沈黙を待つ — 患者との面接で起きていること(CSTを経て)
緩和ケアの講習会などで、患者さんとの面接に必要なスキルは、言葉としては知っていました。
・目を見て話す。
・患者さんの言葉を待つ。
・沈黙を設ける。
・オープンクエスチョン。
・いたわりの言葉をかける。
などなど。
ただ、わかってはいるものの、正直なところ、自信を持って実践できている感覚はありませんでした。
数年前、若い頃にお世話になった先輩医師に誘われて、日本サイコオンコロジー学会のコミュニケーション技術研修会(CST)に参加しました。
2日間の合宿形式。受講者は、一定の臨床経験を有する医師・歯科医師が5名程度という少人数です。
模擬患者さんを相手に、何度も面接のシミュレーションを行います。
この模擬患者さんが曲者(失礼!)で、田舎のおばちゃんから高学歴の婦人まで、さまざまな人物に化けてきます。
厳しい言葉を投げかけられることもあれば、こちらの言葉がまったく届かないこともある。なかなか手強い相手です。
シミュレーションのたびに振り返りを行い、問題点や課題を出し合う。これを何度も繰り返します。
最初はどこか演技じみてしまい、うまく入り込めませんでした。
それでも回数を重ねるうちに、次第に熱が入り、気づけば病棟にいるかのような感覚で、患者さんと向き合っていました。
そうした時間の中で、スキルの意味と、それに対する患者の反応を、体で理解していきます。
例えば沈黙。
ただ黙っていればいいわけではありません。
患者さんの表情を見ていると、戸惑いが、話を続けようという決意に変わる瞬間があります。
それを待つ。30秒でも、3分でも。
沈黙は怖いものではなく、むしろ大切な時間になっていきます。
ひたすら繰り返すことで、文字として知っていたことが、少しずつ自分の中に入ってくる感覚がありました。
2日間が終わるころには、もうへとへとでした。
それでも、充実していました。これほどの充実感を得られた講習会は、そう多くありません。
この経験を経て、患者さんと向き合うときの心構えが変わった、と思います。
目を見て話す。
簡潔な言葉で伝える。
沈黙や寄り添いによって思いを汲み取り、ともに歩む姿勢を示す。
医師との面談を経て、希望を持つのか、悲観するのか、あるいは絶望するのか。
医師の言葉によって、患者さんの予後が変わることも、ときには、その人の人生に影響を与えてしまうこともあるかもしれません。
私にとって、これはある意味、恐ろしいことです。
患者さんとの面接には、それ相応の覚悟が必要です。
そして、そのためには日々の研鑽が欠かせない。
私もまだ道半ば。後悔することも少なくありません。
それでも、CSTでの経験を思い返しながら、日々の診療に向き合っています。
