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【短編小説(BLコメディ)】その時の俺は2 5000字

[HL:なんでか執事喫茶に行ってくるの巻]

ー前回のあらすじ↑
女装子の久哉は甘ロリで出歩いていた時、同級生の弘毅に会い、何故だか久哉のドッペルゲンガーと勘違いされて相談を持ち掛ける。その内容は『久哉が好きなんだけどどうしたらいいか』だった。知らねえよ。

 はぁ。今日のお出かけは最悪だった。
 予約してたカフェだってキャンセルしてすぐに帰ってしまった。幸いにも席予約だけだからキャンセル料はかからなかったけど……。だって帰りにまた弘毅にでも会ってしまえば最悪じゃんか。せっかくの休みが台無しになった気分だ。
 衣装の汚れをチェックし、シャツとヘッドドレスだけネットに入れて洗濯することにする。ほとんど着てないのに。あまり洗うと痛むんだけどな。ああ。そんなわけでジャンパースカートを丁寧にたたんでクロゼットの奥にしまおうとしていた時、LINE!LINE!と音が響く。その音は既に、嫌な予感は満載だった。
 俺はLINEなんて中学の時に義理で入れた以降、ちっとも使ってない。だからそもそも連絡がくるとすれば、昼間に連絡先を交換した弘毅だけだった。

 おそるおそる机においていたスマホを取り、その発信者の名前を見れば『弘毅』。ダイレクトすぎて何かが心にズドンとのしかかる。テンションは限りなく下がった。せめて違うIDなら気がまぎれたかもしれんとため息をつく。
「こんばんは! 久哉のドッペルゲンガーさんでしょうか!」
 なんだこの謎の呼称と元気のよさそうな文章は。既読にするかどうかすら悩む。スマホ自体が負の遺産と化したような気分だ。バックレてもいいかな。うん、知られたのLINEだけだしバックレて丸ごと削除しちゃえば。
「すいません! 今日の先ほど街でお会いした者です!」
 今日の先ほど?
 ぼんやりと憂鬱に眺めていれば、1分刻みくらいでLINE!LINE!とスマホは俺を責め立てる。これ、返事しなきゃ朝まで続くんじゃないだろうなという不安と、一文ずつ断片的に表示される『久哉が』とか『久哉に』とかから始まる謎のメッセに怖いもの見たさ半分で、無意識に画面をタッチした瞬間、激しく後悔した。
 LINE!LINE!
「あっ読んでくれたんですね!」
 すぐに表れた文字がこれでげんなりした。しかし既読を目撃されてしまった以上、何らかのリアクションを返さないとまずい気がすると思えばLINE電話がかかって来る。げんなりだぜ。

「えっとあの、私別にドッペルゲンガーじゃないんですけど」
「あ、えっとすみません、えーとHFさん?」
 その呼称にLINEの登録ネームを変えていなかったことに戦慄し、イニシャルだったことに安堵した。藤森ふじもり久弥。それが俺の名前。
「あ、えっと、LINEあまりつかってなくて名前は適当で」
「そうですか。なんて呼べばいいですか」
 ぐいぐい来るなぁ……。
「ええと、茉莉まつりでお願いします」
「茉莉さん、かわいいお名前ですね!」
 唐突に思い浮かんだ姉の名前。実体との乖離におののく。
「ところで来週お会いできますか!」
 来週、かぁ。いずれ一度は会わないと止みはしないんだろうなあと暗い気持ちになる。なるべくなら会いたくない。もし俺が万一ドッペルゲンガーじゃなくて久哉本人とばれたら……とか想像したくもない。

「まぁ、いいですけど」
「じゃあ駅前の牛丼屋とかどうですか!」
 ふざけんな! と怒鳴りたくなるのをぐっとこらえる。
 そういうのは男子高校生が部活の終わりとかに行くもんだろ。いや、俺たちが男子高校生であることには間違いない。けれど牛丼屋に行くと大事な服に匂いが付くじゃないかっていうかそれ以前に浮くだろ、甘ロリで行ったら。

 ……そう。そこが問題だ。
 つまり目下、何を着ていくか、だ。いくつか問題点がある。
 一つ目、先週偶然会った時と同じような服じゃないと意味がない。久哉の格好で行くわけにはいかない。弘毅にはあの女装の俺は、俺のドッペルゲンガーってことに収めないといけないから。
 二つ目、俺が女装していった場合、弘毅が知り合いに会った時に地獄になる。弘毅がポンコツすぎるから気が付かなかっただけで、ドッペルゲンガーの俺は俺によく似ている、というか似ているもなにも俺なわけだから、至近距離だと俺とバレる。化粧自体はそんなに厚くしていないから、いやそうでなくても多分、弘毅じゃなければ俺とわかるのだ。だって俺だし。そして弘毅はとても友人が多いタイプだ。
 ああ。積んだ。なんで二週連続でこんな糞つまんねぇイベントこなさないといけないんだよ……先週だって……!
 あ。そうか。いっちゃえばいいんだ、カフェ。個室だし。

