ドラマ、ドラマ、ドラマ。巻き込まれてわかった!
私はシアトルにある老人ホームのレストランでウェイトレスをしている。
ここのところ従業員のドラマが続いている。若い頃はともかく、平和なドラマならともかく、面倒くさいドラマには、できれば巻き込まれたくない。
ところが見事に巻き込まれた。
1か月ほど前、ミーナが雇用された。雇用前のインタヴューで、私が話しかけても、応募用紙に記入しながら返事をする。人の目を見ない。
「なんだ、こいつ?」
こう思ったけれど、黒人ボスのフレディが決めることで、私がどう思うかは関係ない。
第一印象は正しかった。彼女は車を持っておらず、必ず遅れて来る。けれども、
「遅れてごめーん!」
という会話もなく、スーッと入って来て、
「何をしたらいいの?」
こう聞く。1週間経っても、2週間経っても、同じ会話からのスタートだ。
「自分で考えて」
こう言うと、ふてくされてどこかへ行った。
ある日、私がその日のメニューをコピーしていると、ミーナがやって来た。
「ボスに1週間分のメニューをコピーしてって言われた」
1週間分のメニューとなると、意外と時間がかかる。ランチは30分後だ。
「今は時間がないから、後でええやん」
「でも、彼がそう言ったから」
「ランチの準備、全部できたん?」
「もういい!わかった!!!」
突然、怒りをあらわにし、キッチンへ戻っていった。その場に一緒にいたオフィスの女性と顔を見合わせていると、キッチンから大きな声が聞こえてきた。
「彼女が『NO』って言った!」
はぁ?えらい話がちゃうやん。こちらも大声で言った。
「『NO』なんて言うてへんやん!」
ボスがこちらにやって来た。
「どないなってるねん?」
「『NO』なんて言うてへんわ。『ランチの準備はできてるの?』て聞いただけやん。あと30分しかないから、後ですればええやん」
「ランチがちょっとくらい遅れてもええやん」
・・・あんたがそんなんやから、ややこしいのだ。
ランチのスタートは11時半。クックたちは、時間に間に合うよう全力で準備する。間に合わないこともあるけれど、間に合うように努力する。
ところがボスは違う。ケアギヴァーとおしゃべりをしたり、他の部署へ遊びに行ったり、戻ってくるのがランチ開始の数分前だったりする。30分、40分遅れてもへっちゃらだ。しかも、それを他のこと、人のせいにする。
「ミーティングがあったから」
「サーヴァーはオーダーを取るのが早すぎる」
彼は滑らかな口調で言い訳をする。自分を正当化するためなら、誰かを悪者にすることなど意に介さない。
話は戻る。とりあえず、ミーナと険悪な雰囲気で一緒に仕事をするのはイヤなので、話しをしに行く。
「ボスと私の間で意見が違って、困らせたんやったらごめん。私の言うたことで、なんか不満があるんやったら言うて。言うてくれたら改善するから」
「何もありません!」
その様子からすると、ものすごく怒っている。
「いやいや、なんか怒ってるやん。私、なんかした?」
「あなたは何もしてません!」
これ以上、聞いても仕方がないので退散した。
これはキッチンで働くマリアから聞いた話だけれど、私がいなくなった直後に、彼女はボスのところへ行った。
「ユミが私のところに来て、『ボスはあなたになんて言うたん!?」「ボスはどう言うたん!?』て、すごい勢いで聞いてきました!」
嘘つきがひとり増えた。
さらにランチが終わると、彼女は帰宅した。
「ユミが攻撃的だから、私はここにはいられない!帰ります!」
このように言っていたらしい。彼女の代わりにディナーまで働く羽目になった。
翌日、彼女は来なかった。聞いたところによると、ボスが彼女に電話をして休みを取るように言ったらしい。この日も彼女の代わりに働いた。2日連続、13時間労働。しかもひとりで。意味がわからない。
翌々日、彼女は出勤してきた。話はしたくない。けれども、不機嫌な女と一緒に働きたくはない。
「休むほど嫌な思いさせたんやったらごめん。何が問題やったん?」
「あなたとふたりじゃなくて、ボスと3人のときに話します」
「あ、そう」
どうやら彼女は100%正しくて、ボスの前でそれを証明するつもりらしい。アホらしいので無視した。結局、3人で話しをする機会は設けられなかった。ボスもアホらしいから相手にしてないのかな?と思った。
が、しかし!それは大きな間違いだった。
「ユミがミーナを虐めてる」
彼はオフィスに報告した。これには黙っていられない。
「なんで私が彼女を虐めなあかんねん!ホンマにそうしたんやったら、なんで私に聞いてこずに、オフィスに報告するねん!」
ボスに問いただしたい。けれども問いただしても無駄だ。私が聞いたところで、躊躇することなく、口から出まかせがどんどん出て来るのはわかっている。他の誰かのせいにして、スラスラ嘘をつける男だ。
さらに、私が問い正すことで、オフィスの女性が私に告げ口したことがバレてしまう。彼女をトラブルに巻き込むことはできない。
ふーむ・・・、私は彼のターゲットになったらしい。彼には常にターゲットがいる。
クックのジャスミンは、盗人の汚名を着せられた。
