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透明なイカと泳ぎイカ


昔、福岡で食べた透明なイカが美味かった。
新鮮なイカは味が違うなと、見た目とともに強く記憶に残ったもので、イカを食べるとその思い出話をすることがある。


何度も話をしていることに思い至り、15年先に孫が産まれるだろうかと夢想する私は、「おじいちゃんその話さっきも聞いたよ」と言われることを恐れはじめた。


さて上野にイカセンターという、その場で水槽から釣り上げたイカを食べられる場所があると聞いた。それは近々行ってみねばならぬ、と話をしてからはや数ヶ月。近々とはいつなのか、改めて家族会議が必要な状況となってしまった。


そうしてイカを求める私の目に、一枚の看板が飛び込んできた。たまさか用のあって、実家近くの道を通っていた時のことだ。大きく四文字、「泳ぎイカ」とうたっている。


「言いたいことは分かるけど、泳ぎイカってなんだ初めて聞いた。この辺りではそんな言い方してただろうか」


泳ぎイカ、泳ぎイカ、泳ぎイカ。
気になって反芻するうちに、なかなか言い得て妙だと感ぜられてきた。


どれくらい新鮮なのか、ごく短い時間しか看板を目にしないドライバーにも分かるようになっている。なるほどこれは工夫である。海なし県なのにイカにこだわる店主さんにエールを送りたい。


残念ながらもうその店の近くに行くことがあるか分からない。ならば上野へ泳ぎイカを食べに行き、透明なイカとは別の話に仕立て上げ、孫に同じ話ばかりしないようにと企てるのである。


書いた後で調べたところ、泳ぎイカという表現はそこまでメジャーでもないが、ぼちぼち使われることのある言葉だと知ったのである。

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