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甦るフランク・ロイド・ライト(30)Fallingwater 3

<あらすじ>
65年の時を経て、フランク・ロイド・ライトが、もし現代に甦ったら何を語るか、というエッセイ集です。今回(第30話)は、ライト孤高の傑作Fallingwaterを解説してもらいます。今回は、ライト独自の鉄筋コンクリート観について。


Fallingwater 1936
Fallingwater guest wing 1939
Frrank Lloyd Wright

前回、落水荘のバルコニー意匠についてご説明した。今回は、そのバルコニーから派生した各部位のデザインを深掘りする。つるつるしたバルコニーの意匠は気に入っているが、やはり箱感が強い。その箱を自然に溶け込ませるために、細かく砕いたり、自在に伸ばした。その実践例をご紹介しよう。この回で、私の鉄筋コンクリートにおける独自の感覚(sence)を示す。

施工写真と躯体伏図

鉄筋コンクリートとは何か?鉄筋コンクリートを組み合わせた圧縮引張に耐え得る、現代において最も合理化された建築構法のひとつである。オーギュスト・ペレ(1874-1954)が、技術性・意匠性を高め、彼は「コンクリートの父」と称されている。グロピウス(1883-1969)・コルビュジエ(1887-1965)に多大なる影響を与えた。ペレは私の7歳年下だ。

Palais d'Iéna パレ・ディエナ
オーギュスト・ペレ(1937)

上のPalais d'Iéna パレ・ディエナの写真が、鉄筋コンクリートのあるべき姿を示している。細い柱・大開口も良いが、鉄筋コンクリートの本質は、粘土のような造形の豊かさにある。木・鉄・石のみでこの造形性をつくるのは困難だ。ペレは、当時のゴシック建築の鉄筋コンクリート化に成功し、独自のデザインを進めた。

しかしペレの階段と造形はものすごい。
そして竣工時期も落水荘より早い。
私も少し上の先輩として負けてはいられない。

有機的鉄筋コンクリート

いかに新たな近代的構法の鉄筋コンクリートを、わが有機的建築に取り込んだか。鉄筋コンクリートとは、コンクリート+鉄筋の複合であり、2種類の相反する強度をもつ。圧縮強度と引張強度である。これらの優先順位によって、2つの鉄筋コンクリートのコンセプトが出現する。(下図)

2つの鉄筋コンクリートのコンセプト
無機的 / 有機的鉄筋コンクリート

コンクリートの結晶性 + 鉄筋の均質性に着目する無機的鉄筋コンクリートと、鉄筋の柔軟性 + コンクリートの流動性に着目する有機的鉄筋コンクリートの2つだ。経済的な合理の観点からは、前者が優勢だが、有機的建築と結びつくのは後者になる。私には、鉄筋コンクリートが植物のような有機体に見えていた。鉄筋が繊維体、コンクリートが細胞体という見立てである。
植物の繊維体は、しなやかで靭性に富む。そして細胞体はその繊維体を柔軟かつ滑らかに包み込む。このようなコンセプト・見立てのもと、鉄筋コンクリートの有機化を推し進めた。

鉄筋コンクリートと植物の構造の類似性
鉄筋を繊維体、コンクリートを細胞体に見立てた
コンクリートの圧縮強度ではなく、
鉄筋の引張強度(柔軟性)の有用性を示した
ハンドジェスチャー

・・

延伸する鉄筋コンクリート

有機的鉄筋コンクリートをどのように実践したか。落水荘は1937年に完成し、カウフマン家が住まい始めるが、彼らは別棟が必要だと考え、私に追加設計を依頼し、1939年に完成する。この際の、渡り廊下のデザインが、有機的鉄筋コンクリートの一端を示す。

Fallingwater guest wing
Frrank Lloyd Wright 1939
追加の別棟と湾曲する渡り廊下

有機的鉄筋コンクリートは、植物のような振る舞いをする。延伸し、大地を這う。
本棟から別棟へのアプローチは、互いを求めて連続するツタ植物のようなデザインになった。

ツタ植物のように森を延伸する
片持ち梁(引張強度)を駆使したパーゴラデザイン
なぜこれで構造が成立するか、摩訶不思議じゃ


外階段の階段手摺も延伸する鉄筋コンクリートの一環になる。バリコニー腰壁が階段を這い、岩の外皮のギザギザとも呼応する。

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粒子化する鉄筋コンクリート

ここで、落水荘の美しき階段をご紹介しよう。
眼下の川へ舞い降りる吊り階段である。バルコニーが粒子化して、川へ舞い降りるようだ。この粒子化に際して、鉄筋コンクリートの引張強度が役割を成す。植物が薄い葉を生成すると同様に、わが有機的鉄筋コンクリートも、薄い階段の踏板を生成した。

薄い葉のような繊細な階段

落水荘以後、様々な住宅でこの階段は頻出する。

Herman T. Mossberg Residence
Frank Lloyd Wright 1948
South Bend, Indiana S.302
折り返し階段に進化
Charles F. Glore House
Frank Lloyd Wright 1951
Lake Forest, Illinois S.341
リビングへの透け感を確保する吊り階段


落水荘の庇ルーバーも粒子化する鉄筋コンクリートの一環といえるだろう。木の枝のように細く伸び、木漏れ日を庇下につくる。

本棟の庇 プランターも内外を横断する(右写真)
別棟の庇とプール
別棟の庇の木漏れ日ルーバー

・・・

拝啓、オーギュスト・ペレ様

以上足早に、私の鉄筋コンクリートをご説明させて頂いた。整理としてコルビュジエのドミノ・システムと私の落水荘を比較しておこう。

コルビュジエと私の対比は、圧縮と引張の対比

鉄筋コンクリートの感覚についても、相変わらずコルビュジエと私は対比的である。コルビュジエはペレに師事したらしいが、そのアイディアは、片手落ちである。下図に2つの鉄筋コンクリートの系譜を整理した。オーギュスト・ペレは、無機・有機的両方の鉄筋コンクリートを試みており、彼が「コンクリートの父」と称される根拠を示している。

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今回で落水荘は終わりにする。
次回から菱形平面研究に入る。


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