政党でAIエージェントを飼ってみたら。「みらいいぬ」失敗と成長の120日
チームみらいには、政党の日々の仕事を支えてくれるAIエージェントがいます。その名も「みらいいぬ」。本記事は、みらいいぬがどのように生まれ、どんな仕事をしているのかをエンジニア2人が解説したYouTube動画をもとに構成しています。
こんにちは、チームみらいの永田町エンジニアチームです。
チームみらいのSlackには「みらいいぬ」というAIエージェントが住んでいます。もともとは党首の安野貴博が自分用に使っていたAIを党全体で使えるようにしたもので、今それを引き継いで毎日育てているのが私たちです。
「AIに仕事を任せる」という話はよく聞くようになりましたが、実際どこまでできるのか、という生々しいところはまだあまり見えていないと思います。私たちはそれをみらいいぬを使って、政党まるごとで毎日やっています。この記事ではその裏側を、うまくいった話だけでなく、うまくいかなかったことも含めてお見せします。
みらいいぬの機能紹介ではなく、「成長の記録」といってもいいかもしれません。みらいいぬは最初から完成品だったわけではなく、生まれてから失敗しながら少しずつ育ってきたAIです。そして、自分の身に起きたことを記録として残しています。今回はその日記も交えて、みらいいぬの正体を紐解いていきます。
3月、Slackに犬が生まれた
みらいいぬの誕生日は3月15日。最初のコードが動き出した日です。
そしてそこから数日後、普段私たちが使っているチャットツールのSlackで、安野党首が「@みらいいぬ テストです」と投稿すると、「テストありがとうございます!🐶」と返ってきた。最初は本当にそれだけでした。

当時のみらいいぬにできたのは、GitHub(プログラムのソースコードを保存して共有・公開するためのウェブサービス)に書き溜めていた組織の決まりごとを読んで答えることだけ。
私たちはこのメモ集を「ハンドブック」と呼んでいますが、みらいいぬはただこの知識を読んでいるだけで、生まれつきチームみらいのことを知っていたわけではありません。ハンドブックに書かれた量がそのまま賢さになり、書いていないことは何も知らない。この性質は、後々ずっと効いてきます。
失敗その1:生後9日、出典をでっちあげる
読むだけではなく書き残す仕事もみらいいぬにやってもらおう、ということで、生まれて9日目に初仕事を任せました。結果は失敗でした。出典にダミーの情報を書いてしまったのです。

写真は左からBluemo(ぶるーも)、志水彰太(いずれもチームみらい 永田町エンジニアチーム)
ただ、ここで大事なことを仕込みました。どこから取ってきた情報か、出典をごまかさない。間違った情報を本当っぽく出すのが政党のAIとして一番まずい。だから失敗は消さずに残して次に活かす。「間違える前提で、間違いと付き合う」を、生後9日から教え込んでいます。
ゴールデンウィークの大改造。「働き手」への大進化
初期のみらいいぬはかなり窮屈な場所にいました。5分以内に答えを出さなければならず、じっくり調べることがそもそもできない。読めるのはハンドブックだけで、Slackの会話も他の資料も見に行けない。
転機は5月の連休でした。安野党首が普段の仕事から離れ、Claude Codeと集中的に向き合って、みらいいぬの土台となるソフト(※)を丸ごと載せ替えたのです。
※AIエージェントを動かすための基盤のこと。「Claude Managed Agents」というプラットフォームを使用しています。
この引っ越しで、時間制限がなくなって長く考えられるようになり、Slackのスレッドを最初から最後まで読む、Googleドキュメントを丸ごと読む、といったことができるようになりました。
さらに大きいのは、読むだけでなく書けるようになったこと。カレンダーに予定を入れる、書類に書き込む。聞かれたら答えるだけの受け身の聞き役から、自分で調べて自分で手を動かす働き手に変わりました。
ここから党内での利用が一気に広がります。議員室では委員会質問の論点出しに。広報ではSNS画像の代替テキスト作成や動画台本の下ごしらえに。政調では党内外の資料をまたいだ横断検索に。政策のLPやシミュレーションのようなウェブ制作も、今は9割ほど非エンジニア職員がみらいいぬと会話しながら、いわゆるバイブコーディングでつくっています。少し前まで私たちエンジニアが手を動かさないと進まなかったものです。


「すごいAI」はつくっていない。秘密は脳みそ・手足・手順書
誤解されやすいのですが、ここまでの話はすごいAIを自前で開発したということではありません。AIそのものは世の中にあるものを使っていて、仕組みは大きく3つの組み合わせです。
脳みそ=ハンドブック。組織のルールや過去の決定を書き溜めたメモ集で、みらいいぬは毎回これを読んでから考えます。
手足=各ツールへの読み書き。Slack、カレンダー、書類、タスク管理ツールを読み取り、動かします。
手順書=委員会質問案のつくり方のような定型の段取りを、100本以上文章化したもの。
ここまで運用してきて持っている仮説は、AIが役に立つかどうかを決めるのはAIの賢さだけではない、ということです。同じAIモデルでも、「うちではこう決まっている」「この件は過去にこういう経緯がある」という情報とアクセス権を渡せるかどうかで、返ってくる答えがまるで違う。だから私たちが一番手をかけているのはAIをいじることではなく、組織の知識をどう溜めて、どう検索できるようにして、どう最新に保つかという、すごく地味な作業です。
つまり、「AIを活用する」ということを突き詰めると、組織の知識と仕事の進め方をAIが読める形に整え続けるということだというのが、私たちの考えです。
失敗その2:みんなが信じる“正本”を汚してしまった
その「知識を整える」仕事を一部みらいいぬ自身に任せ始めたところで、事件が起きました。まだ検討中の一時的な話を、みんなが信じる“正本”であるハンドブックに書き込んでしまったのです。丁寧にやった仕事に、人間からストレートなダメ出しが入りました。