「あの、行きたいカフェがあるんですけど、いいでしょうか」
「ええ、もちろん。俺が無理を言っているので」
 お、意外と良識がある。
「えっと、少しお高いんです」
「大丈夫です、小遣いもっていきます!」
 小遣いとか……小学生じゃないんだから。でもまあいい。予約画面を開く。今週日曜、二人……。
「Crown of the nightっていうお店です。地図を送りますけど、日曜の午後3時にこのお店で待ち合わせでいいですか?」
「はい! わかりました!」
 ここなら個室だし、早めに行って待っていればいいし、先に帰ってもらえれば誰にも見られることはない。俺が弘毅と一緒にいることを。

 そう思ってやってきたCrown of the nightはいわゆる執事カフェだ。本式ではあるものの割に敷居は低く、甘ロリで入っても全然オッケーだという前情報は得ていた。三十分ほどは先についてアールグレイを嗜みつつ左右を見渡せば、オーク調の光沢のある造作に高価そうな猫足のテーブルと椅子、それに臙脂色にパターン模様の絨毯の床。シックというかわりと落ち着いた服装の女性の中にも時々ロリっぽい服をきた女性も数人見えて、少し安堵する。
「お連れのお客様がお見えです。お通ししてよろしいでしょうか」
 妙齢の執事が恭しく頭を下げる。いい。このもてなされている感覚が極上だ。特別感がある。
「ええ。お願いします」
 そして真ん中に三毛猫と書かれた白Tにデニムの普段着っぽい弘毅の浮きっぷりはすさまじかったが、おそらく執事カフェと伝えても理解がおいつかんだろう。仕方がない。執事の引いた椅子に恐る恐る腰掛ける弘毅は借りてきた猫のようで、少々溜飲が下がった。執事が注文をまって隣に所在なく佇んでいる。この執事喫茶にこんな格好できた人間は初めてかもしれない。
「私はもうアフタヌーンティセットを頼んでいるので、好きなものを。コーヒーとか」
「えっと俺は水で……」
「いやちょっとそれは……」
 さすがに水はないだろう。執事は表情を変えないが、なんとなく残念そうな空気が漏れ出している。
「お客様、大変申し訳ございません。当店ではおひとり様一品ご注文いただくことになっておりまして」
「じゃあ茉莉さんと同じものを」
 茉莉……? ああ俺か。
 一瞬の思考の盲点と空白の時間、それからアフタヌーンティセットって結構高いんだけどって口を開く前に執事は頭を下げて去った。有能だ。

「アフタヌーンティーセットって甘いものがたくさんついてくるんですけど、大丈夫ですか?」
「そうなんですか? 甘いものは好きです」
 やがて運ばれてきた三段のティースタンドに弘毅は目を丸くする。クラウンのアフタヌーンティティーはヌン活界隈でとても美味しいと評判になっていて、俺はなによりその構成の美しさに目を奪われた。今月は苺フェアで、セイボリーのサンドイッチにも苺が挟まれ、スコーンのジャムも苺、一番上のペイストリーはまさに苺尽くしという感じで見てるだけで来たかいがあったと思える。
 ふと目の前の弘毅を見れば下段のセイボリーから順に片っ端から消えていく。俺がスコーンにジャムとクロテッドクリームを塗っている頃には、一番上のペイストリーもほぼなくなり、執事がアールグレイをカップに注いでいた。あんなにあっという間に食べて味なんかわかるのか。もったいない。
「それで久哉のことなんですが」
 おもむろに口を開く弘毅に思わず『俺がどうした』と口に出そうになったのを思いとどまる。そうだ、俺は今、茉莉、茉莉だ。弘毅にとっては久哉の話の方が重要なんだろうが、俺はここのスイーツを楽しみにきた。だからそっちを優先。

 聞くこともなく聞いていれば、弘毅が久哉を好きになったのは雨の日に傘を忘れたときに傘を貸してくれたかららしい。今まで傘を貸してくれるような人間に会った事がないそうだ。まあ確かに弘毅は雨とか気にせず走り出していきそうなタイプに見えるから、あえて傘を貸そうとはしないかもしれない。俺、傘なんてかしたっけとぼんやり思っていれば、傘立てにたくさんのこってた古そうなのを勝手に一つ渡したことを思い出す。あの傘は晴れの日も雨の日も、ずっとあそこにささっていた。だから持ち主はきっと、すっかり忘れているんだろうと思っていて。
 それにしてもそんなベタな話が今どきあるのかと思ってだらだら聞いているうちに、それはいつのまにか知らない誰かと目の前の弘毅の話に変換された。
 なんだかとても奇妙な気分だ。こんな風に誰かが恋に落ちる過程の話をこれまで聞いたこともない。俺は趣味優先で、あんまり友達がいないからな。

