新刊チェック:2026年5月第1週分
ざっくばらんにできそうな企画なので、やっていこうと思います。今回は2026年5月第1週分の新刊チェック。といっても2日分しかありません。
新刊の発売日情報については楽天ブックスの発売日カレンダーを参照しました。作品の内容については基本的に公式サイトの紹介を引用しています。
カミーラ・シャムジー著・河内恵子訳『すべての石に宿る神』ハヤカワ・プラス
5月1日、早川書房より発売予定。早川書房の新レーベル、ハヤカワ・プラスから出るみたいです。ブッカー賞など海外の文学賞を受賞した外国文学を請け負うレーベルになるみたいです。
作者はカミーラ・シャムジー(1973-)。パキスタン出身で、現在は英語圏の作家として活躍しているそう。既存の邦訳は『帰りたい』(白水社)、『焦げついた影』(早川書房)の2作で、そのうち『帰りたい』(原題: Home Fire)の方は国際ブッカー賞のロングリストに残っていたみたいです。
早川書房の公式サイトによる説明は以下の通り。
第一次大戦と古代の謎。英国とインド、二つの国家に翻弄される男女を描いた傑作歴史小説
1914年、古代遺跡を発掘する英国女性ヴィヴィアンとパシュトゥーン人の兵士カイユム。ペシャワール行きの列車で出会った二人の運命は、15年後の反植民地闘争と古代の遺物を巡り交錯する。歴史の闇に埋もれた声を掘り起こす、女性小説賞受賞作家の心震える傑作
wikipediaに頼ってしまい申し訳ないのですが、「パシュトゥーン人」について調べると次のような説明が最初に出てきました。
パシュトゥーン人(パシュトー語: پښتون Paẍtun[男性]、پښتنه Paẍtana[女性])は、アフガニスタンとパキスタンに居住するイラン系民族である。
なるほど、主要な登場人物のひとりである「カイユム」は、現代でいうとアフガニスタンあるいはパキスタンの出身ということになりそうですね。作者がパキスタン生まれであることを鑑みれば、「カイユム」はパキスタン出身ではないか、という予想が立ちます。
ところで、早川書房の説明によると「英国とインド、二つの国家に翻弄される男女を描いた傑作歴史小説」とのことらしいですが、「カイユム」の出自を考えてみると、どうやらこの「インド」は現代のインドではなく、英領インドのことを指していそうです。
そして、ペシャワールもやはりパキスタンです。中村哲さんがインフラ整備・農場建設などを行った土地として聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
英領インドから独立した国というと、どうしてもインドが目立ってしまうわけですが、現在のパキスタンやバングラデシュ、ミャンマーに位置する地域でも、反植民地運動があったはず。反植民地運動だけではないでしょうが、そのことが「歴史の闇に埋もれた声」という公式サイトの説明にかかってきそうですね。
池澤春菜『台湾、お菓子の旅』
5月1日、主婦の友社より発売予定。声優として活躍しながら、小説・エッセイ等の創作活動にも精力的な池澤春菜のエッセイ、ということみたいです。主婦の友社の公式サイトを確認したのですが、内容説明にかんしては見つからず……。たぶん、台湾のお菓子について書かれたエッセイ・紀行文なのだろうと思われます。
さて、台湾×お菓子といって思い出すのは、やはり楊双子『台湾漫遊鉄道のふたり』ではないでしょうか。林芙美子がモデルとおぼしき日本人女性作家の千鶴子と台湾人通訳の千鶴との百合小説で、今年の国際ブッカー賞のショートリストにも入りました。発表が楽しみですね。
韓松著・山田和子訳『悪夢航路』
5月1日、早川書房より発売予定。韓松(1965-)は中国SF四天王のひとりらしいです。(他は劉慈欣、王晋康、何夕。)以前には同じく早川書房から『紅色海洋』という上下巻のゴツい小説が出ていたのが記憶に新しいですね。
公式サイトの説明は以下の通りでした。
中国四天王の一角・韓松による『無限病院』続篇
謎の病院に運び込まれた楊偉は、一夜にして数十歳も老い、巨大な病院船に閉じ込められていることに気づく。楊偉は自分と同様に老いてしまった患者たちとともに、船の真実を探るために船内を探索しはじめるが……。謎と不条理が渦巻く《医院》シリーズ第二弾!
