『鏡戦隊アハレンジャー』
今回の案件は、役員からいかに承認を得るかが鍵を握っている。次の会議に向けて、矛盾がひとかけらもないよう、リビングで資料をチェックし、修正し、それを繰り返す。
ふとした瞬間、集中力が途絶え、テレビを凝視する息子に気を奪われた。いつものやつか。
「鏡の中に潜む悪を、根絶やしにするまで、
俺たちは誰にも止められない!!」
肩と肘関節に負荷をかけ、暴走列車をイメージさせるポーズを真似をしながら、息子はセリフをユニゾンしていた。
「鏡戦隊アハレンジャー!!」
戦隊シリーズの最新作だ。
主人公たちの現実にある鏡の中には平行世界が存在している。黒幕はさらに時代も遡り、平安時代に潜む四鏡と呼ばれる。そんな斬新かつ、雑な設定が人気をよんでいる。
「どうだ、面白いか?」
息子は目線をTVから反らすことなく言葉を返してきた。
「ちょっと黙ってて。今、最初の四鏡、大鏡とのバトル中なんだから。」
アハレンジャーは5人いるが、現代から平安時代にタイムスリップできるのは2人だけらしい。タイムマシーンの定員には勝てないようだ。必死に赤と緑色のキャラクターが直接戦い、他の三人は指示する者が一人、あとの二人は祈っているだけのようだ。予算上、CGの対象を減らしたい思惑が透けてみえる。
物語が進み、どうやら赤と緑対大鏡の戦いは次週へ持ち越しのようだ。エンディングテーマの平安ラップも終わり、息子は言った。
「お父さん、日曜なのに家で仕事って大変だね。」
子供には私の仕事内容を教えていない。
「ああ、今回は相手が強敵だからな。抜かりなく準備が必要なんだよ」
ノートパソコンを指差しながら、眉間に皺をよせ、今回の相手が手強いことを強調した。
「アハレンジャーは、鏡戦隊だから、敵の力が強ければ強いほど、自分たちの力が強くなるんだよね。
お父さんも見習った方がいいよ」
敵が強ければ強いほど燃える。それは間違いだ。敵は弱ければ弱いほどよい。
「その代わり、下っ端の戦闘員との戦いも、接戦になっちゃうんだよね。グダグダ戦っている間に、裏番組を巡回できるくらいだよ」
時計が目にはいった、もうこんな時間か。
「そろそろ、予備校の時間じゃないか?」
息子ははっとして、慌ただしく出掛けていった。
そう、息子は現在高校三年生、受験真っ只中だ。
私が仕事ばかりに気をとられている間、5年前に妻は男をつくってでていってしまった。息子には迷惑をかけて、本当に申し訳ないと思っている。
せめてもと、息子がやっていることには口をださない。例えそれが戦隊シリーズだとしても、好きなことを堂々と突き詰めてほしい。
息子をみていると、まるで自分を鏡でみているようだ。
さて、仕事の続きに取りかかろう。
私は、再来年度の戦隊シリーズの企画資料に、再び目をおとした。
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