 そうして2時間が経過した……。
 その間俺は一言も口を挟めず、時折窓の外や調度を眺め、ただ執事が淹れるアールグレイを3杯ほどお代わりして、舌鼓を打っていた。
「あの、ここ2時間制なので」
「えっ?」
 弘毅は何を言っているのかわからないといった風情で俺を見る。いや、アフタヌーンティってだいたい時間制じゃない? 普通。
「だからそろそろ出ないと……」
「あ、すみません、俺ばっかりはなしちゃって」
「いえ、別にお役にたてず……」
 むしろ俺に何か質問されても困るだけだから別にいいんだけど。そう思って見ていると、弘毅はガサガサと鞄をあさってルマンドを一袋取り出した。
 ルマンド。何故。
「お礼です。母ちゃんが世話になったらお礼をするんだよって」
「い、いえ私、何の御役にも立ててないですし」
「話を聞いていただいてすっきりしました」
 そうか? そういうものなのか? そういえば女子の話は解決を提示するのではなくただ聞くだけがいいと何かで聞いたが……でもこいつは女子じゃないな。それにしても今日は小さなポーチしか持ってきてないからルマンド、入らん。
「というかもらって頂かないとちょっと困って……」
「困る?」
「ええ、ルマンドが段ボール箱で届いたんです。たぶん押し間違えて。だから消費しないと……」
 そういえば先週、弘毅はルマンドをクラスの人間に配っていた。俺も1袋もらった。絶妙に微妙な気分になる。ルマンド箱買いとか……。

「ええと、わかりました。では、お会いするのは約束通り1回だけでってことで」
「また会ってもらうのは駄目ですか?」
 あわてて食い下がる弘毅はなんだか奇妙だ。
「その、私にも予定がありますし、もともとそういうお話でしたので」
「そ、そうですね」
 これできれいさっぱり縁が切れる。俺は学校では弘毅のことなんて知らないふりをして生活すればいい。それできっと何とかなるだろう。約束は守る奴だ。その辺は信頼している。
「私、このあとここで別の方と会う約束をしているので、先にお帰りください」
 これで弘毅の友達と遭遇しても問題はないだろう。そもそも近づかなければ俺だとはバレまいし、、俺たちのクラスメートで甘ロリに話しかけようなんてやつはいなさそうだ。……弘毅以外は。
 そうしてレジに向かう弘毅にようやく肩の荷が下りたとホッとしていると、Uターンして戻って来る。何故。
「すいません! お金を貸していただけないでしょうか!」
「ハァ?」
 やば、今の声は少し太かったかもしれない。気を付けていたのに。
「二千円しか持ってきてなくて!」
 小遣いかよ。いや、確かに小遣いって言ってたわ。
 ……クラウンのアフタヌーンティは五千円だ。相場といえば相場の範囲で決して高くはないし、クオリティを考えればむしろ安いのだが、普通の男子高校生はアフタヌーンティの値段は知らない……ことに思い当たる。
「お願いです、次会った時に返しますから!」
「なんで私がってもう会わない約束じゃないですか」
 このやり取りが若干耳目を集めてきて、とても居たたまれない気持ちになって来た。もう1回、会う? とんでもない。
 さりとて食ってしまったものは仕方がない。弘毅が万引きで捕まると一緒にいた俺も取り調べを受けたりするかもしれないし、回りまわって俺が久哉であることが弘毅にバレるかもしれない。
 それに差額の三千円とはいえ、俺にとっては大金だ。諦めるなんてできるわけないだろ。本末転倒だ。糞!

 仕方がなく財布から三千円を取り出し弘毅に押し付ける。
「またLINEします!」
 そう言って弘毅はレジに戻り、今度こそクラウンから出ていた。まじか。また会うのか。冗談じゃない。そう思っていると、執事が俺のカップに琥珀色の液体を注ぐ。
「サービスです」
「あ、ありがとうございます」
 もう、1回、ねえ。
 今度はカラオケの個室でもとるか? 糞めんどくせえ。

Fin

★企画の参加

いつも通り当日思いだしたのだけど、新しく考えるのめんどくさくて旧作の続きを書くことにしました。これ続き書いて中編くらいにしようかな。

話とは全然関係ない絵。
今書いてる別のの表紙をそれっぽく(この人たちは現ファの人でBLではない)距離近づけて適当に縮尺いじったらたまちゃんの頭がでかくなって腕が消えた件。

★短編小説のマガジン

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