「面白い人じゃなくてもいい」誰しもがまちづくりの担い手になれる福井の街〈ローカルグッドの視座〉
地球環境や地域コミュニティなどの「社会」に対して「良い影響」を与える活動・製品・サービスの総称を「ソーシャルグッド」と言います。こういったソーシャルグッドな活動をより地域に根を張って活動されている方々を今回、“ローカルグッドな人たち”と定義。彼らはどのような視点でローカルグッドを実現しているのか、本人に聞いた。
福井駅から徒歩3分、たくさんの人が行き交う場所にワークラウンジ「PLAYCE(プレイス)」がある。ふらっと立ち寄れるカフェで憩うもよし、タスクや勉強に集中するもよし。「まちのリビング」として、さまざまなニーズを満たしてくれる空間だ。PLAYCEを企画・運営するのは、一般社団法人PLAY CITY(プレイシティ)。今回お話しを伺ったのは、福井県鯖江市生まれの瀬戸川りさ子さん。PLAY CITYのスタッフとしてまちづくりの一角を担う瀬戸川さんに、地元の魅力やPLAYCEのポテンシャルを語ってもらった。
駅前の「PLAYCE」が描くまちのリデザイン
PLAYCEを訪れる目的は人それぞれ。駅前ということもあり、ふとした時に立ち寄るのにぴったりだ。フラワースタンドも併設されており、コーヒーを飲みながら緑や花にも癒されるのもうれしい。


「レンタルスペースもあるのですが、予約が結構埋まるんですよ。夜の利用では飲食の持ち込みが自由なので、お酒やお弁当を持ってきて懇親会で使われる方もいます。福井県の地域おこし協力隊の方同士が交流されるイベントも開催されました。カフェは開けた形になっていて、一般の利用者の往来もあります」


月に1回程のペースで、平日夜にトークイベント「PLAYTALK」を開催。さらに、市民大学「ふくまち大学」の拠点としての機能も持っている。
「PLAYCEは北陸新幹線延伸に伴う再開発により誕生した複合施設・FUKUMACHI BLOCKの中に入居しています。2022年に福井県、福井市、福井商工会議所などが協力・連携する、県都にぎわい創生協議会が設立され、地域の将来像について議論が重ねられました。そうして、長期構想『県都グランドデザイン』がまとめられたんです。その素案で決まったのが、これから2040年頃にかけて、さまざまな人が交流・共創できる場をまちなかに作り、新たな『たのしみ』『くらし』『しごと』を生み出すこと。まずは開かれた学びの場として、2022年に『ふくまち大学準備室』がスタートしました。2023年度からは、『ふくまち大学』事業としてさらに発展を目指しているところです」

「当初のふくまち大学は、のちにPLAYCITYの代表理事となる高野翔をはじめとするメンバーが福井市などから委託を受けて運営していましたが、2024年度からはPLAYCITYがふくまち大学の運営を担うことになりました。さらに11月にPLAYCEがオープンしてからはこの場所をふくまち大学の拠点として活用しています」
講座は実に多彩で、手話や野鳥、YouTube発信、福井の楽しみ方などを学ぶことが可能。新しい視点の気づきを得られる仕掛けが満載だ。
「高野は福井県立大学地域経済研究所の准教授でもあって、ウェルビーイングを専門に研究しています。高野はPLAYCEについて『居場所と舞台という2つのトピックを大事にしたい』とよく言っているんです。みんなに開かれた居場所でもあり、同時に自らのライフプロジェクトに出会い、実践できる場所でもあります。また、ふくまち大学もいい意味で敷居が低いというか、ゆるさがあるのが特徴です。教える側もプロの方ばかりではありません」

「ふくまち大学の講座規模は10〜15人くらいの規模のものが多いので、人数のインパクトはそこまで大きいものではないんですけれども、少しずつ認知は広がっていると感じています。年に一回、ふくい学徒祭というイベントを開催していて、学びの機会を一日に凝縮しているんです。2024年12月の学徒祭は100人近くが立ち寄ってくれました」
市民大学ならでは!学びをシェアし、人と人とが繋がる
瀬戸川さんはふくまち大学の事務局運営や新規プログラム運営などに携わっている。開講から数年が経つが、講座の内容はどんどん発展しているという。
「開講してから2年目までは基本的に講座とサークルという構成で、単発の授業を提供していました。2024年度からは、半年がかりの長期プログラム『ふくまちラボ』が始まり、より実践的なプロジェクト作りにフォーカスしています」

ふくまちラボが目指すのは、地域の課題をシェアし、事業・政策化を視野に入れながらまちの景色をつくること。
「2024年度のふくまちラボは、交通まちづくりがテーマでした。12人の参加者が3チームに分かれ、プロジェクト作りに取り組んでもらったんです。参加者の方も多様でして、仕事や家庭では出会えない人との繋がりを提供できている手応えを感じました」

学[1] びによる副産物を手にしているのは、参加者のみならず講師陣もだという。ふくまち大学の講師経験を糧に、伝える力や周囲を巻き込む力を発揮している講師もいるそう。「コミュニティナース学科を開講している加藤瑞穂さんという方は、本当にパワフルです」と、ある講師の活躍を教えてくれた。
コミュニティナースとは、地域で健康をサポートすることを目指し、暮らしという身近な場で健康増進や心身の安心をケアする人々だ。

