「売れない」に商機あり
vol.1766
まずは質問です。
もし、あなたがコーヒーの新商品を開発するとしたら、どちらのお客さんをターゲットにしますか?
A:コーヒー好きの人
B:コーヒーが苦手の人
普通は、Aを考えるでしょう。
一方、Aを狙えば競合他社との熾烈な戦いが待っているわけです…
逆にBはどうでしょうか?
「…いやいや、コーヒーが好きじゃない人を狙って売れるワケがない…」
そんな声が聞こえてきそうですが、あなたも同感ですか?
買わない理由は“嫌い”ではない
ここで、もう一度Bを見てみましょう。
B:コーヒーが苦手の人
「好き」と「苦手」を並べたので、「嫌い」と想像した人も多いと思いますが、苦手と嫌いは別のものです。
サッカーを例に挙げますと
「ドリブル(を見るの)は好き」だけど、「ドリブル(をするのは)は苦手」
という人は多いでしょう。
であれば、コーヒーも同じです。
香りも良いし、カッコ良いイメージもあるので「興味はある」けれど、「飲むのは苦手」という人がいてもおかしくはない。
そんな人たちの心を掴んで成功したのが、サントリービバレッジ&フードの「クラフトボス」です。
〈MarketingNative / 2026年7月15日〉
「コーヒーは飲みたい。香りも好きだし、気分転換もしたい。でも苦味は少し苦手。コーヒーはカッコいいけれど、自分には少し遠い存在だと感じる」。
そうした人たちが予想以上に多いことを掴み、商品を開発。
香りは豊かなのに苦味が強過ぎない味わいを実現したところ、大ヒットになったのです。
面白いのが、同社ではマーケティング部ではなく、「新価値創造部」という部署があるところ。
マーケターだけではなく、生活者理解を専門に担うメンバーと、R&D、つまり技術系のバックグラウンドを持つメンバーが力を合わせ、日々商品づくりを通じて、生活者に新たな価値を提案しています。
今回のクラフトボスも「飲まない7割」に着目し、「私でも飲めるコーヒー」を開発。
部長の大塚匠さんは、味わいだけではなくパッケージにもこだわりを見せています。
「さらに、透明ラベルのパッケージも大きな役割を果たしました。BOSSというブランドが持つ歴史や信頼、チャーミングさを残しながらも、透明ラベルによって、新しいプロダクトのように感じていただけ、『私でも飲めそうなコーヒーかもしれない』と受け止めてもらえたことは、重要な発見でした」。
「買わない人」に向けたマーケティングは、ほかの会社でも見られます。
「買わない理由」を徹底的に分析
例えば、アイスタイルです。
〈LOCALITY! / 2026年7月15日〉
アイスタイルとは、日本最大級の化粧品・美容の総合サイト「@cosme」(アットコスメ)の企画・運営を行っている会社。
同社が目指しているのは、単に美容に関するデータを集めることではなく、
「生活者をこれまで以上に深く理解する仕組み」
を構築すること。
そのためにまず取り組んだのが、2年をかけて行った統合データ基盤の整備でした。
従来のPOSデータでは「何が売れたか」は分かっても
「なぜそれが選ばれたのか」
「なぜ他の商品は選ばれなかったのか」
は見えてきません。
一方、アイスタイルは、@cosmeでの商品閲覧やお気に入り登録、口コミの閲覧・投稿、ECや店舗での購買履歴などを1つのIDでつなぐことで、生活者が商品を比較・検討する過程まで可視化しました。
例えば、一人のユーザーが10商品を比較し、そのうち1商品だけを購入した場合でも、残り9商品を選ばなかった理由を含めた意思決定のプロセスを分析できるように。
加えて、「なぜ売れたのか」という因果関係を説明できるようにしました。
口コミの内容や比較検討の流れ、購買前後の行動を組み合わせることで、ブランドごとに異なる成功要因を言語化。
画一的なマーケティング手法ではなく、それぞれのブランドに最適な戦略として提案できるようになったのです。
また、業界横断のデータを保有していることも、アイスタイルならではの強みです。
ブランド側は高価格帯の商品だからラグジュアリーブランドが競合だと考えていても、実際の生活者は価格帯の異なるマスブランドと比較して購入を決めているケースがあります。
自社データだけでは、自社商品を検討した人しか見えず、他社を選んだ生活者の行動は把握できません。
しかし、業界全体を俯瞰するプラットフォームを持つアイスタイルは、「本当の競合」やターゲット設定のズレ、差別化ポイントの曖昧さまで可視化し、ブランド自身も気づいていなかった課題を明らかにしているのです。
「問い」を立てると見えてくる
一方で、データが豊富だからといって顧客理解が深まるわけではありません。
アイスタイルでは、分析に着手する前に
「何を明らかにしたいのか」
「本質的な課題は何か」
という問いをブランドと徹底的に議論することを重視しています。
仮説が曖昧であれば分析結果もぼやけ、逆に狭すぎれば意味のある示唆は得られません。
数多くのプロジェクトを通じて、この問いの立て方そのものをフレームワーク化し、データ分析の価値を最大化する仕組みを築いてきたのです。
そうすることで「ブランドと生活者の新しい出会い」を生み出す。
これは、先ほどサントリーが
「コーヒーが苦手な人って、どんな人だろう?」
と問いを立てたことで、コーヒーが苦手な人でも楽しめるクラフトボスを新たに創造し、提案することができました。
これぞ、問いの力。
初級編としては、まずは「売れないのはなぜだろう」を深く掘り下げることが重要だと思います。
「…いや、そんなのいつもやっているよ…!」
という声が飛んできそうですが…、『思考をアップデートする全技術 うまくいく人はなぜ、考え方を柔軟に変化させられるのか?』の著者で、マイクロソフト出身の実業家、澤円さんはセールス(営業)の場面で重要なのは
「(こちらが提案する商品やサービスを通じて)相手の成功する姿が想像できるか?」
と仰っています。
私も普段、多くの会社から営業を受けるのですが、その商品のスペックや強みを語るだけで
「私(ウチの会社)が導入すると、どんな成功が待っているのか」
が伝わってこないことも、よくあります…
ほかにも競合他社の同じような商品・サービスがある中で、それを選ぶことでどんな大きな変化が生まれるのか?
それは、同時に我が社や私にも厳しい問いかけになっています。
数多あるマーケティング会社、数多いるマーケターの中で、我が社や私を採用するメリットは何なのか?
それは「売れなかった」ときこそ、大きなヒントがある。
そんなところをポイントにしながら、選ばれる理由の解像度を高めていきたいと思います😊
本日も最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました!
