サロン楽屋話060:イチローの美学は尊い。でも、あなたの事情もまた尊い──泣きたい時こそ、「膝に手をつく自由」を
ダッシュ後の「膝に手をつく前屈み」はかっこ悪い? とはいえ、呼吸も心拍も早く整うデータがある。イチローの美学は尊いが、みんながみんな同じである必要はない。泣いている人へハンカチを押しつければ、思いやりは「否定」に変わる。リカバリーにも、その人だけの事情がある。涙の乾き方だって、人それぞれ。
▶しんどさには、その人の「事情」がある
ダッシュのあと、その場ですぐに立ち止まるよりは、軽く走ったり歩いたりしたほうが、呼吸を整えやすい効果は経験的に分かる。
とはいえ、それも時と場合によるでしょう。
https://www.youtube.com/shorts/BxipWOKtSpA
「膝に手をつく前屈み」は、かっこ悪いという。
▶身体の反応は、嘘をつかない
暗ければ瞳孔が開き、熱ければ汗をかく。
身体は、環境や状況に応じたふさわしい反応をします。
全力疾走したあと、「膝に手をつく前屈み」が定番なのは、それが人にとって「ふさわしい」からかもしれません。
症状や反応は、精緻な身体によるシグナル(関連記事「体は精緻。そのシグナルを役立ててアクションを妨げない」)。
「そうなる理由」があると思うのです。
▶「疲れて見える姿勢」にも、救われる理由がある
スムーズなリカバリーを叶える。
アメリカで行われた運動生理学に基づく下記の研究報告。
Bunker, S., Dolmage, T. E., Neder, J. A., & O'Donnell, D. E. (2019).
“Bending forward improves dyspnea and ventilation in athletes after maximal exercise.”
最大運動後のアスリートを対象とした研究によると、前屈姿勢は呼吸に必要な筋肉への負担を減らし、酸素摂取効率を上げる効果があるとのこと。
「膝に手をつく前屈み」は、胸を張って立つよりも、呼吸数と心拍数が早く落ち着くと示唆されます。
つまり「疲れてるように見える姿勢」のほうが、回復が早い。
上体を支える筋肉の負担を減らし、呼吸にエネルギーを配分。
酸素を取り込む効率を上げる工夫になっているといいます。
▶強がりより、回復がパフォーマンスをつくる
テニスでは、どうでしょうか?
サイドチェンジで選手がベンチに座るのは、かっこ悪いでしょうか?
もちろん、ルールではないから立ったままでもいいけれど、合理的かつ総合的な理由により、座ります。
初心者は、ベンチを素通りしても涼しい顔して平気なのは、ラリーが続かなくて疲れないから。
一方プロは、ショートダッシュ&ストップ&切り返し、時にジャンプも激しく繰り返すから、へとへとになるのです(関連記事「テニスは初心者ほど「涼しい顔」をしている」)。
ベンチで休むのは、回復して、次のゲームでパフォーマンスを高めるのが狙い。
それと同じように「膝に手をつく前屈み」は、次のダッシュで可及的に高い走力を発揮するための合理的な理由だったりするのではないでしょうか?
▶分かった「フリ」より、分からない「誠実」
先に断っておくと、これは何もいたずらにイチローを悪く言いたい記事ではありません。
むしろリスペクトしているからこそ、言えること。
「こんな批判・反論ごときで怒るイチローの器ではない」思いだからです。
分かってもいないのに、「分かる分かる~」などと言って分かった「フリ」して、相手を立て、取り入ろうとする姿勢がディスリスペクト。
「その程度の人だ」という相手に対する軽んじた思いが、透けて見えます。
▶ディスリスペクトは見透かされている
うーん、誠実ではない。
フリをする自己否定と、欺こうとする他者否定の、二重の効果で自己肯定感を下げるのです。
取り入ろうとしてへつらう人は、往々にして嫌われるでしょう。
それはディスリスぺクトの姿勢が、(本人は気を遣っているつもりなのに)周りの人には見透かされるから。
ただ、「膝に手をつく前屈み」に期待できる法則的な可能性も、あるかもしれない。
イチローだって、「みんなが自分と同じであるべき」なんて、これっぽっちも思っていない。
それについては後述します。
ここから先は
スポーツ教育にはびこる「フォーム指導」のあり方を是正し、「イメージ」と「集中力」を以ってドラマチックな上達を図る情報提供。従来のウェブ版を改め、最新の研究成果を大幅に加筆した「note版アップデートエディション」です 。https://twitter.com/tenniszero
