肯定も否定もあざなえる縄のごとく、今日もいい日和だ。

天豆エッセイ詩小説16

肯定も否定もあざなえる縄のごとく、今日もいい日和だ。


今日は祝日だけど、特に何もしなかったな。

あ、彼女と本屋に行ったんだっけ。

本、買わなかったけど。

たしか、あの時、こんなこと話してた。

「何、読んでるの?」

「ううん、別に……」

彼女はそう言って、棚に本を戻した。

『自己肯定感の教科書』?

そんな本、読んでるんだ。

いつからだろう、世の中で、自己肯定感という言葉をよく耳にすることになったのは。

自己肯定感……。

自己を肯定する感覚の事かな。

「私、自己肯定感低いからさー」

そんな言葉を口にする人は多い。

「恵って、自己肯定感高い方じゃない?」

「そんなことないよー、私めっちゃ低いよ」

「そうかな……」

「そうだよ、だって、昨日も仕事で伝票ミスしちゃって、上司に叱られて、あー、私って、いつまでたっても同じようなことやらかして注意されるんだって、なんかショックってゆうか、自分に呆れちゃったよ」

「そっか……でも、恵は頑張ってると思うけどな」

「そう? 悠君が言うなら、別にいいや」

いや……めっちゃ、立ち直り速い。てゆうか、自己肯定感高いのじゃないだろうか。

むしろ、何度同じ失敗しても、秒で立ち直れるその性格が、反省なき失敗を繰り返すのではなかろうか……と思ったけど、もちろんそんなことは彼女には言わない。

自己肯定感か……。

僕はどうだろう。

高いのか、低いのか。

まあ、高くはないか。

何か新しい事をやろうとすると、いつも失敗した自分が目に浮かぶ。

それはもう思考パターンになってるような気がする。

で、ぐずぐずして決断を先延ばしにして、あー、俺ってダメだー、と思う。

でも、どこかで開き直って、やる。

あ、そうだ。

去年、会社辞めた同期の山田は遅刻はするし、仕事もできなくて、毎日のように課長に怒られてた。でも、やけに明るかった。

クビになりそうになっても、「ま、俺、モッてるから」って。

その半年後に、山田は閉鎖寸前の支店に出向になった。

部署の送別会で、「俺、逆境って燃えるんだよね」って言ってた。

何を彼はモッていたのだろう……。

でも、自己肯定感たけー。

他者からの評価が最低値だとしても、

自身に対する評価が揺るがない男。

俺は俺だ。誰が何といおうと俺だ。

そんな感覚なのだろうか。

羨ましいな、少し。

いやぁ、無理だわ、そんなの。

まあ、自分なりのベストを尽くすしかないよな。

自己肯定感が高かろうが、低かろうが、開き直って、やる。

まあ、目の前の現実を生きていくには、結局、そうするしかないか。

現実がままならない時に、無理に自己肯定感高めるのも何だか嘘くさいもの。

やれない自己を肯定する。

やらない自己を肯定する。

モテない自己を肯定する。

ミスした自己を肯定する。

そんなの意味ないもんな。

人からの評価じゃなくて、自分が自分なりに頑張ったことを、

「よくやったじゃん」って、自分を肯定してみる。

なんか手痛いやらかしをしたら、いったん、ガーンってへこんでから

ま、また頑張るかって、むくって立ち上がって、会社に向かう。

自己をいったんは否定しちゃうかもだけど、起き上がり人形みたいに、

何度でも立ち上がればいい。

根本からは自分を否定しない。

だから自分はそんな自分の人生を肯定したいな。

「悠君、どうしたの? ぼーっとして」

「ううん、何でもない」

この本は僕も買わなくていいや。

明日、また、仕事がんばろ。

「悠君、今日、鍋にしない?」

「いいねー、何か寒いしね」

恵は、仕事のことなんて、今、1秒も思い出してない。

そんな満面の笑みだ。

自己肯定感たけー。

もうすぐ、春だ。


天豆エッセイ詩小説16

肯定も否定もあざなえる縄のごとく、今日もいい日和だ。



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