【小説】強盗に花束を 第1話【創作大賞2023応募作品】
《あらすじ》
ある日、郵便局で働く平山の前に1人の中学生が現れる。
「強盗だ。金を出せ」大胆にもその中学生は強盗を働こうとする。
焦りながらも、なんとか少年強盗の対応をする平山。
しかし、第2、第3の強盗が現れて…。
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。
第1話
「強盗だ。金をだせ」大きなボストンバッグをカウンターに乗せると男の子はそう言った。
僕より少し年下ぐらい。おそらくは未成年。
包丁や拳銃を突き付けられた訳ではない。
それによくドラマで見る、強盗のトレードマークの様な目出し帽をかぶっている訳でもない。
ただただ、中学生くらいの男の子がボストンバッグを突き出して険しい顔をしていた。
「えーっと」僕は慌ててしまった。強盗が来た時のマニュアルなんて聞いてない。
「レジのお金ってことですか?」思わず聞き返した。
「違う。金庫とかそっちだ」男は言った。
「ここ銀行だろ?」
困ったな。
こういう場合はどうしたらいいんだろう。
焦ってしまって僕はあまりよくない発言をしてしまう。
いつもの癖でもある。
「申し訳ございません。こちらは併設されている郵便局になります。送金やその他、銀行での業務はあちらになります」すぐ隣の銀行の窓口を指差す。
就職して半年。
配属された郵便局はグループ会社の銀行と同じ大きな建物にあった。
こちらは銀行、こちらは郵便と書いてある大きな看板が天井からぶら下がっているが、それでもうっかり間違えたり、どちらの業務か混乱した結果誤った窓口に並ぶ客があとをたたなかった。
故に、何度も何度もその言葉を言った。
たまに怒り出す客もいて困りものだった。
局長、その他上司等の人間関係は良好。
そういう意味では当たりの配属先だ。
それでもこのセリフを言うのは少しだけうんざりしていた。
長期休みに実家に帰った時、寝言で言っていたと母に笑われるほどだ。
だから、本当に深く考えずに僕は反射的にその言葉をはいた。
「え?」男の子は固まった。
銀行の窓口と僕を交互に見る。
「あ、そうなんだ。初めて来るし、緊張してたから間違えちゃった」男の子は少し恥ずかしそうにそう言った。
「ごめんなさい。御丁寧にありがとうございます」男の子は綺麗にお辞儀をするとそのまま回れ右をして今度は銀行の窓口の方に向かった。
僕はポカンとその様子を見ていた。
昨今では珍しい礼儀正しい子だ。
だけど強盗と言っていた。
よく考えたらそのまま銀行に案内してもいいのか?
共謀罪とかになるかもしれない。
いやいや。
と言うかそれ以前の問題だ。
これから強盗を働こうとしている人を普通に帰してはダメだろう。
周回遅れの焦りがいきなり襲ってきた。
僕は急いで稲葉係長のところに行った。
係長は電話対応していた。
「すいません係長」僕が言った。
係長は身振り手振りで後にしろと言った。
「緊急です」僕はなおも言った。
あまりの迫真ぶりに稲葉係長も何かとんでもない事が起こったと悟ったのか、電話先に謝罪して僕に何の用事だと片眉をあげた。
「強盗です」僕は言った。
「何?」稲葉係長が聞き返す。
「だから強盗です」僕が銀行の方を指差して言った。
「え?今?」稲葉係長が立ち上がった。
「ウチに間違って強盗しにきて、銀行じゃないって言ったら謝罪して銀行の窓口に向かったんです」僕が言った。
「え、そんな間抜けな強盗いる?」係長が言った。
「だって来たんですもん」僕が言った。
「どんな人?」
「えっとボストンバッグを持った中学生ぐらいの男の子です」僕が言った。
「うん?それだけ?凶器とかは?」
「持ってません」
「それほんとに強盗?子供のいたずらじゃないの?」
「でも強盗って名乗ってましたよ」僕が必死に伝える。
係長は難しい顔をした。
「念の為に銀行の田代支店長に話してくる。平山くんはその子の様子見ててくれるか?お客様の対応は森本に頼むから」結局僕の強盗を信じてくれて動いてくれるみたいだ。
僕はとりあえずは安心した。
自分より立場が上の人が動いてくれるのはありがたい。
いたずらだったらきちんと謝ろう。
僕は言われた通りにカウンターを出る。
そこで銀行で働く高木さんとすれ違った。僕と同じ一年目だけど、高木さんは大卒だから4つ年上だ。この建物の職員の中では一番年が近いから、会社は違えど仲良くしていた。
「なんだか騒がしいね。平山くん、何かあったの」高木さんが言った。
「強盗です」僕が言った。
「うん?」高木さんが困惑して聞き返した。
「万が一があるから高木さん、奥に行っておいてください」僕はそう言うと、高木さんの返事も待たずに、強盗を見張るために急いで銀行の窓口の方に行った。
第2話に続く
第2話
第3話
第4話
第5話
第6話
第7話
エピローグ
お読みいただきありがとうございます。
以前趣味で書いた作品なんですが、折角の機会だと思い投稿させていただきました。
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