答えは与えず“育てる”
vol.1777
AIの活用が多くの会社で進んでいますが、最近、興味深いと思ったのが資生堂の事例です。
「AIツールを導入するだけでは会社は変わらない。社員一人ひとりがAIを自分の仕事で使いこなせる組織をつくる必要がある」
と考え、AI活用を全社に広げようとしているのですが、ここの教育のエッセンスがあると感じたのです。
〈BUSINESS INSIDER JAPAN / 2026年8月5日〉
AI導入における新たな壁
同社は、国内売上の停滞や競争激化、労働人口減少への危機感があり、これまで外部の戦略子会社を中心に進めてきたデジタル変革を、今年から資生堂・資生堂ジャパン本体の中で進める体制へ切り替えました。
そこで重要な役割を担っているのが、約40部門から選ばれた約130人の「AIアンバサダー」。
いきなりAIツールを配るのではなく、約1年かけて経営層との方向性の共有や実際の業務での検証を行い、さらに各部門長と個別に話し合ったうえで
「その部門でAI活用を任せられる信頼できる人」
を選出したのです。
経営層からのトップダウンと、アンバサダーを通じた現場からのボトムアップを組み合わせる「サンドイッチ型」でAI活用を広げた結果、4月以降だけで100回を超える実践活動が行われ、社内のGeminiのアクティブ率は80%超に。
3日に1回以上仕事で使う社員も40%に達するようになりました。
しかし、ここで新たな壁が登場します。
社員が生成AIを使えるようになることと、会社全体がデータを使って仕事を変えられることは別問題だったのです。
高度なデータ分析などになると
「専門部署にお願いしよう」
となり、依頼が中央の専門家に集中。
これでは社員が増えるたびに専門部署の仕事も増え、全社規模の変革には限界があります。
そこで出てきたのが
「魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教える」
という発想です。
つまり、専門部署が「分析結果=魚」を毎回答えてあげるのではなく、現場の社員自身がAIやデータを使って課題を発見し、分析し、「答えを導き出せる能力=釣り方」を身につける方向へ進もうとしているわけです。
この「答えを与えるのではなく、答えを導く能力を育てる」というのは、AIに導入に限らず、仕事全般において大切な視点でしょう。
魚の釣り方を教えるワケ
理由はシンプルで、答えそのものは「その問題」にしか使えませんが、答えを導き出す力は「次の問題」にも使えるからです。
例えば、部下が「この企画、どうすればいいですか?」と聞いてきたとき、上司が「こうしなさい」と正解を教えれば、その仕事は早く終わります。
しかし次に違う問題が起きれば、また上司に「どうすればいいですか?」と聞くことになる。
これを繰り返すと、仕事は進んでも人はなかなか育ちません。
一方、上司が
「お客さんは何を求めていると思う?」
「問題の原因はどこにある?」
「あなたならどうする?」
と問いかければ、本人が考え、仮説を立て、試し、失敗し、修正することになります。
この経験によって、単なる知識ではなく問題解決能力そのものが育ちます。
市場も顧客もテクノロジーも変化するので、昨日の正解が明日の正解とは限りません。
だからこれから必要なのは、状況を観察し、問いを立て、仮説をつくり、自分なりの答えを生み出せる力なのです。
だから人財育成では、
「魚を与えれば、その日は食べられる。魚の釣り方を教えれば、自分で食べていける」
という考え方が重要になります。
今回の資生堂の事例で学ぶことは、それをちゃんと「仕組み化」しているということです。
中央依存脱却をするための「Data as a Product」(DaaP)。
これは、データを単に蓄積するのではなく、意味や用途などを整理して、現場の社員が自分で使える武器に変えるもの。
さらに「Gemini Enterprise」を入口として営業向けのデータエージェントをつくり、営業担当者が「この商品の売上が伸びた理由は?」などと普通の言葉で質問すれば、その場でデータを調べ、仮説を検証できるようにしています。
その結果、社員は商談中にもデータを確認しながら顧客について考えられるようになりつつあるのです。
育成は精神論ではなく仕組みづくり
再び仕事全般における「答えを与えるのではなく、答えを導く能力を育てる」という話に戻しますと、大抵は精神論的な話に終始するか、もしくは上司の属人的なマネジメント能力に依存することが多い。
しかし、本当に大切なのは、社員一人一人が答えを自ら導き出せる仕組みづくりです。
例えば、Netflixでは「Context, not Control」(管理ではなく、文脈を与える)という手法を採用しています。
上司が部下に「これをやりなさい」と答えを指示するのではなく、会社の戦略、目的、顧客、置かれている状況など、良い判断をするために必要な情報、つまり「Context」を渡し、最終的な判断は社員自身に任せる。
同社では
「経営幹部が下す意思決定が少ないことを誇りにする」
とまで明記し、組織のあらゆる階層で「判断する力」を鍛えているのです。
また、サイボウズでもプライバシーやインサイダー情報などを除き、経営会議や取締役会の議事を含む幅広い経営情報を社員に共有しています。
これは単なる「情報公開」ではなく、社員自身が会社の状況を理解して、自律的に判断できるようにするため。
さらに、経営会議の議題に対して、会議に参加していない社員もkintone上で質問や助言、賛否を表明できます。
つまり「経営者が考えて社員に答えを伝える」のではなく、社員が経営情報にアクセスし、自分で考え、議論に参加できる環境をつくっているのです。
〜ということで、強い企業は社員の答えを生み出す力を育てる仕組みがある。
非常に大切なポイントですね😊
ちなみに、日本のあるボードゲームが歴史的快挙を挙げているという話があります。
そのゲームとは、スピカデザインが開発に携わる災害医療ボードゲーム『uncri!!』。
教育・医療・環境など社会課題の解決に貢献するゲームやインタラクティブ作品を表彰する国際的なアワード「Games for Change Awards」(G4C Awards)の「Best Board or Tabletop Game for Impact」部門に選出されたのですが、日本人による作品は初とのことです。
〈TABI LABO / 2026年8月5日〉
このゲームの魅力は同じテーブルを囲んで迷い、議論し、合意を形成するプロセスそのものを重視するもので
知識を「覚える」のではなく、判断の葛藤を「体験する」
ということをコンセプトにしています。
つまり、災害の場面で自力で考える力を育てることを仕組み化しているゲームなのです。
そして、このコンセプトが国際的な評価を得ている。
やはり、仕組み化が大切ですね〜
本日も最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました!
