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新刊情報①!

こんにちは!

世の中は3連休ですが、私は仕事です!

仕事の合間にこちらをあげさせていただきます!

新刊情報としましたが、新刊の一話と二話をアップします。

楽しんでもらえたら幸せです……。

下にスクロールをお願いします!













1-1

「だから、誰がお前なんかに跪くかよっ!」

 目の前の男の腹を蹴り上げる。と、相手の男がかはっと腹を押さえて路地裏に蹲る。その頭や丸まった背中を更に靴底で蹴る。蹴る。蹴る。
 深夜に近い真冬の繁華街、その裏道だった。周りは人で溢れていたが騒然として、誰も近づかない。
 それはそうだろう、一般的に見ればそれは一方的な暴力で、暴力をふるっている方は我を忘れて暴力に酔っているのだ。

「なあ、もう止めろって!……っ佑!」

 友人の制止の声が聞こえているが、耳奥がキーンと鳴って言葉としての意味をなさない。(馬鹿にしやがって、俺はモノじゃねぇんだよ!)
 口にしたつもりが、興奮から声にならない。呼吸が浅いのが自分でも分かる。頭は怒りでいっぱいだ。体が熱く、今にでも叫び出したい、目の前の男をもっとぶちのめしてやりてぇ。

「分かったかよ、この糞が!」

 最後の一踏みと、脚を上げたところで

「──……っ佑、Stay(待て)!」

 と、振り絞るような声が背後から聞こえた。その途端、東雲佑の頭の中で何かがぷっつりと切れた。
 怒りや暴力の衝動性がシュワシュワと溶けて消えていってしまう。よろけて足を下ろすと、友人を振り返って睨みつけた。
 佑の友人、園田愁はひょろりと背丈だけは高い優男だ。今も自身のボディバッグを胸に両手でぎゅうっと掴んで、今にも倒れてしまいそうだった。対する佑はやや背は劣るものの、体格はそこそこに良い。じりっと押し迫ると、愁はその分だけじりっと後退した。

「……また俺に、コマンド使いやがったな、愁」
「だ、だって。……あのままじゃ、このオッサン、死んじまうよ」
「こいつがどーなったって、どうでも良いだろ? この俺を強制的に跪かせようとしやがった」

 鋭い目つきで道端で呻く男を睨みつける。佑はSubとしてこの世に生を受けた。生まれながらの刻印。従属し、頼り、躾けられ甘やかされる性。
 だが、佑は生まれてこの方、Domのパートナーを持ったことがない。
 その負けん気の強さからか、どうしてもDomに逆らってしまうのだ。

 男女以外の第二の性。DominantとSubmissive。
 通称Domとsubの性が発見されて、もう数十年。所謂、支配する性と支配される性があるとが世界的に認知されてから半世紀は過ぎた。こういうことに疎い日本でさえも、ここ二十年程で法整備や抑制剤の承認が進み、国内での認知は九十%を超えるという調査結果もある。その程度に強弱はあるものの、Dou/Sub特性を有する者は、日本では人口の全体の二十数%、五人に一人は何らかの性向があるとのことだった。
 佑と愁は共に二十六歳。DomやSubが当たり前に世の中に溢れる世界で産声を上げた、そういった世代だった。

「行こう、佑。これじゃ警察沙汰になっちまう……」

 怯えて言う愁は、既に佑の通勤鞄を拾い上げて佑の袖を引いている。
 急に冷えてきた十一月末。会社からの帰り道に高校時代の級友の愁と佑は飲んでいた。久しぶりの親友との飲み会で良い気持ちになって帰路につこうとしていた。 
 そこに、酔っぱらった四十前後の男が絡んできたのだ。身なりの立派な、いかにも成功している男然としていた。
 男は自分をDomだと大声で公言し、「お前、Subだろ!?」といきなり佑の腕を掴んだ。

「……違いますよ」

 佑は否定し、横にいた愁も佑をかばい前に出た。だが男は二人をじろじろと見定めるように見比べるとせせら笑いこう続けた。

「なんだ、糞弱いお守り付きか。けど首輪してねぇってことはお前のもんでもねんだろ、この糞ビッチそうなSub。匂いが堪んねぇな……いいから、こっちに来いよ。俺の方が良いご主人様になれる」

