【人生の栞・葉】#04 同じ手、違う記憶 —— 雨の日のゲームセンターで
こんにちは、てるてるです。
私には、無意識に避けている場所がありました。
休日、雨が降るたびに「どこへ行こうか」と悩んでも、選択肢に決して入れなかった場所。
それは、街のあちこちにあるゲームセンターです。
そこは私にとって、楽しさの象徴ではなく、今は亡き父との「矛盾した記憶」をそっと閉じ込めておいた、鍵をかけたままの場所でした。
娘の願いと、重い腰
小学2年生と2歳の娘たちは、あり余る体力の塊です。
雨の日ともなれば、家の中は嵐のよう。
そんな時、長女が羨ましそうに切り出しました。
「ママ、お友達が行ったんだって。私もクレーンゲーム、やってみたいな」
かつて私を殴り、蹴り、けれど時折、不器用に遊びに連れ出してくれた父。
父との思い出が詰まったあの空間に足を踏み入れるのは、今の私にはまだ少し勇気が要ることでした。
けれど、娘には私の過去は関係ありません。
「……よし、行ってみようか」
私は自分に言い聞かせるようにして、新しくできたゲームセンターの自動ドアをくぐりました。
人形を獲る手、殴る手
色鮮やかな光と、賑やかな電子音。
娘と一緒にクレーンゲームの前に立ち、レバーを操る姿を眺めていると、ふいに20年以上前の景色が重なりました。
父も、こうして私の隣に立っていた。
私が欲しがった人形を、真剣な目つきで狙ってくれていた。
コトン、と軽い音を立てて、紫色のキャラクター「クロミちゃん」のぬいぐるみが落ちました。
幸運にも、数回のトライで手にすることができたのです。
その瞬間、抑えていた感情が溢れ、涙が頬を伝いました。
(お父さんのあの手も、こうして私のために人形を獲ってくれたんだな)
私を傷つけた手と、私を喜ばせようとした手。
それは間違いなく、同じ一つの手でした。
その残酷なまでの重なりが、涙となって止まらなくなったのです。
「クロミちゃん、大好きだから」
「ママ、そんなに嬉しいの? 泣くほど?」
不思議そうに覗き込む娘に、私は慌てて涙を拭いました。
「うん、めちゃめちゃ嬉しい。ママね、クロミちゃん大好きなの」
嘘ではありません。
でも、私が抱きしめていたのは、ぬいぐるみだけではありませんでした。
かつて父に愛されたかった私自身を、そして、父が不器用なりに注いでくれた「愛の断片」を、今の私がようやく抱きしめることができた気がしたのです。
20年越しの「お疲れさま」
クロミちゃんを抱えて帰る道すがら、ふと思いました。
父は休みの日、私たち3人の娘を連れて、よくワンオペでゲームセンターへ連れて行ってくれました。
実家に預けることもできたはずなのに、あえて自分1人で幼い娘たちを引き受けていたのです。
自分が親になってみて、初めて分かります。
「娘3人連れのワンオペ外出」が、どれほどエネルギーの要る、すごいことだったか。
あんなに憎み、避けてきたゲームセンター。
けれど今日、娘のおかげで、私は父の「父としての奮闘」を思い出すことができました。
旅のおわりに
「ゲームセンター、案外楽しかったね」
そう笑い合う娘たちの横顔を見ながら、私の中の古い記憶が、少しだけ優しい色に塗り替えられていくのを感じました。
お父さん、あの時はワンオペ育児、お疲れさま。
そして、あの時とってくれた人形、本当はすごく嬉しかったよ。
雨の日のゲームセンターは、もう避ける場所ではなくなりました。
これからは、娘たちの笑顔と一緒に、新しい思い出を積み重ねていく。
それが、私なりの「話し直し」の続きなのかもしれません。
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