この作品は『無限病院』の続編だそうなので、今度は『無限病院』のあらすじを引用してみましょう。
劉慈欣と並び称される“中国SF四天王”の一角、韓松ついに長篇邦訳なる
平凡な男・【楊偉/ヤン・ウェイ】は、出張先のC市のホテルでミネラルウォーターを飲んだところ腹痛で倒れ病院に連れ込まれる。そこは巨大で得体のしれない不気味な迷宮だった。『三体』著者劉慈欣も瞠目する、中国SF四天王の一角・韓松が放つ不条理SF《病院》三部作開幕篇
表紙絵がどうしてもホラーらしく見えてしまうのですが、どうやら病院を舞台にした不条理SFみたいですね。病院を舞台にした不条理小説と聞くと、安部公房『カンガルー・ノート』を思い出します。足にかいわれ大根が生えてしまった男の話で、こちらも病院が出てきます。医者にかかると、あれよあれよという間におかしな展開になっていって、やがて地獄めぐりの様相を呈していく……そんな小説でした。
さて、『悪夢航路』の話に戻りましょう。主人公は楊偉で、「一夜にして数十歳も老い、巨大な病院船に閉じ込められていることに気づ」いたそうです。一夜にして年老いてしまうというシチュエーションは、たしか中国の説話でも見たことがあるはずなのですが、記憶をたどってみても出てくるのは浦島太郎か『人間失格』ばかり。浦島太郎は言わずもがな。『人間失格』については「第三の手記」が以下のように終わることが有名かと思います。
ただ、一さいは過ぎて行きます。
自分はことし、二十七になります。白髪がめっきりふえたので、たいていの人から、四十以上に見られます。
こちらは、厳密にいえば、一夜にして年老いてしまったわけではないのですが、短期間で衰えてしまった例として、よく記憶に残っています。
次に気になるのは「病院船」というワード。作者がどう着想したのか、じつは中国にそうした実例があるのか、という点については不明ですが、患者の隔離という点において、たしかに病院と船は結びつきやすそうなモチーフですね。
日本において思い浮かぶのは、2020年のダイヤモンド・プリンセス号の事例でしょうか。ダイヤモンド・プリンセス号でCOVID-19の集団感染が起きたので、横浜港に客船を停泊させたまま、船内で感染者を非感染者から隔離したという事例です。コロナ禍も初期の頃であり、当時COVID-19は正体不明な感染症だったということを覚えています。ダイヤモンド・プリンセス号の一件を『悪夢航路』に引き付けて考えるのは不謹慎だと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、船内から出られない心細さと先行きの見えない不安を思えば、案外、本作の主人公と似たような心理状態にあったのかもしれない、という風に思えてきます。(あらすじを読んだ限り、ですが。)
ポール・リンチ著・栩木伸明訳『預言者の歌』ハヤカワ・プラス
5月1日、早川書房より発売予定。こちらは2023年にブッカー賞を受賞した作品として有名かと思います。ひとつ注釈を入れておくと、ブッカー賞は英語圏で出版された小説を対象に、国際ブッカー賞は英語に翻訳された小説を対象にしています。
ところで、まだ5月1日から抜け出せていませんね。それだけ本が出版されているということです。といっても、この本が最後です。
ポール・リンチ(1977-)はアイルランド生まれの作家で、先ほども申し上げた通り、2023年に本作でブッカー賞を受賞しました。邦訳はこれが初めてのはずです。アツいですね!
ブッカー賞受賞! 近未来アイルランド版『一九八四年』
近未来アイルランド。全体主義国家へと変貌を遂げていくなか、生物学の研究者で四人の子供の母でもあるエイリッシュは決断を迫られる。国家警察に連行された夫を待つか、子供たちを守るためカナダへと亡命するか。2023年ブッカー賞受賞の傑作ディストピア小説
「全体主義国家へと変貌を遂げていく」ということは、そのさなかで、政治的な闘争や内戦があったのではないかと容易に想像されます。近現代のアイルランドが平穏を享受できたのかといえば、まったくそんなことはなく、直近では20世紀の後半に北アイルランド紛争があったはずです。
この小説の舞台は近未来のアイルランドということですが、こうした歴史の記憶が作中に反映されていてもおかしくはないでしょう。そういった点でも注目していきたい作品です。
石井仁蔵『北京沸騰 天安門秘聞』
5月2日、KADOKAWAより発売予定。石井仁蔵(1984-)は、既刊を見る限り、チェスと近現代史を題材にした作品を書いているようです。特に『コンフィデンシャル・ゲーム』(講談社)は、チェス×近現代史という唯一無二の組み合わせの歴史エンタメ小説として注目されていました。(……と言いつつ、私は未読です。)その方から新刊が出るということなので、この記事でも紹介することにしました。
まずは作品紹介ページから見ていきましょう。
この国はどこに向かうのか。この国で俺たちはどう生きるべきか。
1989年。胡耀邦の死を受け、揺れる北京。失業中の勇強は、日本人記者・瀬見の現地ガイドを引き受けたことをきっかけに、民主化を求める学生たちと知り合う。初めは政治に関心のなかった勇強だったが、知人女性の失踪の謎を追ううち、共産党の暗部に触れ、やがて学生運動に参加するように。一方、勇強の幼馴染である若きエリート官僚・才敏は、保守派のスパイとして改革派のトップ・趙紫陽に接触していた。学生運動を煽り、趙紫陽の失脚を企む才敏だったが、やがて心境に変化が生まれはじめ――。
保守派、改革派、学生、第三勢力......それぞれの思惑が交錯しながら、中華人民共和国の建設以降、最大の騒擾〈天安門事件〉へと向かっていく。
天安門事件直前の中国を題材にした小説のようです。あらすじには作者が得意としてきたチェスのチェの字も出てきませんが、主人公・勇強の知人女性の失踪や勇強の幼馴染・才敏のスパイ活動といった要素を鑑みるに、この作品も駆け引きの要素が強いのかもしれません。
チェスではないものの、麻雀で重要な駆け引きをする場面が出てくるかもしれませんね。その点も楽しみなところです。
……ということで、長くなってしまったので、今回はここまで。次回は第2週(3日~9日)の新刊チェックです。
次回▼
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