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Light-up studio 029  まごしろうどの、かたじけない。  「鳥籠」 辻 征夫


 唐突に一人っきりになったような気分になることはありませんか? 朝、目覚めたとき、街を歩いているとき、友だちとしゃべっているとき……。

 ぼくにはあります。

 目覚めた時が多いかなぁ。孤独感とかそういうんじゃなく、ただ宇宙に一人っきりみたいな。世界が混沌としてしまって、その混沌のなかにいろんな人がいるのだけれど、そしてその人たちはぼくにとってとても大切な人で、ぼくを大事に思ってくれている人だってことはわかっているんだけれど、彼らもすべて混沌のなかに埋もれてしまって、ぼくとのつながりが見えなくなってしまっているような……状態。ま、人は寝ぼけているって言うけど。

 そんな気分になることはありませんか?

 ぼくにはあります。

 それが世界の常態だとぼくは思います。この世界は嵐の海のように寄る辺なく、普段感じているぼくと世界の繋がりなんてかりそめのものだと。もちろんぼくを取り巻く人々や小さな社会はあります。でもそれは嵐の海に浮かぶ蜃気楼の島くらいにしか思えません。ですから逆に、そのような関係性はいくつもの意味でとても有り難いものです。

 どうやって、ぼくはこのごった煮みたいな海を渡って、ここまで来ることができたのだろう? 殺すことも殺されることも、捕まることも病気に倒れることも、事件を起こすことも事件に巻き込まれることもなく、どうやってここまで生き延びることができたのだろう。

 運がよかった。しみじみ、それだけだと思います。

 もしかするといつか賽の河原の口寄せで出てきてくれたサイ婆ちゃん(母方の祖母)が、ここまでぼくを守ってくれたのかもしれません。とても自分だけの力で生きてこられたとは思えないのです。

 さて、今日の詩です。

「鳥籠」 辻 征夫
Light-up studio 029


 「からっぽのとりかご」を抱えて、野の果てに立つわたし。「からっぽのとりかご」には、鳥がいたのでしょうか? それともこれから鳥を捕らえようと思っているのでしょうか?

 抱えた「からっぽのとりかご」は、胸の位置にあります。

 わたしは「とてもひとりではかえれない」。もちろん前に進むこともできません。わたしはただ「こころぼそさにふるえて/ののはてに/たっていた」のです。

 混沌に震えるわたしたちのように。

 ひとりっきりになったぼくのように。

 「まごしろうどの」

 んっ? 誰? まごしろうどの、誰? 孫四郎殿?
 とりあえず、呼びかけですね。はい、そこにいる「まごしろうどの」に呼びかけます。でも、そこにいるの? まごしろうどの?

 「そのとき でした/わたくしのとりかごが/しずかにあかるくなったのは/ほら/わたあめ/のような/やわらかい」

 「まごしろうどのの ひとだまです」

 まっくらなののなかで、そこだけぼんやりと光る「わたしのとりかご」。  
 私の胸のあたりにしずかに明るく、綿あめのように柔らかい光が生まれます。

 自分の周りが少しだけ見えるようになりました。もちろん、それはわたしの力ではありません。それは「まごしろうどのの ひとだま」の力です。「ごしろうどのの」魂の光の力、です。

 「まびしろうどの」! そなたは死してなお、わたしの道を照らす灯りになってくださるのか!! ありがたいぞ。ありがたいぞ!

 で、まごしろうどの、そなたは誰じゃ?

 まごしろうどの、そなたはサイ婆ちゃんか? それとも今のわたしより若い歳で亡くなった我が父か? 先日旅立った母か? もしかしてMか? 別れすらできぬ間にいなくなったMなのか?

 自分の近くには誰もいないと嘆きたくなった時、どこからともなくやってくるたくさんの「ひとだま」たち。

 とつぜん気がつくのだ。「どこからともなくやって」来たのではない。いつもここに、ずっとぼくのそばにいたことに。

 ぼくはひとりぼっちになってはじめて気がついたのだ、まごしろうどの。生きていく日々に静かに寄り添ってくれたおぬしに。ともに過ごしてくれた多くのたましいに。道を照らしてくれていたたくさんの先達に。

   わたくしは
   そなたのむごんに はげまされ
   ののはてから そろりと
   あゆみはじめたのでした
   ほのぼのと あかるい
   とりかごかかえて


 わたくしも いつか たれかの まごしろうどのに なれるでしょうか

 たれかの とりかごを ほのぼのと あかるませる ことができるでしょうか

 あなたを わたあめのような やわらかさで つつむ ことができるでしょうか

 わたくしも あなたを とりまくひとだまの ひとつに なりたいのです



  鳥籠
           辻 征夫

なぜか
からっぽのとりかごかかえて
ののはてに
たっていた

このまっくらな
のをよこぎって
とてもわたくしはひとりではかえれない
こころぼそさにふるえて
ののはてに
たっていた

まごしろうどの
そのとき でした
わたくしのとりかごが
しずかにあかるくなったのは
ほら
わたあめ
のような
やわらかい
まごしろうどのの ひとだまです

わたくしは
そなたのむごんに はげまされ
ののはてから そろりと
あゆみはじめたのでした
ほのぼのと あかるい
とりかごかかえて

Light-up studio 029





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