マーケターは刑事に変わる?
vol.1774
最近、マーケティング分野ではAIを活用する取り組みが急速に進んでいます。
例えば、電通の「DNAマーケティング」です。
〈Web担当者Forum / 2026年7月28日〉
これは遺伝子のDNAではなく、「Discover Native Affinity」の略。
ブランドやコンテンツ、スポーツ、地域などが持つ機能的価値や情緒的価値、体験価値、文化的背景を「DNA」として整理し、生成AIで相性を分析する新しいマーケティング手法です。
電通は、これまで担当者の経験や勘に頼っていたスポンサー選定やコラボ企画を、過去の知見や成功・失敗事例を学習したAIによって客観的に分析し、生活者の共感を生みやすい最適な組み合わせと、その根拠を提示できるようにしました。
〜と、例を挙げればキリがないAIマーケティングの事例。
そんな時代において、マーケティングに従事する人は、どんな視点で仕事に取り組めば良いのでしょうか?
刑事のような洞察力
そのヒントを示してくださっているのが、株式会社わかさ生活 代表取締役社長、⻆谷建耀知さんの
「評論家じゃなく刑事になれ!」
というお言葉。
〈東洋経済オンライン / 2026年7月29日〉
評論家のようにデータや情報を机上で分析するだけではなく、刑事のように現場へ足を運び、自分の目で観察し、人の話を聞いて事実を集める姿勢が大切だということです。
AIやデータ分析が発達した時代だからこそ、マーケティングで最も重要なのは
「人に直接会い、感情を理解する」。
⻆谷さんはZ世代を理解するために100人以上の若者と直接対話し、アンケートやSNS、AIの分析だけでは見えてこない本音や価値観を掘り下げるなど、その言葉を実践されております。
また、売上やアンケート結果などの数字はあくまで「結果」にすぎず、本当に知るべきなのは
「なぜ買ったのか」
「なぜ共感したのか」
という生活者の感情であり、その答えはデータの中ではなく、人の中にあると述べています。
さらに、成功した企業だけを真似するのではなく、成功しなかった企業や売れない店も観察することで、本当の成功要因が見えてくるとも指摘。
元気な人や声の大きな人の意見だけを重視するのではなく、目立たない人や静かな人の声にも耳を傾けることが重要だとしています。
つまり、AIは情報整理や分析には優れていますが、人の感情や空気感、行動の背景までは完全には読み取れないため、これからのマーケターに求められるのは、AIを活用しながらも、自ら現場に足を運び、人と対話し、生活者の本音を掴む力であるということなのです。
権威ある言葉をあえて疑う
これまでもAI時代は「クリティカルシンキング」が大事だと言われてきました。
批判的思考のことで、情報を客観的に分析し、根拠や前提を検証して本質を見極める。
他者を非難するものではなく、より良い結論を導くための建設的なアプローチです。
「刑事になれ」という言葉があることで、このクリティカルシンキングを非常に明確にイメージできる。
ときに自論も疑いながら、多角的に思考することが重要でしょう。
情報をキャッチするときもそうです。
我が社の先代社長である谷口正和は、よくどんな権威ある人の言葉も
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
と思って聞きないさいと言っていたのですが、真理の可能性を限定しないことを考えると必要なことかもしれません🤔
例えば、海水浴客数が1985年の3790万人から、2024年には440万人へと約9割減少しているそうなのですが、日本大学 理工学部名誉教授の畔柳昭雄さんは、このように分析されています。
(1)レジャーの多様化
(2)クルマ離れ(海水浴は多くの荷物が必要)
(3)海に対するイメージの変化
〈ABCニュース / 2026年7月27日〉
(3)については、1970年頃までは「海水浴は健康や教育に良い」と言われていたのに対し、その後は「海水浴場が必ずしもきれいではない」「大腸菌が多い」といった認識が広がり、「海水浴信仰」が冷めてマイナスイメージが増えていったとのこと。
3つの理由は、どれもその通りなのだと思いますが、ABCニュースがインタビューした人の声を聞くと別の理由も見えてきます。
40代女性:
「水難事故を多くみるようになったから。パラソル以外に日陰がないから」
30代男性:
「近年の暑さ、紫外線で皮膚をさすような痛みを感じる。日焼けが嫌なので、あえて行かなくなった」
30代女性:
「あまりの暑さに外にいたくなくて…涼しいショッピングモールに行くほうが体が楽」
20代男性:
「海は砂が熱くなってるって聞くし、海水はベタベタして気持ち悪いから、プールのほうがいい」
「確信」と「疑い」を行き来する
そうです、共通するのは「夏の暑さ」。
私も若い頃は海が好きだったのですが、いまは熱中症が怖くて行くことはできません…
もちろん、畔柳さんも「暑くて行かない」ことを前提として、それ以外の理由で3つ挙げているのでしょうが、切り抜き御免の超情報化社会では
名誉教授の3つの理由
ということがクローズアップされて、世の中に伝わっていく可能性は高い。
だからこそ、刑事のように疑う必要があるのです。
私も最近、若者心理で反省したのが
「今どきの若者は昔に比べて所有欲が少ない」
という説です。
これはマーケティングの世界では当たり前のように信じられている話ですが、実はそうでもないかもしれません。
理由の1つが、ストリーミングがスタンダードになる音楽の世界の中で、CDの売上が上がっているというのです。
〈Gizmodo / 2026年7月22日〉
音楽業界の動向を調査するLuminate社によると、今年上半期にCDの売上が急増。
販売数は約16%増の約1630万枚となっているのです。
主に購入しているのは、Z世代。
CDを購入したZ世代の60%が、「90年代以前の音楽を聴く」と回答しているのですが、驚いたことにCDを購入するZ世代の約半数がCDプレーヤーを所有していないということ…
GIZMODOライターのR.Mitsuboriさんは
音楽を「所有する」こと自体への熱意が確実に存在している
と指摘されています。
こうしたことを考えると、若者が以前よりも所有しなくなったのは、所有欲がなくなった(価値観が変わった)というよりも、所有しなくても良い「選択肢が増えた」と見るのが適切かもしれませんね🤔
〜というように、深く掘り下げれば掘り下げるほど、多角的に見れば見るほど、新しい答えが見えてくる。
…もちろん、ずっと答えを決めなければ、仕事は進みませんので、キリの良いところで決める必要はありますが…、
答えを出したあとも、それを盲信せず
「実は、ほかにも答えがあるかもしれない」
と頭の片隅で考えることが、AI時代のマーケティングにおける人の役割なのでしょう。
そんなところ意識しながら、私も日々仕事に取り組んでいきたいと思います😊
本日も最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました!
