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自分のゴールと相手のゴールが重なる場所を探す 【観察力編 第6話】


ここまで、観察力について考えてきました。

第1話では、宮崎駿監督の作品を通して、

観察力とは、物事を一枚絵で見ない力である

という話をしました。

第2話では、観察力を、

細部を見る力ではなく、相手の価値観を読み解く力

として捉え直しました。

第3話では、人は正論だけで動くのではなく、自分が大切にしているものとつながったときに前を向きやすくなることを見てきました。

第4話では、営業やセールスライティングにおいて、商品説明の前に相手の価値観を観察することの大切さを扱いました。

第5話では、反対意見の中にも相手の価値観が隠れており、提案が通らない理由を相手の性格だけの問題にしないという話をしました。

そして、観察力編の最後となる今回は、

観察した相手の価値観を、どのように提案や交渉へ生かすのか

を考えていきます。

観察は、相手のことを詳しく知って終わりではありません。

相手が何を大切にしているのかを知り、こちらの目的をどのような道筋で伝えれば届きやすいのかを考える。

そこまで進んで、観察力は実際の仕事や人間関係で使える力になります。


相手を知ること自体が、目的ではない

人を観察するというと、相手の性格や考え方を見抜くことが目的のように感じられるかもしれません。

この人は慎重な人だ。
この人は損を嫌う人だ。
この人は周囲からの評価を大切にしている。
この人は家族を最優先に考えている。

こうしたことが分かるだけでも、相手への理解は深まります。

しかし、営業や交渉においては、相手を知ること自体が最終目的ではありません。

こちらにも、達成したい目的があります。

商品を購入してほしい。
契約条件に納得してほしい。
新しい提案を受け入れてほしい。
職場の改善に協力してほしい。
こちらの要望を理解してほしい。

その目的を達成するために、相手を観察します。

相手が何を大切にしているのか。
どんな基準で判断しているのか。
何を失うことに不安を感じるのか。
どんな未来なら前向きになれるのか。

そこを知ることで、

どの入り口から話せばいいのか

が見えてきます。

宮崎駿監督は、登場人物それぞれのゴールを見ている

宮崎駿監督の作品では、登場人物全員が同じ目的を持っているわけではありません。

『もののけ姫』でも、森に生きる者たちと、タタラ場で暮らす人々では、守りたいものが違います。

森に生きる者たちは、自然や命のつながりを守りたい。

タタラ場の人々は、自分たちの暮らしや仕事、居場所を守りたい。

エボシ御前は、新しい技術や仕組みによって、弱い立場に置かれていた人たちが自分の力で生きられる場所を作ろうとしています。

どちらか一方だけを見れば、相手は自分たちの目的を邪魔する敵に見えるかもしれません。

しかし、それぞれの側から見れば、どちらにも守りたいものがあります。

宮崎駿監督は、一方の正しさだけで物語を作りません。

それぞれが何を見ているのか。
何を守ろうとしているのか。
どんな未来を望んでいるのか。

複数のゴールが同時に存在している状態を描いています。

だから、作品の中に単純な正解が置かれていません。

誰かを倒せば、すべてが解決するわけでもありません。

互いの立場や目的が交差する中で、どのように生きていくのかを探していく。

そこに、宮崎駿監督の観察力があります。

営業や交渉でも、同じことが起きています。

こちらには、こちらのゴールがある

商談や交渉をするとき、こちらには達成したい目的があります。

商品を売りたい。
契約を取りたい。
価格を上げたい。
条件を改善したい。
協力してほしい。
提案を通したい。

この目的を持つことは悪いことではありません。

営業であれば、商品を売ることが仕事です。

交渉であれば、こちらにとって有利な条件を作ることも必要です。

問題になるのは、こちらの目的だけを見てしまうことです。

こちらが売りたいから、商品の良さを説明する。

こちらが契約したいから、相手を説得する。

こちらが改善したいから、正しさを伝える。

しかし、相手にも相手のゴールがあります。

安心して決断したい。
失敗したくない。
自分の立場を守りたい。
仕事を増やしたくない。
周囲から責められたくない。
できるだけ損をしたくない。
自分の会社や家族を守りたい。

このゴールを見ずに、こちらの目的だけを押し出しても、相手には届きにくくなります。

ゴールが違えば、同じ話でも受け取り方が変わる

たとえば、新しい業務システムを提案するとします。

こちらのゴールは、業務を効率化することです。

作業時間を減らせる。
ミスを防げる。
情報を共有しやすくなる。
管理もしやすくなる。

こちらから見れば、導入しない理由はないように感じます。


しかし、相手が見ているものは違うかもしれません。

操作を覚えるのが不安。
導入に失敗したときの責任を負いたくない。
今までの仕事を否定されたくない。
自分の仕事が減って、立場が弱くなるのが怖い。
導入期間中の負担を増やしたくない。

