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富士ゼロックス3500――俺のCE/SE人生は、この機械から始まった


息子よ。

今日はな、古いコピー機の話をしよう。

富士ゼロックス3500。

1978年、昭和53年に発売されたコピー機だ。

今の人が見れば、ただの古いコピー機だろう。

カラーじゃない。

スキャナーもない。

FAXもない。

ネットワークもない。

PDFにもならない。

できることは、ただ一つ。

原稿を置いて、コピーする。

それだけだ。

だがな。

俺にとって3500は、数ある富士ゼロックスのコピー機の中でも特別な一台なんだ。

なぜなら、

俺が富士ゼロックスに入社して、初めて本格的に学んだ機種が、この3500だったからだ。


三鷹寮から新宿へ

当時、俺はまだ右も左も分からない新人だった。

三鷹にあった寮に入り、そこから毎日、研修所のある新宿まで電車で通った。

そして始まったのが、

約3か月間にわたる長期研修だ。

3か月だぞ。

今なら新人研修にそこまで時間をかける会社が、どれだけあるだろう。

だが当時の富士ゼロックスは、それだけの時間をかけてCEを育てた。

何しろ俺は新人だ。

コピー機のことなんて、まだ何も分からない。

そんな人間に3500を前にして、

機械構造。

電気。

ゼログラフィー。

調整。

故障診断。

そして実際の保守。

徹底的に叩き込んでいく。

戸惑ったよ。

当然だ。

同期にもずいぶん助けてもらった。

それで何とか研修をクリアした。

もっとも成績は、

下から2番目。

いわゆる、

ブービー賞だ。

ハハハ。

今だから笑って言える。

だがな、勝負はここからなんだよ。


CEはフィールドで育つ

研修を終えれば、それぞれが各地のフィールドへ出ていく。

そこで本物の機械を相手にする。

研修所の3500は黙って待っていてくれる。

だが、お客様のところにある3500は違う。

「コピーできないんだけど」

「急いでるんだけど」

「会議が始まるんだけど」

そんな状況で故障している。

そこには講師はいない。

同期もいない。

最後は自分で直さなければならない。

だから面白いものでな。

研修所ではブービーだった奴でも、フィールドへ出て実機と格闘しているうちに変わっていく。

失敗する。

考える。

先輩に聞く。

また失敗する。

そして、ある日突然、

機械の動きが頭の中でつながる瞬間が来る。

CEというのは、そうやって育っていくんだ。


あの研修は、本当に凄かった

息子よ。

俺は今でも思っている。

あそこで受けた研修は、最高の研修だった。

単に3500の修理方法を覚えさせる研修じゃないんだ。

「故障したら、この部品を交換しろ」

そんな教育ではない。

もっと根本的なものだった。

どう考えれば原因にたどり着けるのか。

これを徹底的に教えられた。

特に凄かったのが、

トラブルシューティングの手法だ。

これが、ものすごく論理的だった。


アイテムが1億個あっても関係ない

故障の原因になり得るアイテムが10個あるとする。

100個でもいい。

1万個でもいい。

極端な話、

1億個あったって関係ない。

正しい手順で切り分けていけばいい。

正常なのか。

異常なのか。

ここまでは正しいのか。

では、その先なのか。

条件を一つずつ確認して、可能性を消していく。

闇雲に部品を交換するんじゃない。

勘だけで追いかけるんでもない。

現象を確認する。

仮説を立てる。

切り分ける。

確認する。

また切り分ける。

それを繰り返していけば、

最後には必ず原因に行き着く。

これを俺は3500の研修で叩き込まれた。

そしてな。

これはコピー機だけの話じゃなかった。


45年以上たった今でも使っている

俺が後にコンピューターを扱うようになっても、この考え方はまったく変わらなかった。

パソコンが起動しない。

ネットワークにつながらない。

サーバーにアクセスできない。

プリンターから出ない。

ソフトが動かない。

症状は違う。

時代も違う。

機械も違う。

だが、

トラブルシューティングの本質は同じなんだ。

どこまで正常なのか。

どこから異常なのか。

原因になり得るものは何か。

一つずつ切り分ける。

だから俺は今でも、仕事でトラブルにぶつかると、あの頃に教えられた考え方を使っている。

1978年のコピー機を直すために覚えた方法が、45年以上たった今、コンピューターやネットワークのトラブルを解決するために生きている。

そう考えると凄いだろう。

技術を教わったんじゃない。
考え方を教わったんだ。

だから古くならないんだよ。


「白紙に配線図を全部書け」

そういえば、今でも忘れられないカリキュラムがある。

