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あじさい寺#せりふ三題噺#酸性夕立リングピロー

 俺が茉莉と付き合いはじめて5年が経った。お互い、結婚を意識している。
 まあ、プロポーズとなると男の俺からなのだが、煮え切らないのが俺の悪い所だ。
 こんな俺に愛想をつかさず付き合ってくれる茉莉を大事にしなければならないと思うが・・・、後一歩が踏み出せない。

 6月末、この地方でも梅雨に入った頃、俺たちは県北にある紫雲寺、通称あじさい寺に紫陽花を見に行った。
 紫雲寺は山の中腹にある寺で、ふもとの駐車場から参道の石段500段を登らなければならなかった。
 別に車でも登れる道があるが、石段の両脇にだけ紫陽花が咲いていた。

 午後2時、東の方に入道雲が現れ、日の光を反射して輝いていた。梅雨の時期だ、俺は念のため傘を手に持った。

「わ!ふっかふか!」
 茉莉は駐車場で車を降りるとすぐに参道の石段に駆け寄った。満開の紫陽花が石段の両脇を挟み上の方まで続いていた。
 確かに、ハンドボールほどの大きさに密集した花が丸く咲いている感じは「ふわふわ」より「ふかふか」という表現がぴったりだった。

「知ってる、ほとんどの人が花だと思っているけど、紫陽花の花は花のように見えるけど、じつは萼なんだよ。萼が変化して花のように見えるんだ。本当の花は小さくて見えづらいんだよ」
「へー、そうなんだ」
 茉莉は大きく頷いてくれた。
 こんな情報はどうでもいいはずなのに、俺はついつい知識をひけらかす癖がある。
 こんな俺でも付き合ってくれる茉莉を大事にしなければならなにのに、俺は・・・。

 参道の紫陽花のほとんどが比較的濃い青色だった。
「ここの土壌は酸性なんだな・・・」
 登り始めたばかりなのに、また悪い癖が出た。
「えっ、何のこと?」
「紫陽花はね、土壌が酸性だと青色になって、アルカリ性だと赤色になるんだよ」
「あっ、何か聞いたことがある。それってリトマス試験紙と同じなんでしょう」
「うん、その通りだよ・・・」

 俺たちの他にも、何人もの人が紫陽花を楽しみながら登っていた。
 ほとんどの人たちが手には傘を持っていた。空は入道雲が大きくなって少し暗くもなっていた。登るのには蒸し暑さが抑えられ楽になるのだが、涼しい風も吹き始めた。
「傘もってきて、正解だね。入道雲、さっきよりも大きくなったみたい。さすが、公則さん頼りになるー」
 そう言って、茉莉は傘を持っていた右腕に抱き付いてきた。
「今日こそは・・・」なんて思いを強めたが、俺の心は風に揺れる紫陽花のようになって揺れ動いていた。

 登り始めて10分、俺たちは紫雲寺の山門にたどり着いた。

「えっ?お葬式」
 お堂を見ると、たくさんの人たちが本堂の中でも外陣と呼ばれる場所に座っていた。
 男性は礼服に白や赤のネクタイ、女性は明るい色のドレスや着物を着ていた。
 祭壇の前には、紋付き羽織袴の男性と白無垢の着物に角隠しの女性が立っていた。その目の前には読経をする僧侶がいた。

「おお、めずらしい。あれは仏式の結婚式だよ」
 俺は笑顔になって、茉莉の顔を見た。
「へー、お寺でも結婚式を挙げられるの、初めて知ったわ・・・」
 茉莉は興奮気味に言った。
「うん、俺も見るのは初めてだけど、そうなんだよ・・・」
「そうなんだ・・・、今日、めずらしいものが見れてよかった・・・」
「うん、そうだね・・・」
 そう言いながら、俺の心はますます揺れ動いていた。

 すでに、山門をくぐっていた人たちは、めずらしい仏式の結婚式を見るためにお堂の前に集まっていた。半分以上の人がめずらしさにスマホを構え撮影していた。
 俺たちも、その中に加わった。
 

「仏式の結婚式って指輪の交換じゃなくて、数珠を交換するのね」
「いや、そうでもないみたいだよ。二人が立っている前の台の三宝にリングピローが載っている、きっと指輪の交換もあるんだ」
 リングピローは仏式には似つかわしくない洋風のデザインで目立っていた。

「ほんとだ、指輪の交換が始まったわ・・・」

 その時だった。気が付けば暗くなっていた空から大粒の雨が落ちて来た。
 傘では防ぎきれない勢いの雨に、結婚式を見ていた人たちはお堂の軒先や山門の中に避難した。そして、雷も鳴り始めた。
「キャッ!」雷の音が大きくなると、口に手を当て気を使いながらも小さく悲鳴を上げる女の人もいた。
 そんな中でも、厳かさを失うことなく結婚式は続いていた。

 すべての儀式が終り新郎新婦が退場となった時、雨の音に負けないくらいの盛大な祝福の拍手が起こった。
「おめでとう!!」
「お幸せに!!」
 などの掛け声も上がった。
 俺たちも拍手をして見送った。

 それからしばらくして、俺たちは雨が小止みになったのを見計らい石段を下りて駐車場に戻った。そして、車に乗りこみ帰途に就いた。
 しばらく、車の中ではお互い黙ったままだった。外はまだ、小雨が降り続いていた。

「せっかくのジューンブライドなのに、夕立なんて・・・」
 茉莉がつぶやいた。
「まっ、しょうがないよ。梅雨に入ったんだから・・・」
 俺は、ため息交じりに言った。

「あっ、虹!」
「えっ!?」
 茉莉はバックミラーを指差した。そして、後ろを振り返った。
 車を路肩に停め、俺も後ろを見た。
 すると、紫雲寺のある山の上に大きな虹がかかっていた。
「やっぱり神様・・あ、じゃないわ、仏様が祝福してくれているのね。きっと幸せになるわ、あのカップルは・・・」
「うん、きっとそうだよ・・・」
 俺たちは車の中から、しばらく虹を見ていた。

「仏式の結婚式も良いかもな・・・」
「えっ、それって、もしかして・・・、プロポーズ、かな♡」
 茉莉は、いたずらっぽく笑って俺の顔を覗き込んだ。
「うん、まあー・・・」
 俺は、顔から火が出る思いだった。

      おわり

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はらとけいさんの企画「せりふ三題噺」の参加作です。

セリフ「わ!ふっかふか!」
三題「酸性、夕立、リングピロー」

どうぞ、よろしくお願いします。


 


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