あの夜、突然消えた優子を僕は決して忘れない。
表参道にあずきと向かう途中
先週の出来事をふと思い出した。
あの夜、優子が逃げた。
うだるような蒸し暑い夜だった。
一言の別れの言葉も言わず消えてしまった優子。
彼女は息子が大切にしていたカブトムシだ。
息子はなぜかカブトムシに優子と名をつけた。
オスなのに。
せめてAIKOにしてほしかった。
きっと蓋がしっかりとはまっていなかったのだ。
彼女に夕食(一口フルーツゼリーみたいな奴)をあげようと近づいたら
蓋がずれて開いていて、嫌な予感がした。
腐葉土の中を探ったのだが、中にもいない。
(彼女はよく土にもぐって寝ているから)
明日、息子は帰ってくる。
それまでに探さなければ。。。
家は閉め切っていたから家の中にいるはずだ。
ソファの下。
テレビの裏。
台所まわり。
どこだ。
どこだ。
間違って踏んじゃったらどうしよう。
ベッドで寝返りを打つのもためらわれる。
私は生き物を買うのにあんまり慣れていない。
幼少時は実家で猫4匹と犬と住んでいたけど
大人になってからは動物買えないマンションに住んでいたし。
でも我が家の一員となった優子には息子が愛情を注いでいたし
私もつられてよく優子を眺めていた。
私は優子の艶やかな背筋の光沢が好きだった。
そこにはなぜかそこはかとない愁いを感じた。
エッセイを執筆している間も気になると覗いていて
以前、見当たらなかった優子を妻と息子と家中を探したあげく、
結局、腐葉土の中の端っこにいてほっとしたことがあった。
妻からは「あんまりカブトムシに振り回されるな!」と言われていたけど、
妻はきっと優子に嫉妬していたんだと思う。
私と妻と優子の繊細なトライアングル。
結構、愛着が沸いていたんだ。
甘い匂いに誘われたあたしもかぶとむし?
ああ、どこにいったんだよ、優子。
ごめんよ、眠っている時につついたりして
でも君の事が好きだったんだ。
いつでも捜しているよ どっかに君の姿を
向いの廊下 薄汚れた窓枠
こんなとこにいるはずもないのに
いつでも捜しているよ どっかに君の姿を
洗濯機の裏 換気扇の狭間に
こんなとこにいるはずもないのに
奇跡がもしも起こるなら 今すぐ君に見せたい
新しい朝 これからの僕
言えなかった「好き」という言葉も
夏の想い出がまわる ふいに消えた鼓動
命が繰り返すならば 何度も君のもとへ
欲しいものなど もう何もない
君のほかに大切なものなど
私はいつの間にか優子探しを諦めて
山崎まさよしの歌声に浸っていた。。
カブトムシってどれくらい生きるんだろう。
冬も越せるかな、って思っていたのに。。
息をひそめ、耳をすませばきっと
カサコソカサコソという微かな、、
ほんの微かな音の響きが聞こえるはずだ。
少し癖のあるあなたの声 耳を傾け
深い安らぎ酔いしれるあたしもかぶとむし?
琥珀の弓張り月 息切れすら覚える鼓動
生涯忘れることはないでしょう♪
生涯忘れることはないでしょう♪
私はまたしても優子探しを諦めて
aikoの歌声に浸っていた。。
いやいやいやいや、諦めちゃダメー🙅♂️
明日までに見つけなければ。
明日までに。
それとも公園行って木に登り別のカブトムシを見つけるか。
近所の子供を買収して、一匹貰うか。
私の気持ちはどちらかというとそっちにシフトしていた。
君へつないだ心の糸は 今 プツリと切れた
おー優子 君の名を呼べば 僕はせつないよ
やさしさはいつも僕の前で カラカラ から回り
おー優子 君の名を呼べば 僕は悲しいよ
だから 心のドアを ノックしないで
ノックしないで
ノックしないで
ねえ!
ノックしないで、、って、え?
かなり強い肩への衝撃で振り向いた。
さっきから叩いてるのに全然気づかないし!
あれ、優子?
誰よ、優子って!
ついたよ、青葉おばさんのスタジオ
表参道の交差点で私は立ち尽くした。
聳え立つ薄いグリーンのファッションビル。
たぶんここには優子はいないと思う。
いや、ぜったい優子はいないと思う。
空を見上げたら微かにはためく
優子の羽音が聴こえた気がした。
エッセイ詩小説⑥
あの夜、突然消えた優子を僕は決して忘れない。
前のお話は
やがて哀しきコーンフレイクやないかい🥣
次のお話は
あなたも私も 気分によって 僕は春樹で 俺は龍
だよ😍
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