気候変動対策の盲点:森林保全の資金不足を埋める「REMA Collective」の挑戦
登壇者プロフィール
本記事は、TEDでのプレゼンテーション「The Big Idea Funding Forest Conservation」の登壇者、アンディカ・プトラディタマ氏のお話に基づいています。
プトラディタマ氏は、政治学と森林科学の両方を学び、キャリアの大部分を東南アジアの政府、企業、市民社会と協力して過ごしてきました。特に、商品サプライチェーンが環境に与える影響を低減することに尽力しています。彼が提唱する「REMA Collective」は、気候変動対策において決定的に不足している森林保全資金の問題に、革新的な解決策を提示しています。
深刻な現状:気候変動対策と資金のギャップ
地球規模で見ると、農業、森林、土地利用の各部門は、世界の排出量の約5分の1を占めています。特にインドネシアのような地域では、森林の喪失とピートランド(泥炭地)の燃焼が最大の炭素排出源となっています。ピートランドは何千年もの間蓄積された有機物で構成された、非常に炭素が豊富な生態系です。
森林の喪失を食い止め、ピートランドやマングローブといった大規模な自然の炭素吸収源を保護することなしに、気候変動を緩和する道筋は存在しません。
この重要な生態系が失われている主な原因は、私たちが日常的に使用する商品の生産にあります。例えば木材やパーム油です。パーム油は非常に普及しており、スーパーマーケットの棚にあるほぼすべての製品が何らかの形でパーム油に関わっている可能性が高いのです。
企業責任の限界と資金の現実
企業はこのジレンマを認識し、「森林破壊ゼロ」ポリシーのような方針を導入しています。これは良い出発点ですが、問題の一面に過ぎません。真に自然にポジティブな成果を出すためには、既存の森林を積極的に保護し、失われた森林を再生し始める必要があります。
しかし、ここに深刻な問題があります。森林保全のための資金提供は「大規模に不足している」のです。農業、森林、土地利用における緩和策は、世界の気候変動資金総額のわずか4%未満しか受け取っていません。これが、REMA Collectiveで解決しようとしている課題です。
REMA Collective:責任を比例させる仕組み
REMA Collectiveは、サプライチェーン全体で「共有責任」と「比例責任」の意識を導入するために設計されています。
企業は、原材料の使用による環境への影響に比例してこの基金に拠出します。パーム油の使用量が多いほど、REMA Collective基金により多く貢献する仕組みです。これにより、スケーラブルで大規模かつ長期的な資金調達が可能になります。
目標は野心的です。今後25年間で、東南アジアにおいて約50万ヘクタールの森林保全を実現することを目指しています。これと並行して、森林に依存して生活する地域社会に現地の生計手段を提供し、絶滅危惧種の生息地を保護することも目的としています。
現実の課題:遠隔地での保全活動
REMA Collectiveは単なる概念ではありません。設立から3年が経過し、現在、東南アジアの約22万ヘクタールの森林に積極的に資金提供を行っています。
しかし、保全活動には多くの課題が伴います。
投資可能な森林プロジェクトを見つける難しさ
まず、質の高い「投資可能な」森林保全プロジェクトを見つけることが困難です。保全介入や投資が長期的に持続するためには、少なくとも今後20年間の土地管理権が確立されている森林を特定する必要があります。
次に、これらの森林の一部は非常に遠隔地に位置しています。プトラディタマ氏がスマトラ島西海岸のプロジェクトを訪れた際は、首都ジャカルタから州都まで飛行機で2時間、その後車で12時間かけて村に到着し、さらにプロジェクトの境界にたどり着くまでに丸一日のハイキングが必要でした。他のプロジェクトでは、村に到着するまでに丸一日の船旅が必要になる場合もあるそうです。
現地組織の能力構築と資金の必要性
さらに、景観を理解し堅固な保全を実現できるだけでなく、複雑な国際認証システムもナビゲートできる優れた現地組織が求められます。このような組織は多くないため、保全活動を実行できる有能な組織のエコシステムを構築しなければなりません。
また、企業側の一部には、保全が安価であるという誤った認識があります。例えば「1ヘクタールあたり5ドルを投じれば、それを保全と呼べる」といった考え方です。これは途方もなく非現実的です。
実際の保全プロジェクトには、巡回用のバイクや車の購入、人里離れた場所での複数の監視塔の建設、ピートランド生態系を再生する際の水位調整用ダムの建設など、多額の投資が必要なのです。
展望:保全を「慈善」から「必須コスト」へ
目指すべき理想的な方向性は、自然生態系の保護と再生が単なる慈善プロジェクトであるという認識を変えることです。
私たちが毎日使う製品、例えば朝使ったシャンプーさえ、その裏にある真の環境コストを反映していません。それは、原材料を栽培するために失われた森林のコスト、あるいは木がなくなったために将来吸収されなくなる炭素のコストです。
原材料の調達という指標を保全資金調達に直接結びつけることで、この外部性コスト(外部費用)を捕捉し、自然生態系の保全に振り向けることができるはずです。
エコシステムサービスへの対価
森林の気候を調節する機能は「生態系サービス」と呼ばれます。私たちが生活の中で他のサービスに料金を支払うように、日々使用する原材料だけでなく、私たちが皆依存している自然生態系の保全にも対価を支払うべきです。
REMA Collectiveが目指す50万ヘクタールの保全は野心的ですが、必要なことのほんの一部です。世界のパーム油生産に起因する森林喪失量は約600万ヘクタールと推定され、畜産業に至っては驚異的な4,500万ヘクタールに上ります。
このモデルを、ファッション業界、ゴム業界など、他のサプライチェーンにも複製したいと考えています。サプライチェーン全体のアクターが、自らのフットプリントに比例して生態系の保全と再生に資金を提供するという合意のもとで協力するならば、初めて資金のギャップを埋め、気候危機に対処する真の機会を得られるかもしれません。
私たち消費者も、日々の選択が森林保全につながる未来を、共に作っていく必要があるのです。
関心を持った方はぜひ冒頭の動画を視聴してみてください。
