グリース探し #備忘録
AR-15のバレルナットに塗布するかじり防止のグリースをタイで探していた。
神経質にさえならなければ、手に入る適当なグリースでもそれなりに用は果たす。とりわけ射撃頻度が少なく、どうせ短期間で分解・組み立てを繰り返であろうと考えれば、それほど拘る必要はない。
参考までに、一般的には(主に米国では)どんなグリースが使われているのか調べてみると、AeroShell 64(AeroShell 33MSと同等品)がポピュラーなようだ。
AeroShell 64とは、航空機用に開発された高性能な万能合成グリースです。優れた耐荷重性、摩耗、腐食保護性能を持ち、航空機メーカーの厳しい要求を満たしています。旧名称はAeroShellグリース33MSで、現行のAeroShellグリース33と互換性があります。リチウムコンプレックスと合成油をベースに、5%の二硫化モリブデンを含有しています。高い耐荷重性、優れた酸化安定性、耐腐食性を持ち、部品の寿命を延ばします。MIL-G-21164Dに完全に承認されています。
あまり拘る必要はないとわかっていても、流行を知ってしまうと使いたくなる…ミーハー根性丸出しである。
自身のこのような非合理的な拘りは、軽い強迫性障害の類なのではないかとも疑っている。
残念ながらタイで少量のAeroShell 64を入手するのは難しい。どこかで小分け販売されているかもしれないが、それらしき商品は見つからなかった。
ちなみに日本ならばUmbrella Corporationの1.4オンス(約40g)小分けパッケージが¥6,000前後で入手可能。14オンス(約400g)の正規品が¥9,800で購入できることを考えるとこれを購入すべきか微妙なところだ。
こんなとき同好サークル等に属していると、有益な情報が得られるのかもしれないが、日本人が気軽に参加できる銃器に関するコミュニティはほぼ皆無だろう。
AeroShell 64は諦めて代替品を探してみることにする。
その結果まずたどり着いたのがMobilのXHP 222、XHP 223だった。データシートによるとドロップポイントはどちらも290°Cとのことで好印象(ちなみにAeroShell 64のドロップポイントは234℃)。
グリースにおける「ドロップポイント(滴点)」とは、グリースを加熱した際に、定められた方法で測定すると、最初の一滴が滴下する温度のことです。グリースが軟化し始めて流動し始める温度であり、この温度を超えるとグリースとしての性能が失われるため、グリースを使用する上での目安となります。
XHP 222、XHP 223はLazadaやShopeeといったオンラインストアで小分け販売されていて、最小200gで115THB。
尚、XHP 222、XHP 223にはモリブデンが添加されていないようなので極圧性能・潤滑性能はAeroShell 64に劣るのかもしれないが、かじり防止が目的であればさほど支障はないと考える。XHP 222に硫化モリブデン(MoS₂)を約 0.75 wt%添加したXHP 222 SPECIALというラインナップもあるらしいがタイでは見かけない。
MoS₂皮膜の介在により、境界潤滑下では SPECIAL の方が焼付き抑制・初期なじみ・緊急潤滑に有利と判断できます。
ところで、AR-15のバレルが一体どれくらいの温度に達するのかを知っておく必要がある。連射ペースにより異なるが、概ね以下のようになるらしい(気温20℃の環境下)。
単発〜数発(ゆっくり撃つ):30〜50℃
短いバースト/競技ペース(例:10〜30発を短時間に):60〜150℃
持続的な速射(例:50〜200発を短時間で連続):150〜300℃
フルオート近い状態(長時間の高速連射):300〜500℃
高価な5.56mm弾を連射するようなことはないので、タイの猛暑を考慮しても、装填や姿勢調整などを挟みながらダラダラ撃つイメージで最大100℃と考えておけば問題ないだろう。
実は手元にAZのモリブデングリースがある(AZ DR790)。この製品の使用温度範囲は-25℃~+120℃とあるので、この製品でも問題はなさそうだ(記載はないが、ドロップポイントは200℃前後ではないかと思う)。
