「令和の情シス」は、もはや心理カウンセラーかもしれない。現場の不満をDXに変える技術
「また情シスが面倒なルールを作った」
「セキュリティなんて、仕事の邪魔をしているだけじゃないか」
もしあなたが企業のIT担当者、いわゆる「情シス」なら、一度はこんな視線を感じたことがあるのではないでしょうか。
あるいは現場で働く方なら、新しいITツールの導入に「また覚えることが増えるのか」と溜息をついたことがあるかもしれません。
かつての情シスは、城門を守る門番のような存在でした。「ダメなものはダメ」「ルールだから守ってください」と、鉄の規律で会社を守るのが仕事。
しかし、令和の情シスに求められる役割は、少しずつ変わってきています。 今日は、私がとある中小企業で経験した「現場の不満」が「最高のDX(デジタルトランスフォーメーション)」に変わるまでの物語をお話しさせてください。

1. 現場から届いた「悲鳴」という名の不満
ある日、私のチャットツールに営業部のリーダーからのぶっきらぼうなメッセージが届きました。
「Mobieさん、例の新しいセキュリティ設定のせいで、営業の効率が最悪です。みんなイライラしています。なんとかしてください」
その会社では、情報漏洩対策としてスマホのパスコードを複雑にし、さらに数分ごとにロックがかかる設定を導入したばかりでした。会社を守るためには「正しい」判断です。しかし、現場の真実は違いました。
両手に荷物を持ちながら、お客様の前で何度も複雑なパスコードを打ち込む。 雨の中、指が濡れて認識されない画面と格闘する。 「セキュリティのために、お客様を待たせるのが正義なんですか?」
彼らの言葉は、単なるわがままではなく、切実な「悲鳴」でした。
2. まず「技術」を捨てて「椅子」を並べる
こんな時、昔の私なら「これが業界の標準ですから」とマニュアルを送りつけて終わっていたかもしれません。
しかし、今の私は違います。
私はまず、管理画面を閉じて現場へ向かいました。 そして、彼らの「面倒くさい」をすべて吐き出してもらうことから始めました。
「何が一番ストレスですか?」 「どの瞬間に、スマホを投げ出したくなりますか?」
情シスの仕事は、単に技術を導入することではありません。技術を使って、働く人のストレスを取り除くことです。そのためには、まず相手の感情に共感する「心理カウンセラー」のようなスタンスが必要でした。
一通り不満を聴き終えたとき、営業リーダーの表情が少しだけ和らいだのを覚えています。
「話を聞いてくれる人がいる」というだけで、ITへの拒絶反応は驚くほど小さくなるのです。
3. 【具体手順】不満を「仕組み」で解決する処方箋
「面倒」という感情の裏側には、必ず「無駄な手順」が隠れています。
私はカウンセリングの結果をもとに、以下の3ステップで設定を根本から見直しました。
ステップ1:コンテキスト(状況)による認証の緩和
「どこでも一律に厳しい」のは非効率です。
場所の活用: 会社の中(信頼できるWi-Fi下)であれば、ロック時間を少し長く設定。
生体認証のフル活用: マスクをしていても、手袋をしていても反応しやすい最新の顔認証・指紋認証設定を再レクチャーし、パスコード入力を最小限にするようMDM(デバイス管理ツール)側でポリシーを調整。
ステップ2:キッティングの「完全自動化」による恩恵
現場が最も嫌うのは「設定作業」です。
新しい端末を渡す際、箱から出して電源を入れるだけで仕事用アプリがすべて揃っている状態(ゼロタッチ登録)を構築。
「自分で設定する」という心理的ハードルをゼロにしました。
ステップ3:SSO(シングルサインオン)の導入
「アプリごとにIDとパスワードを入れるのが苦痛」という声に対し、一つの認証で全てのツールにログインできる仕組みを整えました。

4. セキュリティは「強いるもの」から「守るもの」へ
改善を導入して数週間後。 あんなに不満げだった営業リーダーから、今度はお礼のメッセージが届きました。 メンバーからも商談準備がスムーズになった、お客様先で手間取ることもなくなったとのことです。
「Mobieさん、今の設定なら全然邪魔になりません。むしろ、安心して出先でも仕事ができるようになりました」
この時、私は確信しました。 「正しいルール」を押し付けるだけでは、人はルールをすり抜けようとします。付箋にパスワードを書いてスマホの裏に貼るような、本末転倒なことが起きるのです。
しかし、現場の「面倒くさい」に寄り添い、技術でその負担を肩代わりしたとき、セキュリティは初めて「みんなで守る大切な文化」に変わるのです。
5. 令和の情シスに贈る、3つの「カウンセリング・スキル」
もしあなたが、今まさに現場との摩擦に悩んでいるなら、明日からこの3つを試してみてください。
「なぜできないのか」ではなく「何が苦しいのか」を聞く 否定から入らず、まずは相手の不便を100%肯定する。
専門用語を「翻訳」する 「MDMのポリシー変更」と言う代わりに、「スマホを開く回数を減らすよう設定します」と伝える。
小さな「成功体験」を即座に作る 「ボタン一つでWi-Fiが繋がるようになった」といった、些細な、でも毎日感じる便利さを提供する。
技術はあくまで道具。その道具を握る「手」の痛みを知ること。 それが、Mobitech Solutionが大切にしているスタンスです。
結びに:ITの力で、もっと人に優しくなれる
DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉は、なんだか冷たく、無機質な響きがします。
でも、その本質は「人がもっと人間らしく、楽しく働くための変革」なはずです。
情シスは、もはやサーバー室にこもる職人ではありません。 現場の声を拾い、心に寄り添い、技術という処方箋を出すカウンセラー。
これからも「面倒くさい」という声を聞いていきたいと思います。
そこには、新しい「ちょうどいい答え」が隠れているはずですから。
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