ある日、白紙を渡される。

そして言われるんだ。

「3500の配線図を、記憶だけで全部書け」

おいおい。

冗談だろ。

今ならそう思う。

だが、冗談じゃない。

本当に書かされる。

回路を覚えて、白紙の上に再現する。

当然、

「そんなもの全部覚える必要があるのか?」

と思う。

すると返ってくる言葉は、だいたいこんなものだ。

「この程度のことが普通にできなければ、お前らはフィールドで保守なんかできないぞ」

無茶苦茶だ。

理不尽だ。

今なら笑い話だよ。

だが当時は笑えない。

必死になって覚えた。

同期同士で教え合った。

そして白紙を前にして、頭の中に3500を組み立てていった。


今になって分かる

でもな、息子よ。

今になって思うんだ。

あれは単なる暗記試験じゃなかったんじゃないか、と。

配線図を丸暗記すること自体が目的ではない。

機械全体を頭の中に入れろ。

そういう教育だったんじゃないか。

ここに電気が来る。

ここで信号が変わる。

それによってクラッチが動く。

モーターが回る。

紙が送られる。

ドラムが回る。

画像が作られる。

機械の中で起きていることを頭の中で追えるようにする。

そうなれば、故障したとき、

「ここまでは動いている」

「だったら原因はこの先だ」

と考えられる。

あの白紙の配線図も、結局はトラブルシューティングにつながっていたんだと思う。


3500は「コピー機」ではなく、俺の教科書だった


富士フイルムビジネスイノベーションホームページより。画像ちっさ。

3500はA4で毎分40枚。

当時としては、小型でありながら高速なコピー機だった。

感光体ドラムを高速で回し、

帯電、

露光、

現像、

転写、

剥離、

クリーニング、

給紙、

搬送、

定着、

それらすべてを同期させて一枚のコピーを作る。

一か所でもおかしければ、まともなコピーにはならない。

だからコピー機というのは面白かった。

電気だけ分かっても駄目。

機械だけ分かっても駄目。

ゼログラフィーだけ分かっても駄目。

全部が分かって、初めて一枚のコピーが見えてくる。

今考えれば3500は、

新人CEだった俺にとって巨大な教科書だったんだ。


ブービー賞から始まった

息子よ。

俺は研修所では優秀な新人じゃなかった。

成績は下から2番目。

ブービー賞だ。

でも、それでいいと思っている。

そこからフィールドへ出た。

実際の故障と向き合った。

何度も分からなくなった。

だが、先輩は敢えて助けてはくれない。

そして一台、一台、直していった。

そうやって少しずつ、

「故障を見る目」

ができていったんだ。

そして気がつけば、3500で教わったトラブルシューティングの考え方を、今でも使っている。

機械は変わった。

コピー機からパソコンへ。

パソコンからサーバーへ。

そしてネットワークへ。

扱うものはどんどん変わった。

でも俺の中にある基本は変わっていない。

現象をよく見る。
どこまで正常か確認する。
仮説を立てる。
切り分ける。
そして原因まで追い込む。

その原点が3500だった。


1978年。

富士ゼロックス3500。

世間から見れば、とうの昔に役目を終えた古いコピー機だ。

だが俺にとっては違う。

三鷹の寮から新宿へ毎日電車で通ったこと。

同期と一緒に必死になって勉強したこと。

白紙を渡されて配線図を書かされたこと。

そして、ブービー賞だったこと。

全部ひっくるめて3500なんだ。

あの3か月間で教わったものは、コピー機の修理方法だけじゃなかった。

問題が起きたとき、どう考えるか。

それを教えてもらった。

だからな、息子よ。

俺にとって富士ゼロックス3500は、単なる懐かしいコピー機じゃない。

俺のCE人生の原点だ。

そして、あそこで叩き込まれたトラブルシューティングは、半世紀近くたった今でも俺の仕事の中で生き続けている。

研修所ではブービーだった男が、今でもそれを使って飯を食っている。

そう考えると――

あの3か月は、俺の人生で最高に元を取った研修だったのかもしれないな。

しかしだ、

だからこそ、富士ゼロックスへの感謝も忘れてはならない。

コピー機から始まり、JーSTAR、証券システム開発、外部研修、営業

育成にどれだけお金がかかったことか。

それなのに、俺は中途退社をしてしまった。

この行為は、会社に対する裏切り行為だと思っている

まして、自分で事業を起こした今は痛感しているんだ。

これをやられたら、たまらんとな。

だから、肝に銘じて毎日仕事をしている。

複合機を数台販売をさせてもらってはいるが、

受けた恩に対しては、雀の涙だろう。

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