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し、あるいはつ、セットで八

急に季節が入れ替わっていく。桜が散ったと思ったら、今はあっという間に木々が黄緑色に輝く葉を繁らせている。
気を抜くとすぐに考えごとをして、見えているものを見なくなってしまう。出勤の道すがら、できるだけ意識的に頭を空にして目の前に広がる景色を味わう。

東京駅の人混みを抜けて、いつもは地下道を歩くところをそのまま地上に出て、いろいろ眺めながら会社に向かうこと、15分。汗ばむ陽気。
仕事中に食べるグミを買うために寄った会社前のコンビニの店員さんと、妙にしっかりと目が合う。知り合いだったかな、と思ってネームプレートを見るが、特に思い当たる節もない。彼も特に話しかけてくることもない。

会社に着いたらまずトイレだ。今日やることを考えながら手を洗う。冷たい水が意識を覚醒させる。鏡に映る自分の顔を見て、仕事のスイッチを入れる。これがいつもの日課だ。

何か違和感があった。仕事のスイッチがうまく入らない。

髪型がおかしいのだ。汗ばんだせいで、癖っ毛がトリッキーになっている。右の前髪が「し」の字、左が「つ」になって、漢字の八をだいぶご機嫌に描いたような、個性的な髪型の人になっていたのだ。
濡れた手で直そうとすればするほど、個性はさらに際立ってゆく。カールが激しくなって、なんなら謎の◯が額の両側にできてしまう。
おでこを出してオールバック気味にしてみるも、今度は癖っ毛が反転して謎の七三(しちさん)分けが出現し、声をかけづらい雰囲気すら漂う髪型が出来上がってしまう。もはやコントロール不能だ。

諦めて、会う人会う人に「癖っ毛で嫌になっちゃいますよ」と先制攻撃することでなんとか自分自身を保った。
早く髪を切りに行きたい。

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