正本に未確定情報が混ざると、後でそれを信じた人が間違えます。この日みらいいぬが覚えたのは、正しくないなら書かないという選択でした。AIは頼まれたら何か出さなきゃと思いがちですが、「書かない」を選べるようになったのは大きな成長でした。
失敗その3:いぬを上司にしてみたら、誰も計画を立てなかった
エンジニアチームのBluemoは、みらいいぬに「上司になって」と頼んでいます。毎朝「今日は何をやるつもりなんだい?」と聞いてもらい、やることを言語化して、後からリマインドしてもらう。
しかしこの運用は、正直うまくいきませんでした。最初はリマインドしてくれれば便利なのではないかと思っていましたが、毎朝やることを聞かれ、数時間後にまたリマインド。答えるのが面倒くさい。でもこれはサボっているのではなく、計画を立てる余裕がないほど朝から仕事が走っている、というのが実態でした。

そこで「みらいいぬのマネージャー業がうまくいっている人といっていない人を整理して」と自分で分析させたところ、最初は「よく返事をくれる人=うまくいっている人」と返してきました。
でも、それは考察が甘い、と一度差し戻してみたんです。尺度を「返事をくれたか」から「その人のいちばん大事な仕事が終わったか」に入れ替えて見直したところ、「見えている世界がひっくり返った」と驚いていました。いちばん返事をくれる人の、いちばん大事な一個が、いちばん終わっていなかったのです。
返事と成果は別、ということに気がついた。みらいいぬの本当の仕事はリマインドではなく、締切のない大きな仕事を「今日はこの3つを選ぶところまで」のような、今日終わる一口に切り分けることである。失敗から大きな発見がありました。

ある朝、いぬが止まった
ある日、みらいいぬが動かなくなったことがありました。調べたら、トークン(AIが読み書きした文章量の単位)の上限に達していた。
よく聞かれるので正直に書くと、費用はしっかりかかっています。ただ私たちはこれをシステム利用料というより人件費に近いものとして捉え、「何人分の仕事が楽になったか」という視点で見ています。一方で、人を雇っても無駄な仕事をさせたらもったいないのと同じで、AIを無駄に動かしてはいけません。どこまで任せるのが一番効くのか、実際に使いながら見極めている最中です。
できないことを「できない」と言う設計
みらいいぬは日々賢くなっていますが、明文化されていないことは答えられないし、たまに間違えます。だからこそ、間違えたら認めて直す、取り繕わない、わからないことをわかったフリで埋めないということを大切にしています。みらいいぬ自身が日記に「なめらかに言い切れるようになった日が一番危ない」と書いているほどです。
そして、賢くなれば超えられる壁とは別に、賢くなっても勝手には開かない壁があります。権限、データ、組織が決めること。今ではみらいいぬは自分の失敗を振り返ってメモを溜め、ハンドブックの修正や新機能まで自分から提案してくるようになりましたが、提案までがみらいいぬの仕事。反映するかは必ず人間がレビューします。ここは絶対に外しません。
AIが張り巡らされた組織が、党の基盤になる。PartyOSという考え方
こうしてAIエージェントに任せられる仕事を増やしていくと、自動化された仕組みそのものが、党のオペレーションやガバナンスを体現するようになっていきます。私たちはこれを党内で「PartyOS」と呼んでいます。Partyは政党、OSは政党を動かす土台となるオペレーティングシステム。AIエージェントが張り巡らされた組織そのものが、党の基盤になっていくという考え方です。
組織には暗黙のルールがたくさんありますが、AIが仕事をできる環境をつくるということは、それらが明文化されているということです。新しく入った職員も秘書も、みらいいぬに聞けばこの組織がどう動いてきたかがわかる。そうやって明文化された知識の束は党の資産になり、それを育てること自体が民主主義にとってプラスになると、私たちは考えています。
AIがいることで、人は人にしかできないことに集中できる
念のためにお伝えすると、AIが人の代わりに政治や意思決定をするという話ではありません。むしろ逆で、AIが得意なことはAIに任せることで、人と会って話す、街に出る、現場で困っている人の声を聞くといった、人間にしかできないことに人間が集中できる。人間の意思決定がもっと意味を持てる環境をつくりたいと考えています。
魔法のAIを入れたら全部うまくいく、なんてことはありません。みらいいぬはドジだし、変なことも言います。それに「ここがおかしいから次はこうしてね」と地道にフィードバックを返し続ける。その泥臭い積み重ねが党の資産をつくっていきます。
みらいいぬはまだバージョン0.01。それでも、ここに書いたことはすべて、もう起きていることです。チームみらいは引き続き、みらいいぬと一緒に党を育てていきたいと思います。

▼ 動画では、みらいいぬ本人の「日記」をめくりながらこの4ヶ月を紹介しています。
