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ブロマンスアンソロジーSTAR【冒頭試し読み】




文学フリマ東京41の新刊、ブロマンスアンソロジーをご紹介いたします。
【星】をテーマに、総勢11名が男同士の特別な絆を描いています。
最後までお読みいただけたら幸いです。


文学フリマ東京41
2025年11月23日(日)開催
12時〜17時
東京ビッグサイト南1-4ホール
前売り券1000円
当日券1500円
当日券スマチケ1350円



ブロマンスアンソロジーが買えるブース位置
【ねぇ、ライナス】南1-2ホールU-05


ブロマンスアンソロジーSTAR
文庫サイズ/186ページ/1000円






『二年二ヶ月』常世田美穂


「なぁ、ちょっと悪いことしよう」
 真夜中のお誘いにドキリと胸が高鳴ったのは、別にこいつだからじゃない、と思いたい。毎日のように一緒にいたのぼるの、悪戯に笑った顔がまぶしかった。月一回のチートデー。のぼるはでかいポテトチップスの袋と二リットルのコーラを抱え、パジャマ姿でおれのいる布団へ潜り込んできた。
「悪いことってこれかよ」
 布団のなかはのぼるのにおいでいっぱいだった。セージのにおいだ。のぼるの母さんはセージを焚く。おれたちが学校から帰ってくると、「おかえりのぼる、みかどくん」とのぼるによく似た笑顔で迎えてくれた。くしゃって、音がしそうなほどの。おれはその笑顔がうれしいけれど切ない。
 いつでも泊まりにおいでって言ったのはのぼるの父さんだ。だからお言葉に甘えておれは毎日のように入り浸る。家族仲が良好なのぼるとそうでもないおれ。のぼるの「ちょっと悪いこと」は家族の影響らしかった。おれの片親である母はいつも「悪いこと」をしているのに、この家は「ちょっと悪いこと」を月一ペースでやっている。かわいい家族だと思う。おれがここにいても咎めない迎えにこないクソ女は、「悪いこと」に嵌って抜けだせないでいるのに。


『見えない』数田朗


 俺が勤める小さな出版社は、編集プロダクションと兼業なのもあり仕事の量にムラがあって、毎月二十日ごろに大きな波がやってくる。いくつかの取引先の締切がごっそりそこに固まっているためだ。そして今日は二十一日、俺たちはなんとか今月もその波を乗り切った。
 死屍累々という言葉が相応しい、疲れ果ててその場に寝転んでいる社員たちをまたいで、オフィスを抜け出し屋上へ向かった。
 鼻歌を歌いながら狭い階段を上がっていく。いくつかの事務所が入っているビルだが、当然もう他の階には誰もいない。静かなビルに、まだ誰も知らないメロディーが小さく響いた。
 屋上に上がると、予想通りそこには先客がいた。ネイビーのポロシャツの後ろ姿。
「すばる」
 呼びかけると、その男は振り向いた。若く快活なその顔にも、さすがにこの山場のせいか疲労が見て取れる。その通りの、少し疲れた声で彼は言った。
「あ、誠士さん。お疲れ様です」
「そっちこそお疲れ。ようやく終わったな」
「終わったって言ったって、普通に明日も仕事ですし」
「それはそうだ」


『無重力病』一吾


 兄は生まれついての無重力病だった。少なくとも、二歳差で弟の僕が産まれる頃には、宙に浮いていた。


 兄は幼稚園にも小学校にも行けなかった。空へ舞い上がり、地上に戻って来られなくなる危険があるからだ。
 兄はいつも窓を閉め切った子ども部屋の、天井近くに浮かんでいた。
 団地の一室、コンクリート壁に囲まれた頑丈かつ狭小な子ども部屋で、兄は育った。
 僕は家に帰って兄に飛び付く瞬間が好きだった。兄が天井を蹴って下りてきて、僕はベッドの上でジャンプする。
 母は、僕と兄がじゃれ合うとき、やって来て一緒に混ざることがあった。
「パパに出会ったとき私も浮いたのよ」
 母は父に内緒で話をしてくれた。
「おへそのあたりがつり上がって、足が地に着かないの。五センチくらい浮きながら歩くはめになったわ」
 無重力病は母方の遺伝らしい。
「でもほんとにわずかな期間だったのよ。そのうち、すっと地上に降りてしまった。熱病のような感じだったの。ママのお母さんも、そういうものよって笑っていたわ」
 母のお母さん、僕らの祖母も無重力病を体験していた。
 兄だけが生まれついての無重力病なのは、謎のままだった。


