本雑綱目 96 窪田蔵郎 製鉄遺跡
今回は窪田蔵郎『製鉄遺跡』です。
ニュー・サイエンス社考古学ライブラリー 15、ISBN-13 : 978-4821603152。
NDC分類では210。歴史>日本史
1983年のペーパーバックで、それなりに古い。
前提知識必要度(製鉄):★★☆☆☆
知識というか製鉄に興味がないと面白くない系統の本。
これは乱数メーカーを用いて手元にある約6000冊の本から1冊を選んで読んでみる、ついでに小説に使えるかとか考えてみようという雑な企画です。時々恣意的に選んでいることもあります。
★図書分類順索引
1.読前印象:窪田蔵郎 製鉄遺跡
自然科学でも技術・工学分類でもなくカテゴリは歴史になるのか。考古学って立ち位置が不思議だな。
さて製鉄というけど日本の製鉄の話かしら。確か日本の製鉄技術は製青銅とさほどタイミングかわらず大陸から流入した記憶があって、日本はいい鉄鋼脈が浅いところにあまりなかったから、主に河川の砂鉄を主原料としてやがて空気を抜く技法、つまりたたら製鉄に発展していくものと記憶している。古代というとどのへんだろうか。中国の戦国末期の製鉄技術ならものすごく興味があるんだけど。
とりあえず開いてみよう~。
2.目次と前書きチェック
まえがきを読む。
製鉄遺跡は年代を決定するほどの編年体系がないため、形式から年代区分することは不可能だ(当時の認識と思う、現在は不明)。年代が判明する中国地方の永代たたらは別として、古代・中世の製鉄遺跡を解明するためには科学調査だけではなく、伴出する生活遺物や周辺旧家の古文献等を多面的に研究する必要がある。本書では未だ研究の足掛かり程度であるが、今後の調査を期待したい。
中世までならともかく古代の製鉄に関する古文書なんて存在するのだろうかといいつつ、この本が出版された後の日本の製鉄の本も少しは読んでいるので、ざっくりした入門書的に読むのがいいのかしらん。
目次を見る。
『原始的な製鉄遺跡』、『永代たたらの遺跡』、『鍛冶工房と鋳造工房の遺跡』、『採集された羽口』、『砂鉄及び添加物』、『鉄鉱石と木炭』、『鉄滓の判断方法』、『鉄器の材質』です。小見出しをみれば、わりと原材料マターの話が多い感じ。
『永代たたらの遺跡』、『鍛冶工房と鋳造工房の遺跡』、『砂鉄及び添加物』、『鉄器の材質』を読みます。僕の興味は小説の中で鉄を打たせることだから。青銅や大砲は鋳造なイメージだけど、やっぱり日本の製鉄は鍛造のイメージが強い気分。僕が書くとしたら幕末の反射炉か、今書いてるのは戦国時代の中国だ。
いつも通り前段はまとめ、後段は感想・雑感。
3.中身
『永代たたらの遺跡』について
ーまとめ
永代たたら技術は長い歳月をかけて江戸時代中期に開化した。
高殿、天秤吹子、大形炉を組み合わせ、真砂砂鉄の産地近傍で発達した玉鋼や鉧製造を目的とする鉧押法(直接還元法)と、全国的に算出する赤目砂鉄を用いた銑鉄を作ることを目的とした銑押法(関節製鉄法)にわかれる。
一般的な高殿建屋は床面一辺18メートル、高さ10メートル弱で、隅を切った円形に近い丸打建屋と正方形又は長方形に近い角打建屋がある。砺波島では水車送風の工夫もされていた。主柱は4本。
往古の永代高殿遺跡では永代たたらが稼働した伝承があり、土地の変形や鉄滓(製錬時に分離した不純物)の出土が発見の端緒となった。近世に属するものは鉄山跡と知られていることも多いが、江戸中期以前は言い伝えが忘れられている場合も多く、一区画だけ農作物が生育しないとか整地工事等でその痕跡が発見されることで発掘される。その他、地下工事や吹子の構造について。
ー感想
あれ。江戸時代って中世というより近世か?
