口約束
「口約束」。台北でミーティングに臨む前は、一番避けようと思っていた契約だった。それでも、契約書よりも「互いの信頼」という判断が、最も適した始まりのような気がした。
15年間、個人事業主のクリエイターをやっている。「クリエイターをやっている」という表現は奇妙だ。でも「やっている」という感覚がしっくりきている。根っからの芸術肌でもなく、ロジカルな策士でもない。それでもクリエイターとして生き残っているのだから、やり方も実力も間違ってはいなかったのだと思う。そして、極めて抽象的な指針である「センス」も、人並み以上には持ち合わせている。謙虚さを持たずに言えば、このような認識だ。過剰な謙虚さは、時に弱みに変わる。そのことも痛いほど理解した。そして、これからも不安はない。
仕事なんて、所詮一人ではできない。需要があり、供給が成り立つ。それが成立すれば仕事になり、成立しなければ仕事にはならない。とてもシンプルで、少し恐ろしい。仕事について、これまで複雑に考え過ぎていた。
昨日、台北で仕事ができた。需要があった。控えめに言っても、嬉しい。仕事になったこと以上に、互いに人間同士の会話ができたことが嬉しい。人を信じられることが、何よりも嬉しい。
まともなビジネスマンであれば、契約書をもとに約束を交わす。もちろん契約書を用意してもらうことは可能だった。提案もあった。でも、違う気がした。一昨年から何度も会話をしてきた。それ以上に測る術はなかった。数週間後には実務と制作が始まる。クリエイターとしてはそこからが本番だ。でも僕の中ではもう始まっていた。良い仕事をして、良いモノを提供する。それが評価される。人に信頼され、期待され、それに応える。それ以上の喜びはない。
本格的にAGIが僕たちの生活に入り込み、おそらく数年で仕事のほとんどが姿形を変える。今までのやり方は通用しない。とはいえ、わからないことの方がほとんどだ。仕事をすることで得られる達成感、気持ちの変化、生活への影響。当たり前にあった感情そのものも、変わってしまうかもしれない。決して悲観的ではない。同時に変わらないことも見つけられる。今まで当たり前だったことが、それかもしれない。そう期待して、未知の世界を楽しみたい。