『ゴッホとフラゴナール』犬山昇


 海はいつも狭苦しい。その感覚を共有できるのは、海の間近で暮らしたことがある人だけだと思う。物語や絵画で、広大な海景に出くわしたとき、ぼくはいつも鼻白む。人の住む場所を狭める水域に、何の意味があるのだろう。
 兵庫の南の海岸地域は、都市と都市のあいだの空白地帯だ。何故か二つの鉄道路線が併走していて、それぞれが自分を際立たせるためか、少しだけ距離のずれた位置に駅を配置している。実際には、その双子のような駅舎は、しばしば空中通路でつながっているけれど。


 住む土地を嫌うのは、中学生のありふれた感情だ。そして嫌悪を隠すには未熟なぼくと星野は、教室の日陰で、互いの鼻持ちならなさにすぐ勘付いた。
 彼は体育の授業はすべて見学で、木陰から無愛想にぼくらを睨みつけていた。彼は自己免疫疾患で三宮の大学病院に通い、日に焼ける活動は極力避けるように命じられていた。父の転勤で、中学二年で転校してきたぼくは、頭痛持ちで、人の声がうるさい体育は大嫌いだった。しばしば日射病でも気分が悪くなり、星野の隣で休まされた。
「病気でもないのに体力がないな」
 星野の憎まれ口に、悪意はなかった。同級生たちは歓声と土煙を上げながら、白黒の球を追い続けている。
「君は病気らしく見えないけれど」


『天使がきえた夜』丹路槇


 目が覚めたとき、僕の体は窮屈なコンテナみたいなところに収まっていた。そのうち光の線が差し込み、扉が開くと、外には広い青空があった。
「おはよう」
 声をかけられ、視界が近くに引き戻される。僕は勝手が分からないままコンテナから這い出し、そばにいた青年に引っ張り上げられ立ち上がった。そこはどこかにある駐車場の一角だった。
「今日からふたりで組むことになったよ。よろしく」
 青年は気さくに握手して、僕の手に車のキーを乗せる。見たことがないのに、渡されたキーがダイハツのハイゼットバンのものだと分かって驚いた。駐車場に並んでいるのは軽トラックを加工した冷蔵車とミニバンを数台改造したキッチンカー。僕が乗る予定なのは、水色と乳白色に塗られた小ぢんまりとしたモデルだ。外観に丸いロゴがプリントされ、「天使のあげパン」と書かれている。
「あの」
 手を引かれるまま、バンの方へ歩く。僕は彼とまったく同じ歩幅で歩くことができた。
「料理はまったくできないんだ、たぶん」
 青年は笑顔で答える。
「知ってるよ。でも運転はできるだろう」
 当然のように僕は運転席へ連れて行かれ、ルートはもうナビにセットしてあるから、と言われた。
 少し車高のある運転席へよじ登るとき、青年に名前を聞いてみる。彼は青空をバックに一瞬動きを止めた。僕の手を解き、自分の手首に嵌ったチタンの輪を見せてくれる。小さな星型をした彫刻がひとつ指し示され、それによく似た輪が僕の手首にもくっついていることに初めて気づいた。気づいてすぐ、初めて見るものへの違和感はもうほとんど溶けてなくなってしまっている。
「名前はコウ。星はひとつ。……きみは」


『Navigatoria』七瀬京


 ――いつも、あいつはお星様みたいで。俺は、あいつを目指して走り続けていた。


「なんだこれ……田舎が涼しいとか、嘘だろ……」
 電車を降りたとたんに、むわっとした熱気に包まれた。湿度の高さは、スチームサウナ並みで、立っているだけなのに汗が噴き出してきて、沢村悠斗(さわむらゆうと)は大きなため息を吐いた。
 あたりはなんとなく青臭い匂いが立ちこめている。駅は田んぼと田んぼの間にあるので、この時期は、太陽が容赦なく降り注いで頭がチリチリと焼けていた。
 日蔭日蔭……と、駅の側にある大きな木の下に立つと、足元には力尽きた蝉が転がってお腹を見せていた。場所を変えようかと思ったが、この木陰を出てしまうと、直射日光にやられる。営業用の薄いスーツとはいえ、道路に陽炎が揺らめくほどの炎天下、装備もない状態で歩き回るのは得策ではない。
 飲み物一つ持っていなかったし、無人駅には自動販売機も無く、駅から先、一面の田んぼで、最寄りの民家すら歩いて十数分かかる。
 悠斗は汗をハンカチで拭いつつ、スマートフォンをスーツの胸ポケットから取りだした。
 案の定、鬼電が入っている。相手は、課長、部長、係長、総務部長、庶務担当、同僚……と、山のように着信が入っている。
 メッセージも何件か入っているが、見る気はなかった。
(さあて、どうするかな……)


