☎️ 24時間テレビ
思い出に
その時、私は高校3年生だった。
高校最後の夏休み、普通なら受験に向けて勉強の真っ最中のはずだが、
「24時間テレビの電話のボランティアに行けへん?」
と友人に誘われた。
24時間テレビとは、チャリティーを目的とする24時間生放送のテレビ番組だ。
類は友を呼ぶのか、受験生にも関わらず私を含め4人の友人が集まり、高校最後の思い出にと出掛けることになった。
当時は土曜日の19時から翌日の19時まで、正味24時間の放送だった。
夕方の事前説明会に向けて私たちは待ち合わせ、バスと電車を乗り継いで大阪読売テレビ局へ出掛けた。
大勢の女子高生が、ほとんど私たち同様に興味本位で集まって来ていた。
私たちはお揃いの黄色いTシャツを支給される。
ボランティアではあるが、交通費名目で一律一人千円が支給された。
また、食事の支給もあった。
土曜日の夕食、夜食、日曜日の朝食、昼食の食券が配られ、局内の食堂で食券を出すと決められた食事が提供された。
ありきたりな食事ではあったが、無料で食べさせて貰うのだ。
文句などありえない。
私たちは4つの班に分けられ、スタジオに1班、会議室に2班、休憩に1班のシフトで、一定時間ごとに電話番をすることを告げられる。
当時はスマホなど無い時代である。
説明会が終わるとみんな一斉に局内の公衆電話に向かったものだ。
「今日の◯時と、明日の◯時にスタジオやから」
と、テレビに映るかも、の時間帯を家族や友人に教える為だ。
だが、実際にスタジオの雛壇に座り電話番となると、カメラなど意識していられないほど忙しかった。
芸能人
テレビ局へ来ての楽しみは芸能人に会えること。
私たちは漠然と思っていた。
確かに当時は空前の漫才ブームで紳助・竜介さんたちもいたし、当時はまだ大阪で仕事をしていた明石屋さんまさんにも遭遇する。
オール巨人さんにはTシャツにサインもしてもらった。
それなりに楽しかったが、モニターのテレビからは
「こちら東京の武道館にはトシちゃんが来てくれました!」
「聖子ちゃんが来てくれました!」
と、まばゆいばかりのアイドルが次々と紹介されている。
一方、大阪では賑やかな吉本新喜劇の一団が場を盛り上げるばかりだ。
結局、大阪にはお笑い芸人しかいないと落胆する。
そして友人たちと休憩時間にモニターを見ていた時だった。
「大阪のスタジオに長江健次さんが来てくれました!」
長江健次さんは当時、萩本欽一さんのバラエティー番組『欽ドン!』の中で、”良い子悪い子普通の子“の普通の子役で人気を博していた。
「行こか!」
私たちは休憩室を飛び出し、スタジオへ急ぐ。
もちろんスタジオの中には入れないが、ドアが開け放たれた廊下には既に多くの人が群がっていた。
私たちは背伸びをしたり人の間からスタジオを中を覗く。
会話は聞こえなかったが、姿を見ることは出来た。
そして私たちは一言
「ほんまに普通やなぁ」
私たちはアイドルに飢えていた。
注意事項
話は戻るが、土曜日の事前説明会では注意事項もある。
スタッフが言う。
「時々、『お姉ちゃんの電話番号教えてぇやぁ』という電話が掛かってくることがあります」
会場を埋め尽くす女子が一斉に騒ぐ。
「アホやな」
あちこちから声が聞こえる。
スタッフは一段と声を張り上げ
「どんなことを言われても、絶対に『アホ』『ボケ』は禁止です!」
大阪らしい注意である。
「そういう電話が掛かってきたら、『そのような質問にはお答えできませんので失礼します』と言って電話を切ってください。ボランティアとはいえ、皆さんには読売テレビとして電話を受けてもらいます。決して失礼な対応のないようにお願いします」
当時からマスコミはクレームには敏感だった。
場内は女子の失笑に包まれた。
アホが来た!
その時、私たちはスタジオでの電話番だった。
日曜日の昼下がり、放送終了まで6時間を切り、募金の電話もひっきりなしに掛かってきた。
そんな中、私が電話を取ると
「ネェちゃん、電話番号教えてぇやぁ」
男の声がした。
___うわっ、アホが来た!
電話なので相手の顔は見えないが、いかにも軽薄そうな声で、本当にこんな電話をする者がいるのだと驚く。
私は事前説明会での注意を思い出し
「そういうご質問にはお答えできませんので失礼します」
暗唱するように言った。
そして電話を切ろうとしたところ
「ちょっと待て」
男の口調が変わる。
「おまえ、電話番号教えへんかったら、おまえの家に火ぃ付けるぞ」
男の声には凄みがあったが、このセリフには決定的な問題点がある。
___私の家知ってるなら、それでええやん
電話番号を聞く意味が分からない。
「はぁ」
つい私の口から、ため息とも生返事ともつかない声が出た。
これに男が激怒する。
「分かってんのか!? 火ぃ付けたら火事になんねんぞ!」
___分かってるわ、ボケ!
禁止ワードは心の中で叫ぶ。
それと同時に、一抹の不安が頭をよぎる。
___これは、ほんまもんのアホかもしれん
私は改めて
「失礼します」
と言うと耳から受話器を離し、電話を切る。
電話を切る寸前、受話器から何やら怒鳴り声がしたが
___しらん!!
おわり