この相手に対して、

「効率が上がります」
「便利になります」
「今より良くなります」

と繰り返しても、相手の不安には触れていません。

こちらは効率を見ている。

相手は安全を見ている。

こちらは未来の利益を見ている。

相手は目の前のリスクを見ている。

このままでは、話は平行線になります。

必要なのは、相手を説得するために言葉を強くすることではありません。

相手のゴールを知り、こちらの提案と重なる場所を探すことです。

重なる場所が見つかると、話の入り口が変わる

相手が失敗を避けたい人なら、

「このシステムは便利です」

と入るよりも、

「導入後に混乱が起きないように、小さく試せる形から始められます」

と伝えた方が届きやすいかもしれません。

相手が責任を負うことを不安に感じているなら、

「これを入れれば効率化できます」

と伝えるより、

「導入判断をした人だけに責任が集中しない運用にできます」

と伝えた方が安心につながるかもしれません。

相手が自分の経験を大切にしているなら、

「古いやり方を変えましょう」

と伝えるより、

「これまで積み上げてきた経験を、誰でも再現できる形に残しませんか」

と伝えた方が意味を感じてもらえるかもしれません。

こちらの提案は同じです。

でも、相手の価値観を通ることで、提案の入り口が変わります。

これが、相手のゴールとこちらのゴールが重なる場所を探すということです。

観察力は、話のルートを決めるために使う

商談や交渉では、目的地だけを決めても十分ではありません。

どの道を通るのかを考える必要があります。

いきなり商品の説明から入るのか。
相手が困っていることから入るのか。
過去の成功体験から入るのか。
不安を先に解消するのか。
相手の立場を認めるところから始めるのか。
数字を先に出すのか。
物語や事例から伝えるのか。

相手によって、通りやすい道は変わります。

慎重な人に、勢いだけで決断を迫れば警戒されます。

結果を重視する人に、背景説明ばかり続ければ退屈に感じられます。

人からの評価を大切にする人に、個人的なメリットだけを伝えても響かないかもしれません。

家族や社員を守ることを大切にする人なら、その人だけの利益より、周囲への影響を伝えた方が届きやすいことがあります。

だから、商談や交渉の前に相手を観察します。

そして、

この人には、どの話から入ると自然だろう。
どの不安を先に取り除く必要があるだろう。
どの価値観と提案をつなげればいいだろう。
どんな順番なら受け取りやすいだろう。

と考えます。

観察力とは、相手の性格を当てるためのものではありません。

こちらの目的へ向かうための、話のルートを設計する力でもあります。

商談や交渉の前に、観察する

対面で人を観察することに慣れている人なら、会話をしながら相手の反応を見て、その場で提案のルートを調整できます。

相手の表情が変わった。
少し前のめりになった。
急に言葉が増えた。
ある話題だけ反応が薄かった。
特定の言葉に警戒した。

そうした反応を拾いながら、話の方向を変えていくことができます。

しかし、観察に慣れていない人が、会話をしながら同じことをするのは簡単ではありません。

相手の話を聞く。
自分の話す内容を考える。
次の質問を考える。
時間も気にする。
相手の反応も見る。

これを同時に処理する必要があるからです。

だから、最初からその場ですべて考える必要はありません。

商談や交渉の前に、考える時間を作ればいいのです。

相手の会社について調べる。
相手の役職や立場を調べる。
過去の発言や行動を見る。
以前の会話を振り返る。
相手がどんな成果を求められているのかを考える。
どんな失敗を避けたい立場なのかを考える。

集めた情報から、相手の価値観や判断基準を仮説として組み立てます。

そのうえで、話のルートを考えます。

事前に観察すれば、提案の精度は上げられる

商談前の観察では、相手について分かっている情報を集めます。

相手の役職。
会社や部署の状況。
現在抱えていそうな問題。
過去の発言や行動。
以前の商談で反応した話題。
相手が評価される基準。
責任を負っている範囲。
周囲との関係。
決定権を持っている人。

そこから、価値観の仮説を作ります。

この人は、失敗を避けたいのかもしれない。
上司からの評価を気にしているのかもしれない。
価格よりも安心を重視しているのかもしれない。
新しいことよりも、実績を重視しているのかもしれない。
短期的な利益より、長く続く関係を大切にしているのかもしれない。