基本的に永代たたら遺跡の構造や発見の仕方が書かれていて、これはこれでとても製鉄現場を想像するのによいのだけれど、やっぱり考古学マターだなと思う。考古学って不思議なほどに動いている人間が見えてこない。その少し距離を置いた記述こそが客観に把握するのにいいんだけど(一人称視点だと客観情報がよくわからなくなるやつ)、なので人とその伝聞を中心とする民俗学とはやっぱり仲が悪そうだなと思う。
『鍛冶工房と鋳造工房の遺跡』について
ーまとめ
製鉄の創始は、壱岐原で出土した弥生中期ごろの鉄挺半片(短冊形の鉄素材)を含む鍛造鉄器だろう。木炭を燃料に鉄塊を装入し、吹子の風で灼熱し、金敷の上で鉄槌で鍛えて成型する。原始的な炉で精錬していた時代は還元鉄中の不純物を鍛造して絞り、半製品とした。これは製錬作業に分類され、続日本紀でいう作金者の仕事に相当する。
18世紀になれば、これが大鍛冶と呼ばれる独自の中間作業分野となる。奈良時代から続く小鍛冶と鍛冶火床の設置や操業方法は大きな差異はない。骨子となる技法にあまり変化がないため、発掘調査のみでは稼働年代の判定は難しい。鋳物用の銑鉄は甑炉で溶かされ、適温の頃合いで鋳型に流し込んで冷却し、余剰を切除して仕上げる。
その他詳細な技法について書かれているが、これらの製法は江戸初期のものでそれ以前は不明だ。養老令(奈良時代)等にも職制は記載されても技術記載はないし、延喜式(平安時代)の内匠寮の鋳造記載は非鉄が対象だ。本邦の鋳物の発祥は丹南とされるが鋳造遺跡は青銅が多く、鉄は極めて少ない。
ー感想
日野郡史等の資料がいくつか紹介されているのは参考になる。
鋳造と鍛造はその性質から用途が異なる印象がある。例えば鍛造は硬度を上げられるが(同時に脆性も生じる)、鍛造は殷の青銅器のように複雑な形状を作ることができる。そういえば戦国後期までの中国では鉄は悪金と呼ばれてて、多分酸素含有量が高いからもろくて剣に向いていなかった。一方で単純に鉄の方が粘土が高いので、わざわざ鉄を複雑な鋳型の形状にはめても詰まる。その辺が用途で分れるのではないかと思う。七支刀なんかの装飾性の高い刀は鍛造ではなく鋳造のような気はする。
『砂鉄及び添加物』について
ーまとめ
山砂鉄について、砂鉄含有量の多い産地の表土を削り、水流で比重選鉱する鉄穴流しの技法で採取する。花崗岩系酸性母岩からとれる真砂砂鉄と塩基性の安山岩等を母岩とする赤目砂鉄がある。奈良時代にすでに鉄穴という言葉があり、小規模な竪穴又は横穴から坑道掘りに近い方法で行われたと考えられるが、文献等もなく実態は不明だ。現在伝わる鉄穴流しの実施は16世紀頃で、山鉄穴仕が崖下に立って打鍬で下部をえぐるように崩し、自重で土砂が崩落するように掘り、水流中の岩石や段差等で砕かれながら山麓へ送られ、下流の下場で砂鉄と土砂の水選分離が行われる。
川砂鉄について、砂鉄を胚胎する山間部を源流とする河川はその川底に砂鉄層を形成する。川底と呼ばれる木製鋤のような道具ですくい集めて川船へと取り上げる。
浜砂鉄について、川底に沈殿せず海まで流出した砂鉄分が波浪によって波打ち際に堆積したもので、様々な性質のものが混じる為に上質ではないが、採取がしやすく量ががまとまり安価のため、海岸近くのたたらではかなり消費された。塩分が高くてさびやすい等書かれた文献もあるが、誤った説である。清水で洗い精製し、仮に塩分があっても製錬過程で分解されるため鉄質に影響しない。
赤目砂鉄は土地によってはチタンが多い難還元性であり、羽口(ふいごで炉中に風を送るための管)付近に溶滓が粘着して通風孔を塞ぐ欠点がある。
廃砂、つまり鉄穴流しで比重が砂鉄より小さいものは下流に流れて河川氾濫の原因となるが、たたら製鉄の際に配合して還元や溶解を促進させる役目をもった。昭和に入って建築骨材となった。カルシウムを砂鉄・木炭と装入して製錬温度を上げることで銑鉧の生産量を増加し林分の含有量が下がることが発見されたのは、明治期である。鉄滓に牡蠣殻を含むものはカルシウム添加をしたのではないか。
ー感想
川砂鉄しか把握していなかったけれど、砂鉄にもいろいろあって産地によって違いが結構あるんだなと。そうすると、どこに炉を建てるかも考えないといけない。それによってつくれるものが変わってくる。こういう要素的なところはわりと好きな分野だ。
干将莫邪書いてるんだけど、カルシウム混ぜてみようかな。干将莫邪も五山を回って各地の石や土を採取してたし。正直なところ古い技術というのは当時にとって秘すべき技術であるか、業界人はみんな知っていたような技術で、いずれにしても文献に残ることは少ないのが残念だ。
『鉄器の材質』について
ーまとめ
