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雨の遍路道 受け取ってしまう

みずみずしい黄色。
受け取った八朔は、手の中で予想以上に重い。
よくわからない手製のキーホルダーは、毛糸だ。
拒める雰囲気ではなかった。

老婆は「お接待だ」と言って、目を細める。
猫でも背負っているような背中で、遍路道を歩けるとは思えない。

姿が見えなくなってから、
「頂いても困るわね」と妻が小さく言う。
次の寺で奉納することを思うが、口には出さない。

私たちは、お大師様の教えを信じているわけではない。
歩くことで何かが見えてくる、と期待しているわけでもない。

やがて雨になる。
傘をさし、大きな橋を渡る。車がしぶきをあげて走り去る。
私は妻の背中を見る。
赤いザックに、水滴が流れている。

歩き遍路に、何を求めているのか。

教会の中の、あの静けさを思い出す。
音が吸い込まれるような空間で、ただ座っていた時間。

この旅は、彼女の希望だった。
その中に彼女を置いていることに、どこかで申し訳なさを感じている。
けれど、前を行く足取りは軽い。
さっきの言葉とは裏腹に、楽しんでいるようにも見える。

ザックの中の八朔が、やけに重い。

雨足が強まる。車がしぶきをあげて走り去る。
防水加工を通して、やがてすべてを濡らしてしまうだろう。

次の札所は、植物園が併設されている。
少し山路を登る。靴の中にも雨が染み込んでくる。

太子堂の軒先で雨宿りをしている外国人のカップルがいる。
言葉を交わす。
今日はもうやめたほうがいい、と誰かが言う。

ふと、彼らがザックから八朔を取り出す。
私も、自分の八朔を見せる。
顔を見合わせて、軽く笑う。

私はザックを下ろす。
毛糸のキーホルダーを取り出す。
おみくじを結びつける木の枝に、並べて結ぶ。

それを見て、外国人が同じように結ぶ。

キーホルダーは、私たちだけではなかったことに気づく。

ザックの中が、少し軽い。

雨音の中で、理由ははっきりしないまま、
ただ歩いている。

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