「年下先輩」に質問に行くときの、脳内100メートル走
前回の記事で、新しい部署で年下に頭を下げる悔しさについて書いた。ありがたいことにたくさんの反応をいただき、「みんな表向きはポーカーフェイスだけど、腹の底では色んなものを飲み込んで戦っているんだな」と勝手に同志を得たような気持ちになっている。
さて、そんな私が日々直面するのが、「年下先輩に質問をしに行く」というミッションだ。
デスクあるいは在宅でマニュアルを見つめながら、どうしても分からない操作にぶち当たる。「よし、聞こう」と決意してから、実際に席を立つ、あるいはチャットを打つまでに、私の脳内ではとんでもない距離の助走が始まる。
「今、忙しそうかな?」
「以前、同じようなこと説明されたっけ……」
「今話しかけたら『またかよ』って思われないか?」
脳内のネガティブシミュレーションが100メートル走並みの猛スピードで駆け巡る。かつて営業の最前線で、数々の難攻不落なクライアントの懐に飛び込んできたあの度胸は、一体どこへログアウトしてしまったのだろう。
客観的に見れば、ただ50歳の男が席を立って数歩歩くか、キーボードを叩いて、「すみません、ここが分からなくて」と言うだけの、時間にしてわずか3秒のできごとだ。
しかし、私の中では、まるで国際宇宙ステーションにドッキングを試みる宇宙飛行士ばりの緊張感が漂っている。
意を決して席を立ち、30代の先輩に声をかける。
「すみません、ここなんですけど……」
「あ、オツテさん、そこはですね!」
先輩は驚くほど普通に、あっさりと教えてくれる。拍子抜けするほど優しい。私の脳内100メートル走は、完全なる一人相撲だったわけだ。
教えてもらった手順をメモしながら、小さく息を吐く。これはこれで結構疲れる。
しかし今日もまた一つ、自分のちっぽけなエゴを小脇に抱えて、なんとか前に進んだ。
プライドを捨てる練習は、いまだに毎回ちょっとだけ心臓に悪い。だけど、その3秒の緊張を乗り越えるたびに、私の「生存スキル」が少しずつアップデートされているのも事実だ。