「彼女が働く日に限ってチキンがなくなる。絶対に盗んでる!」
私たちは、ジャスミンがチキンを盗まないことを知っている。彼女はヴィーガンだ。けれども彼は、住民にまでその噂を流した。しばらくして、ジャスミンは仕事を辞めた。
リードクックのアラーナもターゲットになった。
「彼女は時間どおりに料理を出さない。怠惰だ。必要以上の仕事をしない。土日に働かない」
小さなミステイクをかき集め、彼女を追い込もうとした。最後には彼女のポジションを剥奪した。給料が減らされた彼女はただちに仕事を辞めた。
遅かれ早かれ、私もアラーナと同じ目に合うに違いない。
彼は、自分の思い通りにできない相手、口答えする部下を嫌う。私がターゲットになる理由?思いつくことと言えば、彼が自分のミステイクを私のせいにした時に、
「人のせいにするな!」
と皆の前で文句を言ったことくらいだ。まぁ、よくわからない。
とはいえ、彼が私に直接文句を言うことはほとんどない。なぜなら私はよーく働く。会社中の人が知ってるくらい、よーく働く。住民も知っている。そしておそらく、私のダンナが黒人だということも、関係している気がする。
そこで彼は、拷問のようなスケジュールを作った。毎日、10時間、12時間の勤務で、休みは日曜日のみだ。
「お金を稼がせてあげようと思って」
こう説明してくれたけれど、まったく信用できない。
土曜日、さすがにしんどいので、腰痛を理由に休んだ。翌土曜日は、頭痛を理由で休んだ。働き始めてほぼ2年、はじめての欠勤だ。
私の欠勤は彼を喜ばせた。
「週末も出勤するのがリードの仕事やのに、ユミは休んだ!」
大騒ぎしたらしい。そこで彼にテキストをした。
「今後、土日は働きません。リードのポジションを取りたいのなら、どうぞ取ってください」
これに対する彼の返事は、
「君のポジションを奪うつもりはない。お金もポジションもキープしとき。俺はそうして欲しい」
だった。ところが彼は、その足でオフィスへ行った。
「ユミがリードのポジションを辞めたいって言うてる」
それを聞いたオフィスの女性が、ただちに電話をしてきた。
「リードのポジションを辞めたいって言うた?」
「辞めたいなんて言うてないで。彼もキープしろって言うてたで」
彼女も彼が嘘つきだと知っている。彼は私のポジション剥奪に失敗した。
けれども、私はこのドラマに巻き込まれるのが面倒くさくなった。
ミーナはただの嘘つきだ。自分を被害者に見られたいのか、注目を浴びたいのか、なんなのかはわからない。けれども、彼女はただのドラマクウィーンだ。彼女と話さなければいい。仕事をする上で、彼女と会話をしなければ、彼女は困るかもしれない。けれども、私はなーんにも困らない。
問題はボスだ。これ以上、彼と関わるとロクなことがない。そこで大ボスのところへ行った。
「リードのポジションを辞めます!ボスの策略でタイトル剥奪されるくらいやったら、自分から辞めます。1ドル、カットするならしてください」
「あなたの給料を減らすつもりはない」
「ありがとうございまーす」
ところが、このことを知ったボスは、ただちにオフィスへ行き、私の給料を減らすように命令した。けれどもオフィスの女性は私の味方だ。私と大ボスの会話を知り、給料をキープしてくれた。
この日のミーティングで私は元気に発表した。
「今日からリードじゃなくなりました!」
スッキリだ。私は仕事へ行き、元気に楽しく働き、帰宅するだけ。指導をする必要もないし、ボスと必要以上に話す必要もない。彼のことは好きではないけれど、適当に話すだけなら、単におもしろい男だ。苦痛ではない。
それでも、この男は変わらない。また、ターゲットは変わるかもしれないけれど、似たようなドラマがあるだろう。これ以上、ここで働きたいとは思わない。仕事は好きだけれど、給料も安いし、これを機に仕事を探すことにした。クリスマス後は求人が減るので、ここ1か月は全力で仕事探しをしている。
そんなことよりも、私は今回のことで、大きな発見をした!
嘘つきボスのことをダンナに少しだけ話すと、彼は言った。
「俺は、お前のボスのすることが全部わかる」
このとき気付いた。ボスのような黒人はたくさんいる!私が直接関わったのは、今回がはじめてだけれど、きっと貧しい黒人街へ行けば、こんな嘘つきは山ほどいる。
ボスは、日本人のご両親にアダプトされた。ということは孤児だったはずだ。決して素敵な幼少期ではなかったと思う。そこは貧しく、嘘が蔓延る世界だったと想像する。彼らは生きるために、自分を守るために嘘をつく。
ダンナがいつも言っていた。
「俺は誰にも騙されない。騙されたくない。誰のことも信用せん。お前のことも信用してない」
なるほど、そういうことだったんだ。妙に納得がいった。
ダンナがシカゴを去りたかった理由にも合点がいく。ボスみたいな人達に囲まれていたら疲れるよ。
彼と暮らし始めて20年、やっと、ほんの少しだけ、彼の環境を理解した。これはこれで、良い経験だった。
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