『俺の男の名前の刺青』千本松由季


 朝露の乾き切らない芝生に腹ばいになって、僕達は画用紙の上に色鉛筆をばらまいた。その青年を僕は「お兄さん」と呼んでいた。彼が僕の大事な「お絵描きごっこ」という遊びに一番つき合ってくれた。
「君の絵には必ず太陽が二つあるんだね」
「僕にはお母さんがいなくて、お父さんのためにって描くの」
「そうなの。僕にはお父さんもお母さんもいないよ」
 お兄さんが着ていた、ハウスキーピングの安っぽい化繊のユニフォームに日がばらまかれて、これがお兄さんに使い方を教わった、色鉛筆の金色と銀色の、銀色なんだな、って僕は発見していた。
 大切な質問を思いついた。
「お兄さんの名前ってなんていうの?」
 僕が太陽を描いていた黄色で、画用紙の裏に大きく書く。
「これ、なんて読むの?」
「光聖(こうせい)」
 突然スプリンクラーから元気いっぱいの水が飛び出し、僕は描いた絵を胸にしっかり抱いて、光聖と手をつないで走った。虹の子供達がけらけら笑っていた。


 光聖を見たのはそれが最後だった。光聖だけが僕のことを祐樹(ゆうき)って呼び捨てにした。それは僕への最大の親しみだった。他の人は祐樹坊ちゃん、だった。みんなの話を総合すると、光聖は親はいないけど凄く頭が切れて、僕のお父さんが大学へ送ったんだって。卒業後、お父さんのビジネスを手伝うのを条件に。
 僕は父の経営するホテルに住んでいた。予約の具合で毎日部屋が変わって、僕は自分より大きなスーツケースをごろごろして移動する。そのうち大事にしていた光聖の名前の書いてある画用紙をなくしてしまった。


『アルデバラン』春谷晃子


 病床で潮の音を聴いていると、脳をいじられている気分になる。障子の向こうから、暮れなずむ海が終末を告げてくる。悠星(ゆうせい)は両耳を塞いだ。
 もうすぐ冬がやってくる。庭に粉雪が舞うだろう。夕陽に照らされたそれは、結晶に光が反射して幻想的な光景となるだろう。今年も来年も、再来年も雪を見たい。去年が最後の冬だなんて思いたくない。
「っう、げほ、げほごほっ……」
 胸を押さえ、激しく咳き込む。
「坊ちゃま、大丈夫ですかっ」
 女中が背中をさする。彼はそれを拒む。看病のためとはいえ、四六時中付き添われるのは勘弁だった。
 熱が下がり病状が安定した頃、彼は厚手のコートを羽織り、ひとり外に出た。十五歳の痩身は家の外に夢をひろげる。夕暮れ時のわびしい漁港でも、彼にとっては楽しいテーマパークだ。茜色に染まる漁船の群れ、光の踊る水面。
 船で何かの作業をしている大人が手を振った。悠星くん、今日は顔色ええな。彼は軽いお辞儀で返す。
 悠星はかつて孤児だったのを、この町で唯一繁盛している旅館の主人に引き取られた。港町の大人なら皆が知っている事情だ。彼の病弱についても。親切心で具合を気にかけられるのが、本人にとっては窮屈だった。
 漁船の停泊場から離れた堤防に、見慣れない少年が座っていた。悠星はすこし離れた位置から彼をながめた。みすぼらしい着物を身につけているが、金髪はこの国の者ではない。夕空と海を背景にした横顔は、どこか異質で惹かれるものがあった。自分に足りない何かを、生まれ持っている者――。
 悠星はコートのポケットから藁半紙と鉛筆を出し、その横顔を描きだした。


『ポラリスを探して』阿部蒼星


 それは、俺の初恋が呆気なく散った日に見た夢だった。
「明日はさ、どっちが先に流れ星を見つけられるか競争しない?勝った方がこの子に名前を付けるの」
 満月が照らす夜、ユキちゃんはダンボールの中から真っ白い綿飴みたいな小さな猫を抱き上げた。きらきらと輝く瞳を見て、綺麗だと思った。
「うん、いいよ。面白そう」
「本当?約束だよ。じゃあ明日の夜七時、ここにきてね。絶対だよ」


