【創作】脂汗(リライト版)
『教育者』とか聞くと、なんか笑っちゃうんだよ。
まさか、担任教師にイジメを受けるなんて考えもしなかったからね。
本当に酷かったよなあ。あんたの仕打ちは『理不尽』そのものだったよ。
触ったことすらない割烹着を盗んだことにされたり、1度97点を取った以外は100点を並べたはずの社会科の成績を4にされたり、突然何の脈絡もなく僕だけクラス替えをさせられそうになったりもあったっけ。
いつしか僕は自分の髪の毛を抜く癖がついてしまい、気が付くと学校の僕の机の下に「髪の毛の山」が出来上がっていることも度々あったよなあ。
両親にも状況を伝えたし、「学校に行かない」という選択肢もあったとは思うけど、僕は「悔しくて」休むことはしないと決めたんだよ。
僕は『怒り』で心をコーティングすることで、自分を守ることにした。そして、喧嘩三昧の日々が始まったよね。
とにかく強かったよね。『無双』ってやつ。ちっとも嬉しくなんてなかったけど。
今の僕のヘタレ具合から推測するに、「怒りに身を焦がす」というのが、いかに「普通ではない」状態なのかがわかるよね。
そんなある日、あんたに喧嘩をとがめられた時に、怒りが沸点に達した僕はとうとう大爆発して、「クソばばあ、もう死んでくれよ」と口にした。
で、そのままあんたに校長室へと連れて行かれた。
校長先生はあんたの悪評もある程度知っていたようで、僕と将棋をさしただけで特に怒ることもなく、教室に戻してくれたよ。
まあ、だからといってアフターフォローがあった訳でもなく、「大人って汚ない生き物だな」との猛烈な不信感だけが僕の小さな心に残ったんだ。
そこから見事なくらい、学生時代の記憶はほぼない。
僕のねじれにねじれた闘争心は社会人になっても健在で、特に医療事務時代はしょっちゅう後輩と衝突していたっけ。
すぐに「売り言葉に買い言葉」状態になり、最終的に「やんのか、このやろう!」と取っ組み合いになったところを課長に止められたり、電話越しに同僚と罵りあったり。
長年培われてきた何くそ魂が、悪い方悪い方に空回りしていたように思う。
少年時代を引きずる僕の心の叫びは「俺様を馬鹿にすんじゃねえぞ」の一点張りだったんだと思う。
今になって角度を変えて考えてみれば、後輩からしてみたら「プライドだけやたらめったら高い困った先輩を何とかしてあげたい」との優しさもあったのだろうし、決して僕を馬鹿にしていたばかりではないのだろうと考え直せる部分もある。
ホントに子供じみてたと思うけど、当時の僕にはこれしか身を守る術がなかったんだよ。
この前次男が僕に腹をたてて、「大キライ。もうパパなんか死んでよ!」って言ったんだ。
僕は「これは注意しないと」という思いもある一方で、それ以上にじっとりした脂汗が出るような『気持ち悪さ』を感じたんだ。
昔のあんたとの嫌な記憶を思い出したのもあるけど、ただそれだけの『気持ち悪さ』ではなかったように思う。
次男は気が強く乱暴で、ちょくちょく兄をも泣かせてしまう程の攻撃性がある。
が一転、守りに入ると非常に脆く、一旦泣き出すとなかなか泣き止むことが出来ない。
「強い攻撃性」とは裏腹の「圧倒的な打たれ弱さ」。
それは、僕の性質にそっくりなんだ。
僕は長男に甘く、次男には厳しいところがあって、妻にその点をよく指摘される。
「長男は僕と顔がそっくりで可愛いから、ついつい甘くなってしまう」と言い訳していたけど、恐らくは「自分と性質が近く、私より鋭く洞察力のある」次男に「薄っぺらい私を見抜かれてはいないだろうか」という恐怖があって、彼とは距離を取っていたんだと思う。
3歳の我が子が「恐怖の対象」だなんておかしく思うかもしれないけど、本当にそうなんだ。
ただ今回、次男の発言に「じっとりした脂汗が出るような気持ち悪さ」を感じたことは、僕にとっては大きな進歩と捉えているんだ。
「とても気持ち悪い」ということは、「次男と同じ強い言葉を放つ自分を想像するとすごく嫌で、変わりたいと思っている」ということ。
僕の少年時代からの一点張りに固く閉ざされていた心は、「徐々に開かれる方向に進んでいるんだ」と感じたよ。
だから、以前の僕であれば感じることが出来なかったであろうこの『気持ち悪さ』を大切にしたいんだ。
そして、この感情を無理に排除しようとせずに感じ切り、自分に取り込むことで、僕のこれから進む道が見えてくるように思う。
これからはまたそんなことがあったら、浴びせられる言葉の強さに怯むことなく、次男に「なぜその言葉を言ってはいけないのか」を根気強く丁寧に伝えていきたい。
そうして、こうやっていつも大切な『気付き』をくれる次男をもっと愛したいと思う。そうすることで、自分自身をも愛せればと思う。
最後に。
今、あんたが生きているのか死んでいるのかは知らないし、知りたいとも思わない。
ただもし生きていたんだとしたら、今は「死んでくれよ」とは思っていないことだけは伝えたい。
さよなら。
★これは、実話を基にしたフィクションのリライト版です。
