5分SF|さぶいぼ
あと30分。
腹の奥が、きゅっと縮んだ。
嫌な感じがした。
まだ大丈夫や。
そう思った直後、2発目が来た。
腹の底を内側から握られ、そのままゆっくり捻られる。
まずい。
この特急には途中の停車駅がない。そして、トイレもない。
イヤホンからAIの声がした。
「体調の変化を検知しました。症状を教えてください」
トイレに行きたい。今すぐ。
「承知しました。次の停車駅まで、あと30分です」
30分か。気ぃ紛らわせてたら、なんとかなるか。
「まず呼吸を整えましょう。鼻から4秒吸って、口から8秒吐いてください」
吸う。
1、2、3、4。
吐く。
1、2、3、4、5——
来た。
腹の奥で何かが一気に下へ押し寄せる。
太腿を閉じる。尻に力を入れる。座席の端を握る。
「姿勢を変えます。上体を少し前へ倒してください」
マイケルばりに前に倒れた。
隣の女性がこちらを見る。
見るな。
今は俺を社会の一員として認識せんとってくれ。
「腹部の力を抜いてください」
抜いたら終わる。
「左の腰骨の内側を親指で押してください」
ここ?
「もう少し下です」
ここか?
「少し内側です」
どこやねん。
また波が来た。
頼む。
腸か、神か、次の駅か。
何に頼んでいるのかも分からへん。
「意識を別の対象へ移します。100から7ずつ引いてください」
93。
「さらに7を」
86。
「さらに7を」
79。
無理。
頭が働かへん。
「では、しりとりをしましょう。私から始めます。りんご」
ごぼう。
「うなぎ」
ぎゅうにゅう。
「うどん」
食べ物ばっかりやめろや。
「失礼しました。では——」
列車が大きく揺れた。
急ブレーキ。
体が前に投げ出される。
反射的に足を踏ん張った。
腹に力が入る。尻まで一緒に締まる。
全身が硬直した。
終わった。
そう思った。
数秒後。
恐る恐る息を吐く。
……耐えた。
耐えた。
まだ大丈夫や。
危なかった。
本当に危なかった。
心臓が馬鹿みたいに鳴っている。
呼吸をして、姿勢を変えて、ツボを探して、暗算して、しりとりまでした。何度も終わりかけた。もう10分、いや15分くらい経ったはずだ。
俺は震える声で聞いた。
「……次の駅まで、あと何分?」
AIが答えた。
「あと29分です」
時計を見る。
もう1度見る。
さっきから、
1分しか経っていなかった。
全身にさぶいぼが立った。
5分SF
今日より少し先の未来を、5分以内で。
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参加企画:よしまるさん「#さぶいぼ選手権」
