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【第12話】接待ゴルフという名の別種目| GOLF CHAOS 〜デスクのAIと生き抜く野生の18ホール

「国宝」も「プラダを着た悪魔」もみていない・・・。
流行りの映画から背を向けたヒネクレ者な映画好きの私だが、この映画は
万難を排し席数80あるかないかの小さな映画館で見てきた。
韓国映画「ロビー」 いぶし銀俳優「ハ・ジョンウ」が監督と主演をつとめた作品である。
小規模テック企業の社長ハジョンウ演じるチャンウクは技術者としては優秀だが、売り込みやアピールが壊滅的に下手。
そんな彼が倒産の危機から脱するべく4兆円規模の国策事業の受注を獲得しようと人生初の接待ゴルフに挑戦する。彼が接待するのは入札決定権を握るチェ室長。チェ室長が猛烈に推している美人ゴルファーのセビンプロをなんとか同組にブックし、接待対策に余念がない。ところが、同じ日、コースには室長の妻であり上長である長官をライバル社が猛烈な接待でもてなしていて・・・というドタバタゴルフコメディ。
設定が強烈に面白かったので もう少し細部を固めればより爆笑映画になった気もするのだが 内容は想像通り、エグイ接待合戦の果てに万事休すと思いきや・・・という韓国映画ファンの勧善懲悪カタルシスをしっかり満たす安心設計だった。
室長が、試合での全てのショットを記憶する女子プロ・セビンはイップスの不安を抱えており、渋々接待に参加する。最初は紳士的な室長がホールを重ねるごとにどんどんキモくなっていき最後は彼女も堪忍袋の緒がブチ切れる。
またその妻である長官の接待要員は、魔性の国民的俳優、シウォン演じるマ・テス。
セクシー男爵のようなこのマ・テス、最初は任務を忠実に遂行しているのだがだんだんととんでもないことになり・・・という展開。
結構驚いたのはオードブルやシャンパン、マッコリをカートに山のように載せ
飲食しながらゴルフが進行していくという設定。それが後に大変なことを招くのでもあるが・・・。
ともかく、ティーグラウンドから2打地点やホール間、カートに乗らずにさりげなく入札の話をし、ホールごとにショットを褒めたたえ、そして王様ゲーム的な賭けをして・・・と露骨さの差はあれ接待ゴルフに関して本質的には日韓同じだ。
日本でも韓国でも「接待ゴルフは スポーツのゴルフとは異なる種目だ」
そう思った方がいい。いかに、得意先や要人をもてなし、喜ばせるか?そして
この朝8時から夕方4時くらいまでの半日で相手と親しくなり胸襟を開いてもらうきっかけにできるか?という競技である。
だから一切のエゴは、捨てねばならない。
「自分がいいスコアで回りたい」はもちろん「ティーショットを飛ばしたい」
「ピンソバにつけたい」 や「新しいギアを試したい」も注意が必要だし
男性の場合は
「アイドル顔のキャディさんに少しでも気に入られたい」などと1ミリでも思ってはいけないし、得意先がステーキ定食とビールのオーダーなのに1人だけ「刺身天ぷら御膳」はもってのほか。もし1人で頼んだ「カツサンド」が大きく遅れて、揚げたてのカツがアツアツで来た頃に皆がほぼ食べ終わっていたりしたらOB以上の地獄だ。口中ヤケドしても3分以内で4切れのカツサンドを頬張らなければならない。
茶店でトイレに行っていて、氷や飲み物の補充の気配りを忘れると減点対象だし
自分のプレイに夢中でオリンピックの役(金・銀・銅など)を書き忘れると
あとの計算が混乱して台無し。そしてほとんどの土日 午前中にゴルフ場のテレビで中継されている、世のオジサンが皆大好きな大谷のドジャース動向も目配りして、途中経過をささやかなければならない。もう、やることがあまりに多すぎて自分のゴルフにかまっている余裕などまるでないのだ。
だからといってスポーツでないと割り切りすぎてもこれまた地獄を見る。
上司 「6番の山田専務の3打目、あれはすごいショットでしたね~。」
山田「珍しくうまくいったよな、あーいうのがあるからやめられなくなっちゃうんだよ」
上司「いや なかなかあそこから乗せれる人はいないですよね、なっ 」
・・・と上司から確認を求められたとき接待経験の浅い若手下っ端男子は
(心の声で 「どーしよっ?俺 あの時トイレいきたくてろくすっぽヒトのショットみてなかったんだよな、早くこのホール終われ、ってばかり考えてて・・・」と焦り・・・)
 「そうですよね、すごかったですね」
と全く具体を欠いた相槌でお茶を濁す。
横から山田さんの如才ない部下が
「自分だったら、絶対4番アイアンは持てないですよ・・・。おまけに
 あそこフェアウェイというより少しだけセミラフっぽくなかったですか?」
上司 「そうそう、ライは良くなかったよなぁ・・・俺ならシャンクだな」
など謙遜・自虐による相手持ち上げ大会が展開され、山田さんのハイボールの
ピッチはますます上がる。
そしてトイレに行きたかった下っ端君は
「座持ちが悪いイマイチな奴」という小さな×(バッテン)が上司の心の接待査定表につく・・・といった次第だ。
山田さんはゴルフがそこそこうまかったからまだいい。
ゴルフが好きで好きでたまらなくて、イマイチなのに自分はうまいと思っている
鈴木本部長の接待にて、実力通り彼が大たたきをした日はもっと悲惨だ。
ひと風呂浴びてさっぱりした後の食堂にて。
上司「今日は蒸し暑くて難儀でしたよね、お体大丈夫でしたか?」
