美術鑑賞初めは「ミュシャ展 マルチ・アーティストの先駆者」@そごう美術館
明けましておめでとうございます。
昨年は記事を楽しんでくださり、ありがとうございました! 今年も引き続きよろしくお願いいたします。
早速ですが、2025年最初のnote記事はこちら。元旦も開いていた横浜そごう6階「そごう美術館」で鑑賞したミュシャ展の感想から始めたいと思います。
ミュシャについて
チェコ生まれの画家・グラフィックデザイナー・イラストレーターことアルフォンス・ミュシャについては最早説明するまでもない感がありますね。19世紀末~20世紀初頭、パリで花開いたアール・ヌーヴォーの波に乗ったミュシャの作品は曲線装飾と優美な女性像が特徴。現在でもミュシャの絵と彼の影響をモロに受けた絵はあちこちで目にします。

最近はそのものズバリ Mucha なんてブランドまであるんですね。ミュシャのデザインを使った女性用小物が買えるみたいで、スカーフとかちょっと物欲をくすぐられるデザイン。
展覧会の概要
日本ではほぼ毎年のようにミュシャの展覧会が開催されており、私も過去何度か足を運んだものですが、今回観に行ったのはサブタイトルを「マルチ・アーティストの先駆者」としたミュシャ展。調べてみると2023年から日本全国を巡回しており、そごう美術館がファイナルな模様。
展覧会は5つのチャプターから構成されていまして、順番に『I 挿絵画家としての出発』、『II 成功の頂点――ポスターと装飾パネル』、『III 生活の中のデザイン』、『IV プライヴェートな生活の記録』、『V 唯一無二のオリジナル作品』。
展示品数は絵とその他グッズを合わせて約170点。うち約90点が日本初公開という触れ込みです。
展示品はチェコの医者でありミュシャ・コレクターでもあるズデニェク・チマル博士のコレクションだそう。ミュシャと同時代の人かと思ったら、現在もチェコで元気に暮らしておられる模様。地元出身の偉人のファンなんでしょうね。
I 挿絵画家としての出発
最初の章はミュシャが手掛けた雑誌や書籍の挿絵を多数展示。名を知られる前、若き日の作品が多く、画集でもほとんど見ない絵がいくつも並んでいました。いわゆる「アール・ヌーヴォーのアルフォンス・ミュシャ」スタイルから外れたものも多くて、一般書籍の挿絵用にくどいデザインを抑えたんでしょうか。こんな作品もあるのかと驚きました。珍しいところだと古代インド叙事詩『ラーマーヤナ』から着想したポエム集の挿絵なんてのもあり、見慣れぬ作風が新鮮です。
なお、ミュシャは有名になった後も雑誌の依頼を受けていたらしく、アール・ヌーヴォー感バリバリの作品もそれなりにあります。著名画家になっても商業雑誌の仕事を捨てないところは新時代の画家という感じ。

ミュシャと言われなければ分からないかも。

古代インドのイメージなのだろうが、現代人の目から見るとどこがインド?となる。

パリの大学地区カルチェ・ラタンで読まれた冊子かな?
II 成功の頂点――ポスターと装飾パネル
第二章にはミュシャ作品の中で最も華やかな作品群がまとまっています。
ミュシャの絵とは切っても切り離せないのがフランスの伝説的な女優サラ・ベルナール。
ミュシャの輝かしいキャリアはサラ・ベルナール主演の舞台『ジスモンダ』のポスターを手掛けたことから始まります。そのとき初めてポスターを描いたミュシャでしたが、出来栄えにサラはたいそう感嘆し、即座にその後数年間の契約が決まったとか。その伝説のポスターの実物がこちら。



主演はすべてサラ・ベルナール。男性役も女性役もこなすマルチスター
これらのポスターは大抵の画集に収録されており、綺麗に色彩補正されたものを見たことはあったのですが、今回は当時そのままのポスターということで色褪せていたり折れていたり、生々しいリアリティがありました。
なお画集では分からなかったのですが、サイズは存外結構大きくてほぼ等身大かもしれません。
また初めて気が付いたのですが、ものによってはポスターの金や銀の部分がラメ印刷になっており、角度を変えて見るとキラキラ光るんですね。


いやー、綺麗ですね! 図案そのものは画集で見慣れたものなんですが、光るとは知りませんでした。ラメ入りポスターがパリの劇場近くを無数に飾っていたら、とても華やかだったでしょうね。

サラ・ベルナールの舞台以外にもポスター作品は多々あります。ミュシャの代表作『黄道十二宮』、Jobブランドのタバコのポスター、カレンダーとして作られた『ビザンティン風の頭部:ブロンド、ブルネット』などなど。どれも100年前のものとは思えないくらい色鮮やかで、洗練されたデザイン。逆に言えば、我々は未だにミュシャの作り出したデザインに支配されているのかも…?





左下に貼ってある月日の紙から分かる通り、カレンダーとして作られたらしい。
ブルジョワジーの邸宅の壁を美しく彩るために作られた装飾パネルも登場。並べて見栄えがするように四連作になっているものが多いですね。いずれも洗練されたデザインでうっとりします。




展示後半
『III 生活の中のデザイン』では絵画そのものではなく、ミュシャのデザインを元にした紙ものやお菓子の缶などが登場。装飾皿も作られていたようで、『ビザンティン風の頭部』の飾り皿は手が込んでいてとても綺麗。またフリーメイソン会員だったミュシャは、チェコのヤン・アモス・コメンスキー支部のメダルもデザインした模様。マルチに活動してますね。


部分的に使用済みになっていてリアル

『IV プライヴェートな生活の記録』は出展数10点程度。ミュシャの初恋の人情報や家族の写真自画像などが登場します。学生時代のノートの落書きが出ていましたが、もうこの時点で十分に絵が巧い!

ラスト、『V 唯一無二のオリジナル作品』ではタイトル通り1点ものの絵を扱っています。と言っても油絵ばかりではなく、例えば挿絵の原画もこの分類。スケッチも多数出ていました。
油絵が結構面白くて、『鏡を持つ少女』はひなげしの花を飾った少女の顔がリアルな油彩画とも重厚なタッチのイラストともとれる雰囲気で斬新でした。

まとめ
アルフォンス・ミュシャ、改めて見ると面白い画家ですよね。
十分な基礎画力があるのに、芸術のための絵画ではなくて、印刷され広く頒布されるための商業デザインが彼の本領発揮の場でした。
でも、だからと言って金儲けに走りすぎることもなく、後にパリを去って故国チェコのために尽力します。
この展覧会ではそんなミュシャを「マルチ・アーティストの先駆者」と捉えて紹介しています。確かに純粋芸術からははみ出していますが、簡単に消費される流行ではなく、現在に残る確かな何かを生み出したミュシャ。この時代でなければ生まれなかった新しいタイプの芸術家なんだなぁ…等と、色々なことを考えた展覧会でした。