鉄鋼といえど鉄中の炭素含有量によって性質は著しく異なる。現代では炭素分の高い方から銑鉄、鋼、純鉄と区別するが、昔もほぼ同じ。
銑鉄は炭素分が多いため固いがもろく、肉厚の鉄鋳物は少しの衝撃で簡単に割れる。白銑を脱炭したものを除き、加熱しても叩き伸ばす等の加工はできず、鋳物とするしかない。
鋼は銑鉄をもう一度製錬して炭素を減らし不純物を除いたもので、かつては生産が非常に困難だった。原始的な炉で炭素分の低い還元鉄を製造した折に羽口付近で温度が上がり、十分還元されて若干炭素分を吸収した部分を小割選別されて、鋼として選ばれた程度に過ぎなかったと思われる。その後、砂鉄の条件に恵まれた雲伯(出雲国(島根県東部)と伯耆国(鳥取県西部))地方の真砂砂鉄を原料としたたたら吹きで玉鋼を作るために用いられたのが鉧押法である。
銑鉄を火床中で温度や酸化工程に留意しつつ半溶融にして炭素を脱炭させ鋼とし、あるいは炭素分の低い極軟鋼に近い鉄を成形鍛造して鋼を必要とする刃先等に銑鉄の小片を乗せて半溶融して丹念に鍛造し、局部的に質を平均化して鋼とする方法が考案された。炭素分の高い銑鉄中に炭素分の低い還元鉄を入れて溶融させ不純物を分離し、炭素を下げて鋼を作ったものが中国に古くからある灌鋼法だ。たたら吹きの玉鋼等の上質鋼は大鉧塊を破砕した中から1/4程度とれる。ケイ酸化合物を若干含むが燐・硫黄等の有害不純物は極めて少なく、鍛接性に優れる。
純鉄は炭素が0.02%程度で軟らかすぎ、生産工程が複雑でごく特殊な用途のみに用いられる。しいてあげれば古来の鍛鉄・包丁鉄は、このような科学的な純鉄ではなく極軟鋼に相当する。繰り返しの鍛造により加工性の良い極低炭素の鉄素材となり、付け鋼の技術によって日用金物類や農工具に用いられたが、質が不均一のため折り返し鍛造を経た結果、純鉄というよりヨーロッパの錬鉄に近い素材となる。
原料鉱石から酸素を奪うのが還元であり、古代製鉄の産物としての還元鉄は極めて不均質であるが、海綿状を呈し金属鉄に近い性質を持つ。古代で鉄は貴重なため半成品はほぼ出土されず、古墳に副葬された鉄鋌という鉄板が唯一である。還元鉄を鍛造したもので、炭素0.1%と比較的低酸素であり、計算、酸化カルシウム、三価アルミニウムを主成分とし、酸化鉄の球状析出物を含む。出土する器物はほぼ完全に銹化しており、生産時使用時の姿態を留めた例はまずない。その他古墳中の銹化の状態についてと各時代の鉄器について。
ー感想
何故各時代の鉄器の性質を一番最後にもってくるんだと思いつつ、よく考えればこの本は製鉄遺跡の本であってそれによってつくられた鉄器というのは重要度は相対的に下がるのだな。この配分の仕方に考古学者を感じる。
とはいえ鉄及びその精製がどのようなものかが結構具体的に把握できたので、つまり欲しい鉄をどうやって作るかの指針になる。それにしても俵国一の『古来の砂鉄精錬法』、欲しいな。古本でもすごく高い。主に明治期の製鉄の話らしいけれど、僕は明治でも鉄造りそうな気がするので。
灌鋼法は確か二世紀頃だ。一部の伝承で干将に依頼したとされる呉王闔閭が在位していたのが前五世紀頃なので、正直これを700年さかのぼらせるかすごく悩んでいる。内容に対する感想じゃなくて僕のメモになっている件。
まとめ
全体的に、遺跡と言いつつ近代遺跡も含まれていて、というか主には江戸期の製鉄のような気はするが、ともあれ現代ではない製鉄の具体というものがわりと把握しやすい本。もちろんこの本が出た以降に発掘された遺跡の個別調査報告書の本も出ているけれど、ブックレットの短いサイズで比較的に網羅されているのは取っ掛かりとしてよいと思う。
小説に使えるかというと、鉄を打ちたいなら今まで見た中で一番まとまってて役にたった。小説の中で鉄を打ちたい人がどのくらいいるのかわからないけど。なおこの本は基本的に江戸期あたりの本邦の本なので、近代的な高炉はこの延長線上にあるとしても、ベッセマー転炉や反射炉の話をするなら別途の資料が必要だ。なんかめっちゃ推してるけど、ガチで小説で製鉄する人はあんまりいなさそうだから、僕以外はあまり役に立たないかもしれない。
4.結び
僕は設定ガチ勢(そんな用語があるかどうかは別として)なのでファンタジーで都市を発展させるにはどうやって鉄をつくるかとかアスファルトを作るかとかで頭を悩ませている。インフラは大事だ。技術というのは具体が残っていないことは本当に多い。もっと技術の本が欲しい。
次回は若桜木虔、長野峻也『時代劇の間違い探し 峰打ちしたら刀は折れる』です。
ではまた明日! 多分!
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