 次の日の夜。約束の時間になっても、ユキちゃんは現れなかった。それどころか、昨日まであったはずの段ボールがどこを探しても見つからない。そろそろご飯だよと声を掛けにきた母の手を振り払い、泣きじゃくりながら星なんて大っ嫌いだと吐き捨てた。



 森高の西宮七星(にしみやななせ)が、格下にやられた。全治一ヶ月。しばらくは松葉杖無しで歩くのが難しいらしい。
 後輩からその話を聞いた俺は、心の中でガッツポーズをした。報告に来たそいつがマルボロの箱とライターを取り出そうとしたので、思わず腹に渾身の蹴りを入れる。手から転がり落ちた箱を睨みつけると、相手の顔色はみるみるうちに青ざめた。


『いつかあの河を越えて』月は東に


 今も鮮やかに思い出す。
 あの夜の、星の川。



「あ、あの……先生は」
 恐る恐る声をかけてきた下級生。
 三年生くらいかな、と思いながら、俺は教師がその日不在であることを告げた。
 下級生の顔はみるみる曇り、泣き出すんじゃないかと心底焦ったことを覚えている。
「なに、何の用だったの?」
 図書室には俺とその子のふたりきり。
 小学校の図書室なんて、もともとあまり人がいるほうじゃないけれど。さすがにふたりしかいないのは珍しかった。
 運命、だとか。そんな言葉が、ちらついてしまうくらいには。
 俺の言葉に、下級生はそっと一冊の本を差し出した。
 それが、始まり。


 **********


 そんなことを、毎年飽きもせず思い出す。
 冷たい風が吹き始める頃。一年の終わりが見え始めて、人生の決算作業をさせられる気になる季節。
 またひとつ、年がいく。
 この一年に、俺は何を成し遂げただろう。
 この一年の俺に、どんな価値があっただろう?
 そんなことを、考えてしまう季節。


「蒼真(そうま)くん」
 人混みのなかから弾む声が聞こえる。
「怜(れい)」
 手をあげると、ふわりと笑って駆け寄ってきた。ごめんね、待った?と言いながら。
「いや、大して待ってない。おまえこそ大丈夫なのか」
「うん、楽しみにしてた」
 いい歳をした男同士の会話にしてはむず痒いけれど、怜のまっさらな笑顔の前にはどうでもよくなる。
 あの日と同じ、無邪気な笑顔。


『遅効性の道標』鏑吉丸


 20年ぶりに親友の颯太と再会した。
 小学校の同窓会の夜、地元駅で声を掛けてくれたのだ。
「ひっさしぶり! お前めちゃくちゃシュッとしてんじゃーん!」
「へへ。諒ちゃんは全然変わってないね」
 20年会ってなかったのに、肩を叩き合ったら一気に時間が巻き戻った。今何してんの? 仕事は? なんて会話をしながら身体が小さくなっていくような気がした。
 互いの現状を報告し合って、それでも気持ちが収まらなくて、時間を確認してから少し飲みにいこうと誘ってみた。颯太は一つ返事でOKしてくれて、歩いて10数歩の大衆居酒屋にとりあえずなだれ込んだ。
 颯太とは小学校6年間ずっと一緒に過ごした。卒業と同時に俺が他県へ引っ越してしまってそれきり会えていなかったけど、俺の子供の頃の記憶には全部、颯太がいる。
 デブだった颯太はクラスでも虐められがちだった。ブー太と呼ばれからかわれ続けた6年間はやはり良い記憶ではなかったようで、颯太は今日の同窓会には来なかった。
「でも、諒ちゃんには会いたかったんだ。だから駅前で張ってた」
「出待ちしてたってこと? なんだそれ」
 颯太は昔から素直で優しい良い奴だった。小1の時席が前後で、最初に喋って友達になったのが颯太だったから、俺は颯太が太ろうが不細工になろうが気にしてなかった。だから俺だけは颯太を特別扱いせず、喋って、遊んで、一緒に居るようにしていた。



いかがでしたでしょうか?
当日が楽しみですね!
全編とっても素敵に溢れているので、ぜひお手に取ってみてください!


最後まで読んでくださったあなたはラッキー☆


『あなたの同人誌・ZINEと交換キャンペーン』やります!
当日の文学フリマにあなたの作った本をブースまで持ってきていただくと、なんと、このブロマンスアンソロジーSTARが交換という形で手に入ります!
ブースに張り紙などはしませんので、お気軽にお声がけください。


それでは、当日を楽しみにしております!!

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