこへ、スタッフ達が一斉に駆け寄り、小峠を、捕らえられた宇宙人の如く、引き摺り出していく。
僕の横を通り過ぎる時、僕が小峠に向けて、グッジョブ!と親指を突き立てると、心なしか、20歳ほど老け込んだ表情の小峠が薄っすらと笑みを浮かべた。
なんて日だ!
後方で魂の叫びが聞こえたかと思うと、もう、二度と、小峠の声を聞くことはなかった。
小峠に悪態の限りを浴びせられた面々は、居心地悪そうに身を縮め、大人しくなっていた。
せっかくのライブ、それぞれがそれぞれに楽しめば良いのだけれど、ルールを守り、周りへの配慮も忘れずに楽しんで欲しいものですね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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