「加藤さんは、ご自分の会社でも講演や講座をしていらっしゃる方。ですが、ふくまち大学で講座を開いてみたら、受講者が自主的にイベントを開くようになっていきました。一期生、二期生と増えるうちに縦の繋がりも生まれたんですよ」
参加者と講師が、リレーのように学びを誰かに繋げていく。ふくまち大学の学びは一過性では終わらないもののようだ。
故郷の変化への戸惑い......逃げずに向き合うことにした理由
PLAYCEに勤め、まちの中心地で地域を盛り上げている瀬戸川さん。鯖江市で生まれ育ち、大学進学を機に東京へ旅立つことに。その頃は丁度、福井のまちが変わり始めた頃でもあった。
「TSUGI(福井県に所在する地域特化型クリエイティブカンパニー)の活動が活発になってきたタイミングで、私は地元を離れて上京したんです。ですが東京にいても、SNSなどで地元の変化が目に入ってきました。TSUGIが始めた『SAVA!STORE(サバストア)』や工房開放イベント『RENEW(リニュー)』も知っていたんです。けれど私がいた頃の地元とは別の世界の出来事みたいで……、気になるけど接点はない話だろうなという感覚でした」

東京での就職活動も終えた大学4年の頃。ひょんなところから地元とのタッチポイントが生まれたという。
「2016年に福井で開催されたリノベーションスクールに参加したんです。その時に、現在のPLAY CITY副代表理事の高岡と関わる機会ができました」
故郷を身近に感じられたものの、大学卒業後は内定をもらっていた新聞社に就職。財務部で5年ほど経験を積んでいった。その間、福井がさらに変化していくのを感じていた。
「大きなシェアハウスができたりして、20代30代の若い移住者たちが鯖江にたくさんやってきました。私は鯖江を嫌だと思って出ていったので、移住者の方々が楽しそうに過ごしていることに違和感があったんですよ。『そりゃ大人になってから来たら楽しいよ......』みたいな気持ちも(笑)」
「けれど、その違和感をそのままにしておくのも嫌でした。『文句を言うなら自分が地元で働いてからだな』と考えるようになったんです。そうじゃないと(地域を盛り上げている人に対して)冷ややかな目をするだけの人になっちゃう」
そして2021年の夏、SAVA!STOREの求人を発見。気持ちは一気に地元へと向かっていった。
「履歴書に熱い想いを書いてダメ元で応募したら、代表の新山さんが『PMで入ってみない?』と拾ってくれたんです。TSUGIには鯖江出身のスタッフがいないことも面白がってもらえました。TSUGIへの転職で帰ってきたのが、27歳位のことですね」
福井はやりたい人にチャンスが巡ってくるまち
TSUGIではPMとして仕事に邁進し、経験と人との繋がりを築いてきた。TSUGIを退職した際は、その後のキャリアプランはほぼ白紙に近い状態だったというが、不安はなかったと教えてくれた。
「私がTSUGIを辞めたときも、『福井にいればまた何か面白い仕事に出会えるだろう』という根拠のない感覚がありました。福井ではみんな人手を欲しているので、『やりたい』と言えば『この仕事任せるよ』という風に、チャンスに接しやすい気がします。TSUGIや観光地域づくり法人SOE(ソエ)の仕事を近くで見てきましたが、『仕事や雇用はこういう風に生み出されていくんだ......』と実感しました」

福井に帰ってから、働き方が大きく変わった瀬戸川さん。最近は「人間関係の境目が解けた」と感じているという。
「街中に知り合いが増えた感覚になりました。この感覚を、限られたコミュニティの人だけで独り占めしたくはないんです」

「ローカルビジネスやまちづくりに携わる人って、顔も名前もどうしても目立ちがちで、『この人面白いよね』が強くなりすぎるなど、良くも悪くも『またこの人たちか』と思われやすい。PLAYCEを運営する上で、『いつもの人でやってるよね』みたいな感じにはしちゃいけないと考えています」

「私にとってPLAYCEや福井のまちなかは’’ただの地元’’に近い感覚で、決して特別な場所ではありません。面白い人だからPLAYCEにいることを許されているわけじゃない。ただここで過ごしてもらうだけでいいんです。ふらっと立ち寄ったり、ちょっとコーヒーを飲みに来たり。設立当初から、そういう余白が大事だとみんなで考えてきました。PLAYCEに来れば、誰もが境目が解ける感じを味わえるようになるといいなと思っています」
PLAYCEを訪れる理由に、特別なキャラクターやストーリーは必要ない。アクセスの良さだけでなく、風通しも良いのがPLAYCEだ。

「TSUGIなどで新山さんが作ったうねり、高野さんが作ったふくまち大学の繋がり、そういう大きなものがあるのが福井です。競合がいないので、特別なものを持っていなくても怖気づかずにチャレンジできる環境だと思いますよ。私もここで、人に機会を分けていく側になっていきたいです」
福井には、誰もがくつろげる居場所とチャレンジできる舞台がある。自由に手を挙げられ、自由に繋がることができるのは、ローカルで暮らす上での絶大な安心感になるはず。PLAYCEでどんな出会いやアイデアが生まれるか、たくさんの人がワクワクしていることだろう。