 一瞬で佑をSub、愁をDomだと断定した男はそれなりに強いDom性を持つのだろう。社会的地位もある中年以上のDomの中にはSubを軽視する者もいる。男はその典型のようだった。そうして、佑はそういった一部のSub達が大嫌いだった。
 だから声を低く威嚇したのだ。

「そうだったら、何だってんだよ」
「た、佑!」
「Subだってんなら、どうしたって言ってんだよ」
「は、はぁ……!? お前、Subの癖にDomに楯突く気かよ!」

 男は一瞬怯み、そしてにやりと笑うと、いきなりなんの承諾もなしに「Kneel(跪け)!」と佑に命令してきたのだ。それが自分の命取りになるとは知らずに。
 
 そして佑は男を殴り蹴り、ボコボコにした。一般的にDomからのコマンド(命令)を受け取ると、Subはそこに信頼関係がなくとも一瞬怯んでしまう。男はそれを狙ったようだったが、佑には効かなかった。効くどころか逆上して男を瀕死の目に合わせた。

 幼いころからそうだった。
 三歳児検診で佑がSubであることが分かると、両親はまず佑を柔道教室に通わせた。それが性に合っていた佑は長じて、自身で剣道とボクシングにも打ち込んだ。そこで佑はどんな性を持っていようと、人間はみな平等であるということを学んだ。
 だが、皆が幼かった幼年期を過ぎ小学校も高学年に上がると、第二次性徴が訪れる。Domは一般的に成長が早く、体格も良くなってくる。そしてDom/Subともに次第に第二の性にも自覚し始める。
 そこで生まれて初めて苛めにあった。
 クラスのカースト上位者だったDomの男児に最初はシカトされ、自分の物を隠され壊されて、最終的には裏庭に呼び出された。他にノーマルの男児数人を引き連れたそのDomに、佑は最初、恐怖を感じた。怒りや強い感情を持ったDomを目の前にしたSubが時折陥る状態、Sub dropだった。猫に睨まれた鼠の子のように佑は震えた。
 それを見て、男児たちは笑う。小突く。足蹴にする。次々と手を出してきた。
 それでも恐怖で立ちすくんでいた佑だったが、最後にDomのその男児が目の前に来て、「Come(ほら、来いよ)!」と命令された時には、強い衝動を感じたのだった。胸の奥からメラメラと燃える怒りが顔を出す。身長のあったその男児めがけて、思い切り頭を振り上げると顎へと大きく頭突きをした。反撃にあうと思ってなかったその男児は、その場にどっと倒れこんだ。その彼の上に跨って、佑は拳を振り上げた。
 ……その後のことは覚えていない。
 気づけば己の拳は血まみれで、相手のDomは鼻血を出した真っ赤な顔で気を失っていた。
 大人たちが集まって、色々と話し合いをして……相手のDomの男児は転校していった。

 その時からだ。Domの支配を受けないSubとしての人生がスタートしたのは。誰も佑に近づかなくなった。DomどころかノーマルやSubの同級生でさえも彼を恐れた。
 しかも、何がそうさせるのか分からなかったが、少年期には街を歩くとよくDomの輩に絡まれた。そしてその度にその拳や足で、佑は相手を黙らせてきた。
 そんな佑に友人と呼べる存在ができたのは高校に入ってからだった。地元の高校を受験した佑はやはり周囲から浮いていたが、一人、県外からの入学者だった園田愁という男が声をかけてきたのだ。

「ねえ、君毎日一人だよね? 一緒に昼ご飯食べない?」

 ふにゃっとした笑顔の長身の男子生徒だった。
 DomにSubが分かるように、SubにもDomが分かる。だから最初、またDomの馬鹿が絡んできやがったと佑は睨みつけた。だが、その視線にもにこっと笑顔を返すような鈍感な男だった愁は、いつの間にか佑の親友と呼べる位置にまで並んだ。また、よくDomに絡まれては相手を半殺しにしてきた佑の抑止剤に愁はなった。
 Domに絡まれ、コマンドを言われると狂犬モードになる佑だったが、愁のコマンドだけは受け入れるようになっていたのだ。
 
「な? もうそこまでしたんだから良いだろ? 帰ろうよ、佑」
「ふん。……二度と俺にその面見せんなよ」

 男に背を向けて、佑は漸く肩から力を抜いた。握った拳をぶらっと振って、そのままばんっと愁の背中を叩く。

「いってぇ~~」
「さっきの、コマンド分の仕返しな」

 くっと笑って佑は愁と二人、その場を後にした。


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