もちろん、事前情報だけですべて分かるわけではありません。

あくまで仮説です。

しかし、何も考えずに商談へ入るよりも、相手を見る準備ができます。

仮説を持っていれば、相手の言葉や反応にも気づきやすくなります。

「やはり安心を重視していそうだ」
「思っていたより、価格への関心が強い」
「決定権よりも、社内で説明できる材料を求めている」

こうして、商談の中で仮説を調整できます。

観察力とは、一度で相手を見抜く力ではありません。

情報を集め、仮説を持ち、反応を見ながら少しずつ精度を上げる力です。

こちらの目的を隠す必要はない

相手の価値観を観察して、話のルートを設計するというと、

「相手を誘導するための方法なのではないか」

と感じる人もいるかもしれません。

しかし、こちらの目的を隠す必要はありません。

商品を売りたい。
契約を取りたい。
条件を改善したい。
提案を受け入れてほしい。

こちらの目的は、そのままでいいのです。

大切なのは、こちらの目的だけを一方的に押し出さないことです。

こちらは売りたい。
相手は失敗したくない。

こちらは価格を上げたい。
相手は予算を守りたい。

こちらは新しい仕組みを導入したい。
相手は責任を増やしたくない。

それなら、

失敗しにくい導入方法を考える。
価格が上がる代わりに、相手が得られる価値を明確にする。
責任が一人に集中しない運用を提案する。

両方のゴールが重なる場所を探します。

観察力とは、相手の弱点を探す力ではありません。

相手が納得しやすく、こちらも目的を達成できる道を探す力です。

相手の価値観を通れば、提案は自分ごとになる

こちらが伝えたいことを、そのまま話している間は、提案はまだこちら側の話です。

「この商品は優れています」
「この方法は効率的です」
「この提案にはメリットがあります」

それを相手の価値観とつなげることで、初めて相手側の話になります。


「この方法なら、あなたが心配している失敗を減らせます」

「この仕組みなら、今までの経験を失わずに次の世代へ残せます」

「この提案なら、社員の負担を増やさずに改善できます」

「この商品なら、毎朝感じている不安を少し軽くできます」

相手は、自分に関係のある話として受け取りやすくなります。

提案が自分ごとになったとき、人は初めてその内容を真剣に考え始めます。

その入口を作るのが、観察力です。

今回インストールする力

今回インストールするのは、

相手を観察し、こちらの目的へ届く話のルートを設計する力

です。

観察は、相手を詳しく知るためだけに行うものではありません。

相手は何を大切にしているのか。
何を守ろうとしているのか。
何を失いたくないのか。
どんな失敗を避けたいのか。
どんな未来なら前向きになれるのか。

そこを観察します。

そして、

どの話題から入るか。
どの不安を先に解消するか。
どの価値観と提案をつなぐか。
どんな順番なら受け取りやすいか。
最後にどんな行動を求めるか。

を考えます。

相手を言い負かす必要はありません。

自分の目的を諦める必要もありません。

自分のゴールと相手のゴールが重なる場所を探す。

そこに、相手が自然に進みやすい道ができます。

観察力とは、細かいところに気づく力だけではありません。

人を一枚絵で決めつけず、価値観や背景まで見ようとする力。

反対する人の中にも、守りたいものがあると見る力。

相手が何を基準に判断しているのかを考える力。

そして、相手に届く提案のルートを作る力です。

これが、観察力編でインストールしてきた能力です。

観察に慣れていない人のために

ここまで読んで、

「考え方は分かったけれど、実際の商談でその場で考えるのは難しい」

と感じる人もいると思います。

会話をしながら相手を観察し、価値観の仮説を立て、話のルートまで組み替える。

これは、慣れていなければ簡単ではありません。

そこで、商談や交渉の前に一度立ち止まり、相手について考えるための、

「相手に届く提案を作る価値観分析シート」

を作りました。

このシートは、相手を見抜くためのものではありません。

商談や交渉の前に、

相手について分かっている情報を整理する。
相手が大切にしていそうな価値観を考える。
相手が避けたい失敗や不安を考える。
どんな言葉なら届きやすいかを考える。
どの順番で話せば、こちらの目的へ進みやすいかを設計する。

そのためのシートです。

シートは、

相手を知るための事前リサーチ
価値観と判断基準の分析
相手に届く提案ルートの設計

という流れで使えるようにしています。

観察に慣れていないうちは、その場ですべてを処理する必要はありません。

まずは商談や交渉の前に、考える時間を作る。

相手が見ている世界を想像しながら、どの道を通れば提案が届くのかを整理する。

それを繰り返すことで、少しずつ会話の中でも相手の価値観に気づけるようになります。

相手を動かそうとする前に、相手が何を見ているのかを観察する。

そして、こちらの目的と相手の価値観が重なる道を探す。

そのための作戦盤として、活用してみてください。

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