鈴木「まあまあ。いつもはもう少しマシなスコアだがね。今日はご迷惑かけました」
上司「とんでもない。今日は不調だったということで。また次回ぜひお願いします。 涼しい高原コース取りますから」
鈴木「それはいいねぇ」
上司「河口湖か軽井沢・・・ボールも飛びますし そうしましょう。
   ・・・今日は全部忘れて飲み会ということで。
   ここは結構いいワインが置いてあるんですよ。
   本部長はお詳しいから選んでいただいて・・・。
   君、チーズ頼んで・・・あとスモークサーモンと生ハム、オードブル盛り合わせも」  
・・・とまあ、無間地獄の飲み会が始まる。
スモークサーモンも生ハムも鴨テリーヌもいらないから早く解放してくれよ、
という思いは叶わず、鈴木本部長の若き日の武勇伝や上司のしょうもない失敗談など同じような話が延々と続き そこにあるのは真っ赤な顔のオヤジ4人とほんのりピンクに染まったフェアウェイの向こうの夕焼け空だ。
麦茶でもガブ飲みしたい気持ちを押さえ、そろそろとばかりに食堂スタッフに目配せし、伝票を〆て会計に回させ、カードホルダーをすばやく回収し清算しながら
車寄せの運転手さんにスタンバイを指示、あとはお土産もセットしないと・・・。
とまあ怒涛の如く 段取りに追われ鈴木本部長とその部下を乗せた黒塗りハイヤーが遠く見えなくなるまで頭を下げ、ようやくここで上司に
「1日ご苦労さん」と肩を叩かれ解放となる。
ゴルフで一番重要なのは足腰そして体幹なのに、そんなものは1ミリも意識せず
ましてやコースマネジメントやグリーン形状も意識せず、ただただ、得意先の気分と段取りに集中して気を使いまくるこの種目。
まさにゴルフではなく「気配り」「段取り」「対応力」を鍛える異種の競技だ。
そして 18H回ったという事実より食べ過ぎで膨れた腹とアルコールが回って
ポワンとした脳で下っ端君は1人、電車で爆睡して帰るのである。
断言しよう、接待ゴルフはゴルフではない。
そしてこればっかりやっていると ゴルファーとしては明らかに劣化する。
接待をする側にせよ、受ける側にせよ、接待ゴルフ以外に自分のお金でコースを
とって友人や知り合いと回ったり、メンバーコースで組み合わせで回るごく普通のゴルフをしていればまだいいのだ。
最も悲惨なのは受ける側だけで接待ゴルフを繰り返し、リタイアとなりメンバーコースを持った<接待受け慣れオジさん>だ。
まず、一人予約で知らない人と回るのに慣れていない。そして接待ゴルフの甘いルール(6インチリプレース、ライのいいところに出す、マリガンでやり直し)などを
メンバーゴルフで勝手に適用しようとすると
「月例もあるし ここはノータッチでいきましょう」
「メンバーになりたてなので慣れてらっしゃらないかもしれませんが」などという
やんわりとした指導や
「いいかげんなことすんじゃねーよ、新参者が」という無言の批判の視線にさらされる。
これは他のメンバーが意地悪なのではない。
ゴルフにおいて当然、しごく真っ当なことなのだ・・・とは接待受け慣れオジサンはどうしても思えず、メンタルがグラグラに揺さぶられ ボロボロになって叩く。
一人でコースに行ってスタートホールで自己紹介の後、
「新入りなのでアレコレ教えてくださーい!」とにっこり懐に入っていけば、
古参オジサンたちは世話を焼いてくれ、いろいろなウワサやTIPSを授けてくれてあっと言う間になじめるのだがそれができないのが 接待を受け続けおだてられ木に登りまくった元エライおじさんの哀しさ。
初対面の人とのコミュニケーションや、メンバーコースでのゴルフのお作法がだんだんと億劫になり、せっかく買ったコースから足が遠のき始める・・・。という負のスパイラルである。
私は20年前から一人予約でメンバーコースである河川敷コースに毎週通っていた。仕事の関係でなかなか2ケ月前に予定がたたず、土曜か日曜空いたら前日にも予約、という事情でそうなったのだが 最初はやはり勇気が必要だったし今では、会う人のほとんどが友達という状況だが、そうなるまでには、「女性が一人で予約? 珍しいね」とか「一緒に回ってくれるお友達や旦那はいないの?(←失礼なwww)」とかはそれこそ1万回近く言われた。
最初のうちこそ面倒くさいだの過干渉だのとムカついていたが、そのうち慣れて「そうですね~珍しいですかね~?」とか「知り合いいっぱいできていいですよ~」とか、ハザードや突然の横風はかわせないのに、オヤジの好奇心や皮肉は完璧にかわせるようにしぶとくなっていった。
接待ゴルフと一人予約・・・。これほど対極なスタイルもないだろう。
それぞれの環境もあるし どちらがエライ、素晴らしいというものでもない。
でも 絶対的な真理が1つだけある。
それは居心地の悪さ、古参メンバーの値踏み、叩いた時、雨や強風の時・・・。
いずれにせよ、ほんの少しの逆境(アゲンスト)はゴルファーを育てるのに
絶対必要なスパイスだということだ。


 
※本作品は、AIコーチと駆け抜ける「全18話」の完結型エッセイです。
第1話から順番に読みたい方、または一気飲みしたい方は、ぜひこちらのマガジン(本棚)からノンストップでお楽しみください!
https://note.com/tender_quail7272/m/m333ce77eb5c9


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