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甦るフランク・ロイド・ライト(25)Guggenheim Museum 3

<あらすじ>
65年の時を経て、フランク・ロイド・ライトが、もし現代に甦ったら何を語るか、というエッセイ集です。今回(第25話)は、ライトの魂の傑作Solomon R. Guggenheim Museum(3)を解説してもらいます。今回は「」について

Solomon R. Guggenheim Museum

Solomon R. Guggenheim Museum
Frank Lloyd Wright 1943 - 1959
New York  S.400

これまでに空間の連続性と「構造の造形性について、ご説明をした。今回は、これら「空間」と「造形」を如何に「光」で包み込んだか、ご紹介する。今回のテーマは「光」じゃ。

タナカ写真 2014年頃
内部が意外と暗いなという印象。
このうす暗さには理由がある。

光の在り方

「光」は、建築の重要なテーマの一つである。
建築家によって、その位置づけは異なる。各巨匠の光について、下図で説明しよう。

各巨匠の光の捉え方

私の光に対する扱いは、生涯一貫している。
光が、空間に満ちることを望む。そして、光満ちるために影を嫌った。影は、空間の連続を殺す。光の粒に満ちた空間は、その連続性を強調する。そして相変わらず、私とコルビュジエとの対比は鮮やかである。

私の空間は、部屋のすみずみまでうつろに明るい

影を避けるために、まず壁を嫌った。大きな壁に窓を空けると、影が生じる。面同士の隙間から外光を流し込む必要があった。流れ込んだ光の粒は一様に近くのサーフェイスを発光させた。私は、空間を実体的存在として扱ったが、光についても同様に実体的であった。

影を排除する光の取り入れ方は4パタンある。
A. 面の隙間から光を滑り込ませる
B. 面に光をバウンドさせる
C. 拡散光を取り入れる
D. 小さな孔から光が滲み出る
の4パタンである。

B、C、Dは共通して、直接光を弱める手法だ。光を弱めると、直進するエネルギーが減り、光が回析するので、影は消えていく。柔らかい光は、物体を包み込むことができる。
要は、間接光のみで、部屋の照度を確保したかったのだ。影を排除するために、室全体の照度すら下げた。私の作品がうす暗い印象をもたれるのは、これが理由じゃ。

グッゲンハイム美術館では、AとCを用いた。次節から、どのように具体的に光を取り入れたか解説する。

空間と光は、同様じゃ。
空間が水のように流れるのであれば、
光も同様に流れなければならない。

・・・

ハイサイドライト

さて、グッゲンハイムの内部へ、どのように光を取り込むか。極力、影をつくりたくない。狙うべき場所は、面同士の隙間である。螺旋の隙間(ハイサイドライト)と渦の頂部(トップライト)から、光を取り入れることにした。

絵画を照らすハイサイドライト

建物内部への光の取り入れ方は、ジョンソンワックス社での手法を参考に進められた。

S.C. Johnson Administrative Complex
Frank Lloyd Wright 1936 - 1943

初期のハイサイドライトの検討図をみても、ジョンソンワックスの断面と同様じゃ。

スタディ1 ガラスチューブで拡散光を得る方法
(ジョンソンワックス社と同様)

性能とコストの関係で、ガラスチューブは、板ガラスに変更された。
美術館は絵画を鑑賞するための空間である。その空間で忌むべきものは何か。この場合も、影が忌むべきものだ。まず絵画に影を落とすのはNGだ。
そのため、板ガラスの角度はもちろん、絵画を設置する壁面の角度も入念に検討した。

スタディ2 板ガラス案
形状によって光の拡散の仕方が異なるので
入念に角度調整中
最終案は、この断面とした
採光と防水の調整に苦労した

入念に断面検討した、ハイサイドライトは、木の枝葉から漏れるような柔らかい光を、展示回廊にもたらせた。太陽の動きに合わせて、うつろに光が変化する空間となった。この光の変化に合わせて、美術品や人々は彷徨い、空間は、時と共に成長していく。

・・・

トップライト

Solomon R. Guggenheim Museum
Frank Lloyd Wright 1943 - 1959
New York  S.400

次にトップライトの説明をする。
検討初期のトップライトは、ジョンソンワックス社のトップライトと同じ形式だった。泡の集合体のようなトップライトだ。

ジョンソンワックス社のトップライト
理想のトップライトじゃ
検討模型と検討スケッチ
検討模型とトップライト検討図

しかし、グッゲンハイムのトップライトは、直径19mほどあり、泡構造を成立させることは不可能なことがわかった。
そこで、私は円形を12分割するウェブ・ウォールを天へ伸ばし、ゴシック建築のバラ窓のようなトップライトとすることにした。

シャルトル大聖堂
Cathédrale Notre-Dame de Chartres
1220年頃完成
ノートルダム大聖堂
Cathédrale Notre-Dame de Paris
1345年完成
Solomon R. Guggenheim Museum
Frank Lloyd Wright 1943 - 1959
New York  S.400

ゴシック建築のデザインは、生命賛歌のデザインであり、有機的建築のルーツでもあることから、相性は良かった。
ゴシックの研究により、グッゲンハイム内部へ、生命の光を注ぐために、ふさわしいトップライトが完成した。

・・・

拝啓、コーリン・ロー様

今回、私の「光」の扱い方を解説した。余談として「透明性」について触れたい。コーリン・ロー(1920-1999)は、建築史家であり、近代建築における空間の特性を明快に示した。

ローは、『マニエリスムと近代建築 コーリン・ロウ建築論選集』(1976)の中で、「透明性」について、2種類(実・虚)あると定義した。

実の透明性と虚の透明性
近代建築の空間の特性のひとつだとされている

実の透明性=ガラスの透明性であり、虚の透明性=空間の重層性である。コーリン・ロウは、コルビジュエの建築に、虚の透明性を見出した。

『マニエリスムと近代建築』の中で、実の透明性より、虚の透明性の方が優勢に扱われる。ただ、虚の透明性に、視覚的な美しさは生み出すが、人間の触覚に働きかけない。目と頭にのみ刺激を与えるのみである。

ただ、私の空間と光は、実体的性質と密接に関わっている。つまり、実の透明性の使い手なのだ。(奥行きの扱いにも長けているが、ここでは説明のため省く。)

実の透明性=ガラスの透明性と捨て置くのは、短絡的すぎる。ガラスの種類、その先のサーフェイスの在り方など、実の透明性は、まだまだ可能性を秘めている。序盤で説明した間接光の操作が、まさにそれだ。実体的な光の操作は、人間の五感に直接に響く。

今一度、古臭いと思われがちな実体的な光を注意深く観察し、光響く空間を創造していってほしいのじゃ。

私は空間の魔術師であるが、
光の魔術師でもあったのじゃ

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