見出し画像

本雑綱目 69 稲垣耕一郎監 図説中国文明史 2 殷周 文明の原点

今回は稲垣耕一郎監『図説中国文明史 2 殷周 文明の原点』です。
創元社、ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4422202532。
NDC分類では222、歴史>中国に分類しています。

これは乱数メーカーを用いて手元にある約5000冊の本から1冊を選んで読んでみる、ついでに小説に使えるかとか考えてみようという雑な企画です。

★図書分類順索引

1.読前印象

 殷から周への革命は丁度王道でない話を書きたかったとこなんだけど、当時の文献が甲骨文字や青銅器等に刻まれた金文でしか残っていない(竹簡木簡は経年での残らない)。とはいえその数は遺跡発掘進展(未だに殷墟からも)によりどんどん増えているので、そのへんの資料ならとても素敵。
 表紙を見ると青銅器(殷の青銅器は技術特異点的に高度だった)とか出土物っぽいのかもしれない。殷というと高度な呪術文化と生贄のイメージだけど、周だって奴隷はいるし生贄にもしていたはずだ。司馬遷の周シンパのせいで周のイメージは一般的に高止まりなのだが、僕はあんまり好きではないのだ。中国の歴史は勝者の歴史なのでそれ含みで真偽を判断するのだが、なぜだか周だけは無条件信頼をもたれてそうなところが気に食わない理由な気がする。周って夏や殷(夏は同時代の遺跡、殷は中期以降の隠居が発掘されているけれど)より意識上の実在性が高いのは、ひょっとしたらそれは周代にまとめられた礼(とされる周令等の書物)が規範として後世に残ったからかもしれない。
 とりあえず開いてみよう~。

2.目次と前書きチェック

 序文を読む。中国文明は多元であるが、本来文化文明は多元的なものである。メソポタミアやエジプト等の文明は衰退し一定時期で文明として断絶したのと異なり、黄河文明は数千年継続している。王朝や支配民族が移り変わっても断絶したと認識されないのは、根底を流れる何かが共通しているからだ。その原型が殷周期にあり、漢字と礼制が文明の原点ではないだろうか。漢字は表音言語と異なり音を超えた意味を持つため、支配者の言語(音)が変化しても意味を失わなかった。礼制は単なる決まり(法)という以上に文化的な規範を示した。
 目次は『1章 政祭一致の神権王朝』殷人の起源と殷王朝の都城、王権と神権、王室指揮下の氏族軍隊、殷王朝周辺の国々、『2章 青銅時代 物質生活の革命』青銅時代の幕開け、生産工具の変革と暦法の進歩、商工業の発展、『3章 殷王朝の文化』文化と芸術、『4章 礼制を命脈とする王朝』勃興から建国へ、西周の封国、宗周の隣国、辺境地域と民族交流、戦車戦の時代、『5章 等級の厳格な社会生活』貴族の礼制化された生活、社会の下層にある平民の生活、『6章 西周の経済発展』商業の発達、農耕・牧畜の創造と発展、手工業の発展、文化と芸術、となる。
 どれも気になるんだけど、『1章 政祭一致の神権王朝』と『2章 青銅時代 物質生活の革命』、『3章 殷王朝の文化』を読みます。まあ殷全部。

3.中身

『1章 政祭一致の神権王朝』について。
 殷の各都城の解説。遺構の写真や出土物の写真や図(卜骨や生贄の捧げ方やら)が多く貼られていてわかりやすい。刖刑は残酷だと書いているが、春秋戦国でも行われていたので、この本の評価は現代と比べてであることを留意したほうがよい気はする。炮烙自体は多分、似たような刑(例えば熱した青銅の柱を抱かせるとか)はあったかもしれないが偽情報だと思ってる。青銅製のノコギリで切られるのは痛そう。象形文字で手かせに『幸』の形が当てられているのが闇深い。
 死後も人の魂は不滅で、地下に宮殿を築き同じ環境に暮らせるようにするというのは、この世にカーを残す古代エジプトに通じる気がしてきた(エジプトが生贄を埋めず服装品で生活を確保したのは、魂の審判が一人一人個別ににあって同じ場所で暮らすわけではないからだろうか)。
 殷は氏族に各地を治めさせ(というよりもともとそれぞれの領地だったんだと思うけれど)、それら氏族兵を戦争に用いた。殷代前期に戦車は既に存在したが、次第に歩兵から戦車が中心となり、射手が重要視された。戦法は夏の方陣から軍を3つに分ける三師戦法が中心となる。戦車戦では標的になりやすく避けるのが困難なため、防具が発達した。弓を射るのに用いる玉制の指サック等、細かな装備まで工夫が凝らされていた。
 青銅器かわいい。

『2章 青銅時代 物質生活の革命』について。
 青銅器の作り方がわかりやすく書かれていて良い。
 殷代にすでに鉄器の加工場があったのは知っていたのだが、そんなに隕石が降るのか疑問だった。鉄は強度があることを知っていたと記載されているけれど、それは隕鉄そのものが器具に使えるレベルでなければ使用は限定的だったんじゃないかなあ。戦国期までおそらく炉の温度を上げる方法がなく、鉄は脆くて悪金と呼ばれていた記憶。ああ、足のある青銅器はそのまま火にかけていたのか。かわいい。後期のほうが分厚いというのは少し意外。
 殷代の酒器は実に様々な形状をしているけれど、飲みづらくなかったのかな。
 農具や服飾(絹織物)も種類が多くあることからも文化が豊かであることがみてとれる。ということは政治的に安定していたということだろう。

『3章 殷王朝の文化』について。
 文字の変遷(殷代金文から現在の文字)までの一覧が面白い。また、殷代ではすでに多くの楽器と音律が存在し、音階が定められていたとみられる。桑林という楽曲は宋代まで残った。
 玉器を削るのってマジで大変だなと思う。骨器(象牙含む)、木工についても芸術性は極めて高かった。

 全体的に、殷周時代の文化と技術の発展度を見るにはとてもよい本だと思う。視点の多くが出土物を中心としているのでブツ中心視点になるのは当然だし、僕としては甲骨文字の記載内容からみた戦争の歴史(出兵記録や論功記録)が知りたかったけれど、それは他の文献で調べよう。図説というだけあって豊富な写真資料があり、とても素晴らしい。特に服地の模様とか身分によっての服地の違いがあってとても参考になる。
 小説に使えるかというと、この時代を書くなら使えると思う、けど多分ラノベだとここまで期待されていない気がする……? この時代で歴史小説を書くなら読んどいたほうがよき。なにしろ絵写真は目からダイレクトに入るので。

4.結び

 この時代の資料があることが奇跡的なものの、散逸資料も多いんだな(そもそも甲骨は薬として売っていたり、漢方屋と学者の間で熾烈な闘いがあったりとか色々聞いた)という印象。それにしても婦好の墓は盗掘されていないというのは驚いたな。女性の戦闘シーンを知りたいので追加で調べてみよう。
 次回は雑誌、歴史学研究 664 特集:歴史における『奴隷包摂社会』です。
 と思うのだけど、読書ストックが減ってきたので別のエッセイを投げ込むかもしれませんが、あしからず。
 ではまた明日! 多分!

★似たテーマの本

★一覧のマガジン

#読書 #読書レビュー #レビュー #うちの積読を紹介する #書評 #読書感想文 #note感想文


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集