俺があいつで、君はあの子で、あなたは誰で、ここはどこ。

14年前
天豆(18歳)
小豆(18歳)


橘さん(32歳)
たまみ(24歳)
僕(31歳)


天豆エッセイ詩小説

第18話  俺があいつで、君はあの子で、あなたは誰で、ここはどこ。


目が覚めると病室だった。

首の付け根が重い。

真っ白な天井をぼんやり見つめる。

「目、覚ましたみたい」

声が聴こえる。

女性の声だ。

わずかに首を動かす。

2人の女の人がこちらを見ている。

誰?

1人は見覚えがない。

もう1人は……

眼鏡をかけた楊端和(ようたんわ)に似てる……

どうして?

私はここにいて、傍らに彼女たちがいる。

脳裏に紀伊国屋書店の天井の染みが浮かんだ。

ああ、そうか、飛ばされたのか。

「すみません、こんなことになってしまって……」

たまみが申し訳なさそうに言った。

「あなたのこと、橘さんのストーカーだと勘違いしてしまって」

起き上がろうとするが、身体が動かない。

「橘さん?」

眼鏡の女性は、橘さんって言うんだ。

奥に医者らしき男がいて、一言呟いて去っていった。

「軽い脳震盪で良かった。今日一日様子を見て、明日には退院できるでしょう」

このたまみって子に突き飛ばされたのか。でもなんで……。

疑問が頭に巡りながらも、全く働かない。

たまみがおずおずと口走る。

「あの時、どうして橘さんのことをじっと見つめていたんですか?」

「えっと……知り合いに似ている人がいて……」

「そうではありませんよね」

橘さんが初めて口を開いた。

「え?」

「あなたとどこかで会ったような気がします」

「い、いや……」

電車で隣り合っただけ。それを知っていると言うのだろうか。

橘さんの目が鋭い。眼鏡の奥の眼光が光る。

瞳に吸い寄せられて、そして脳裏に1人の少女の顔が浮かんだ。

「あ、小豆?」

ハッとする橘さん。

顔色を変えるあゆみ。

「なんであなたが橘さんの名前を知ってるの?」

「そ、それは……夢で」

「夢?」

「2週間前くらいから夜に変な夢を見るんだ。そこで小豆という女の子に出会った。その子の目があなたにそっくりで」

「その夢であなたは何て呼ばれてた?」

顔色も変えぬまま、橘さんが言う。

「えっと……たしか……て、天豆」

橘さんの目が動揺する。

「そんなことがあるなんて……」

あゆみは橘さんに向かって

「天豆って知ってるんですか?」

「私の恋人だった人。でも、今はもういない」

「ど、どういうこと?」

「たぶんそれは夢じゃない。あなたが天豆になっていたあの時を私は憶えてる。当時、天豆君はお母さんを亡くした後、事故があってしばらく入院していたの。それがある時、大学の図書館で私の前に現れた。いつもの天豆君では無かった。私の記憶さえ無かった。その後、暫く一緒に過ごした後、天豆君は消えた」

「消えた?」

「病院の屋上から飛び降りたの」

「え……」

「私はこう思うの。あなたが14年前の天豆君に乗り移っていた時間の後、あなたは元の世界に戻り、そして天豆君は空(から)になってしまった。元の記憶を失った彼になって病院に戻ったの」

僕もたまみも言葉が出ない。

「警察はすぐ自殺と断定したわ。精神病棟ではよくあることだから。でも、私はずっと誰かに殺されたのではないかって思っていた。彼は入院する前にお母さんの死の疑惑を追っていて、ある時、彼は誰かに襲われて、雨の中で倒れていたの。そこで彼は記憶を失くしたまま入院した。私は、その襲った誰かがもう一度彼を狙ったんだと思う。あなたが乗り移った彼を見かけ、もう一度襲いに来て彼を屋上から突き落とした」

「いったい何を言っているのか……」

「あなたは14年前の私の彼、天豆君の意識に入り込んだんだと思う。良く映画で過去の自分に戻る話があるでしょう。でもこれは、他人であるあなたが他人の14年前の意識に乗り移ってるんだと思う」

「そ、そ、そんなことって、面白い!」

たまみの目は輝いている。

橘小豆は僕の手をギュッと握った。

「お願い、もう一度20年前の彼に乗り移って彼を救ってほしい。彼を襲った犯人をあなたが止めてほしい。お願い、そうすれば、彼は今でも生き続けているはず」

「い、いや、そんな……」

「たしかあなたは2週間前、電車で隣り合った人ですよね。それは憶えているの。あの日、天豆君の命日だった。私は電車で眠ってしまって彼の夢を見ていた。気づくとあなたの肩で眠っていた。きっと私の念があなたに乗り移り……そして、あなたを過去に送った」

「だとしても、そんな戻ろうとして戻れるかなんてわからないよ」

「私も橘さんの14年前に一緒に行ってみたい」

たまみが言い放つ。

「だってこの見知らぬおっさんが行けたなら私だって可能性あるでしょ。それに橘さんだって自分自身の過去に戻れる可能性だって。だから3人で戻って天豆君を救うのよ! そして天豆君のお母さんが亡くなった謎を私たちで解き明かすの」

「でもいつ戻れるかなんて、いつ夢を見るかなんてわからないけど……」

「実は、私も昔一度だけ、過去に戻ったことがあるの。それ以来、何度も試したけど無理だった。でもカギは私とあなたの脳波のシンクロにあると思う。電車の中での出会いがきっかけになったように……私の家に脳波をシンクロさせる機械があるわ。それで試してみましょう。医者も大丈夫って言ってるのだから、今晩、私の家に一緒に来て」

「今晩?」

妻には何て説明すればいいのだろう。

天豆君を救う旅に出ることを

つづく

天豆エッセイ詩小説

第18話  俺があいつで、君はあの子で、あなたは誰で、ここはどこ。

いいなと思ったら応援しよう!

天豆 てんまめ もし、私を応援してくださる方がおられましたら、サポートしていただけるととても励みになります☆彡 いただいたものは、クリエイター活動で使わせていただきます!