現実的な選択肢は、MobilのXHP 222、XHP 223か手持ちのAZ DR790となるのだが、なぜだかいまひとつピンとこない。折角なので、モリブデンが添加されていて、増ちょう剤がリチウム石けん基ではなく、耐熱性が高いリチウムコンプレックス系の製品を見つけたいという欲が出てくる。
リチウム石けん基グリースは、最も一般的で扱いやすい汎用タイプで、価格は安価で基本性能も十分だが、耐熱性は120℃前後と低く、高荷重部では油分離しやすいという弱点がある。一方、リチウムコンプレックスグリースは、石けん基に複合化処理を加えて耐熱・耐荷重性を大幅に高めた上位品で、150〜200℃以上の高温にも耐え、せん断安定性や耐水性に優れる。そのため強い締結力が必要な部位や高温にさらされる機械部にはより適している。実用面では、AR-15のバレルナットのような高面圧・高熱環境では、石けん基は性能が不足しやすく、トルク再現性や長期安定性にも不安が残る。対してリチウムコンプレックスは膜切れが起こりにくく、性能が安定するため、より信頼性の高い選択肢となる。
引き続きLazadaを探してみると、Siam Pan Group (SPG)のTRANEというブランドのSUPER MOLY GREASEというのが見つかる。この製品はAeroShell 64と同様にリチウムコンプレックス系の増ちょう剤が使用されていて、ドロップポイント 260°Cとのこと。もちろんモリブデンが添加されている。パッケージ容量500gで価格は200THBと手頃である。
候補としては有力だが、メーカーサイトを確認するとちょう度の異なるSUPER MOLY 2とSUPER MOLY 3が存在することがわかる。ところがLazadaやShopeeで販売されている製品には単にSUPER MOLYとだけ記載されていて、どちらの製品なのかわからないうえ、データシートも閲覧できない。
タイにいると、このような製品に対しては慎重になる。問題ないと思いたいが、あからさまに安価な製品だと、混ぜ物がしてあったり、偽物であることをつい疑ってしまう。
今まではグリースというワードで探していたが本来の目的に準じてアンチシーズ(Anti-seize)というワードで探してみると、デュポンのMOLYKOTE P-37という製品が目に留まった。
MOLYKOTE P-37は高純度鉱油と固体潤滑剤(グラファイトとジルコニウム酸化物)を用いたアンチシーズペーストとのことで、温度耐性が−30 °C ~ +1,400 °Cと非常に高い。成分がAeroShell 64とは異なるなるため、代替品というには違和感があり、さらにパッケージ容量が500gで2,500THBとお高いものの、性能面では申し分なさそうだ。
アンチシーズということでいえば、手持ちのLoctite C5-A(LB8008)でもよかったのかもしれないが、アルミレシーバーと銅の異種金属腐食(ガルバニック腐食)リスクは除外しておきたかった。
バレルナット用としてのMOLYKOTE P-37は高性能を活かしきれず、むしろ摩擦係数が低いぶんトルク管理に注意が必要になるだろうが、製造元の信頼性を重視し、MOLYKOTE P-37を購入することにした。
AR-15のバレルナットに塗布する潤滑剤として比較した場合、AeroShell64 は航空規格に基づいた信頼性の高いモリブデングリースで、温度域・防錆・摩擦係数のバランスが極めて良く、基準として最も扱いやすい存在です。SUPER MOLY は産業用の高荷重向けグリースで、成分構成も近く実用性能はほぼ同格。AeroShell64 が入手しにくい環境では十分な代用になります。一方で MOLYKOTE P-37 は超高温ボルト用の固体潤滑ペーストで、焼き付き防止性能や温度耐性では三者で最も高く、能力の上限値だけを見れば明確に勝っています。ただし AR-15 のバレルナットが直面する温度や荷重ではその高性能を活かしきれず、むしろ摩擦係数が低いぶんトルク管理に注意が必要になる場面もあります。結果として、実用面では AeroShell64 を基準として SUPER MOLY がほぼ同等、P-37 は性能余力が大きいもののオーバースペック気味という位置づけになります。
