【思い出の看護】ミュージカルと患者さんの笑顔
今日は、私にとって忘れられない思い出の看護を書こうと思います。
19年前のことです。
当時、私は病棟勤務の看護師として、日々忙しくも充実した日々を過ごしていました。
その中で、今でも時々ふと思い出しては心があたたかくなる、そんな出来事があります。
笑顔が絶えなかった患者さんご家族
担当していたのは、重い病気を抱えた患者さん。
病状としては決して楽な状況ではなかったにもかかわらず、その方とご家族は本当にいつも明るく、笑顔を絶やさない方たちでした。
私たちスタッフにも気さくに話しかけてくださり、病室から笑い声が聞こえることも多くて、「あの部屋に行くと、こっちまで元気をもらえるね」と、よくみんなで話していたほどです。
「ぜひ見てほしい」と差し出されたチケット
ある日、その患者さんからミュージカルのチケットをいただきました。
それは、ご家族皆さんが大好きだという「ライオンキング」のチケット。
しかも私だけでなく、息子の分まで。
もちろん、本来ならば病院の決まりとしては、患者さんから物をいただくことはできません。
でも、その時の患者さんの言葉が忘れられません。
「私たちが大好きなものを、あなたにもぜひ見てほしいの。きっと好きになるから。」
その想いの強さとまっすぐな気持ちに、心が動きました。
いただいたチケットを胸に、私は息子と一緒に東京へ向かい、ミュージカルを思いっきり楽しみました。
そしてまさかの再びのお誘い
しばらくして、今度は「キャッツ」のチケットを手に、再びご家族からのお誘いが。
しかも今回は、「一緒に観に行きましょう」と。
もう、その時には私の中で「お断りする」という選択肢は消えていました。
当日、新幹線に乗る私は、まるで子どものようにワクワクしていました。
ところが…患者さんの体調がすぐれず、当日は来られないとのこと。
正直、とても寂しかったです。
でも、奥様と娘さんと私、そして息子の4人で観た「キャッツ」は、本当に素晴らしい時間でした。
帰りには娘さんとおそろいの洋服まで買っていただいて——
あの時の帰り道の笑い声、今でも耳に残っています。
思い出は、看護の中で生き続けている
あれから19年。
ふとしたときに、あの患者さんとご家族の笑顔を思い出します。
病室で交わした何気ない会話、ミュージカルの興奮、優しい気持ち、そして…あたたかい人と人とのつながり。
私の看護人生の中で、あの時間はずっと宝物です。
看護は「する」「される」だけの関係ではないことを、あのご家族が教えてくれました。
今、訪問看護という新たなフィールドで働いている私の中にも、あの時の記憶はしっかりと生き続けています。
今日もまた、どこかで誰かと心を通わせることができたらいいな。
そんなことを思いながら、19年前のあの笑顔を胸に、明日もユニフォームに袖を通します。
そして、今もつながる“ご縁”
そんな宝物のような思い出をくれたあの患者さんからは、今でも年賀状が届きます。
今年の年賀状には、こう書かれていました。
「おかげ様で80歳の元気なおじいさんになりました」
その一文を読んだとき、思わず笑みがこぼれて、でも次の瞬間、胸がいっぱいになりました。
あの頃、病室でたくさん笑っていたあの方が——
「元気なおじいさん」として今も笑っている。
それが、どれほど嬉しいことか。
命と向き合う日々の中で、別れもたくさん経験してきたからこそ、こうして「今も元気です」という知らせは、何よりの贈り物です。
看護師として、人として
あの患者さんとの出会いは、私にとって“看護師として”だけでなく、“人として”の在り方を教えてくれました。
「相手に喜びを届けたい」というまっすぐな想い、
「今を一緒に楽しもう」という温かさ、
「人生を共に歩く」ような関係性の築き方。
医療の枠を少し飛び越えたその経験が、私の中にずっと残り続けて、
今の訪問看護の現場でも、確かに息づいています。
ミュージカルの思い出、年賀状のひとこと、
そして変わらない笑顔の記憶。
これからも、私の看護の芯として、ずっと大切にしていきたいと思います。
