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世界の面白い言語集 59 言語学者が本気で作った「人間離れした」クリンゴン語(Klingon)


SF映画から飛び出した「実際に話せる」宇宙人の言葉

映画やドラマ、アニメなどに登場する「架空の言語」。エルフ語やナヴィ語など、作品の世界観を彩るために様々な言語が作られてきました。しかし、その中でも群を抜いて異彩を放ち、現実世界に最も大きな影響を与えている言語があるのをご存知でしょうか?

それが、大人気SFシリーズ『スタートレック』に登場する戦闘種族、クリンゴン人が話す「クリンゴン語(Klingon)」です。

単なる「宇宙人の言葉っぽい音声」ではありません。この言語には、緻密に計算された文法があり、何千語もの単語が収録された辞書が存在し、さらには地球上に「流暢に会話ができる人々」が実在するのです。今回は、言語学者が本気で作り上げた、この面白すぎる宇宙言語の世界へとご案内します。


クリンゴン語はどのようにして生まれたのか?

言語学者マーク・オークランドによる本気の発明

クリンゴン語が初めて画面に登場したのは1979年の映画『スタートレック』ですが、当初は役者が適当な音を発しているだけでした。しかし、1984年の映画『スタートレックIII ミスター・スポックを探せ!』の制作にあたり、監督はよりリアリティのある異星人を描くため、プロの言語学者であるマーク・オークランド博士に「本物の言語」の作成を依頼します。

オークランド博士は、わずかに存在していた既存の単語の音韻を分析し、そこから全く新しい、しかし言語学的に完全に成立する文法規則と語彙を構築し、見事な人工言語を完成させたのです。

コンセプトは「いかに人間離れしているか」

オークランド博士がクリンゴン語を作る際に最も重視したのは、「いかに地球の言語からかけ離れているか(エイリアンらしさ)」でした。

地球上の多くの言語に共通する普遍的なルールをあえて無視し、人間の言語としては「あり得ない」または「極めて稀な」音声や文法を意図的に組み合わせています。つまり、言語学のプロがその知識を総動員して「地球人にとって最高に不自然で難しい言語」を作り上げたのです。

戦闘種族ならでは!クリンゴン語の面白すぎる特徴

「こんにちは」が存在しない!?戦士の文化が反映された単語

クリンゴン人は、名誉と戦いを何よりも重んじる誇り高き戦闘種族です。そのため、彼らの言語にはその荒々しい文化が色濃く反映されています。

驚くべきことに、クリンゴン語には「こんにちは」や「ごきげんよう」といった、友好的な挨拶にあたる単語が存在しません。また、「平和」や「降伏」といった、彼らにとって不名誉な概念を表す言葉も極端に少ない、あるいは後からしぶしぶ追加されたという設定になっています。言葉一つ一つから、彼らの生き様が透けて見えるのが魅力です。

地球の言語には珍しい「目的語・動詞・主語(OVS)」の語順

日本語は「私(主語)が リンゴ(目的語)を 食べる(動詞)」というSOV型、英語は「I(主語) eat(動詞) an apple(目的語)」というSVO型です。

一方、クリンゴン語は「リンゴ(目的語)を 食べる(動詞) 私(主語)が」という「OVS型」を採用しています。地球上に数千ある言語のうち、この語順を基本とする言語はアマゾン流域の一部などで話されるわずか1%未満と言われており、クリンゴン語の「異星人らしさ」を際立たせる大きな要素となっています。

喉の奥を鳴らす、荒々しく独特な発音

クリンゴン語の発音は、地球上の様々な言語の「発音しにくい音」を意図的に集めて作られています。喉の奥を強く摩擦させる音や、息を強く吐き出す破裂音が多く、話すと自然に唾が飛ぶような荒々しい響きになります。怒っているように聞こえるその独特の音声は、まさに好戦的な異星人にぴったりです。

▼以下実際に聞いてみてください。


今日から使える(?)クリンゴン語フレーズ集

では、実際にクリンゴン語はどのような言葉なのでしょうか。いくつか有名なフレーズを紹介します。

出会いと別れの定番:「nuqneH(ヌクネッハ)」と「Qapla'(カプラ)」

  • nuqneH(ヌクネッハ)

    • 「こんにちは」がないクリンゴン人が、誰かに話しかけられた時に使う言葉です。直訳すると「何が欲しい?」「何が用だ?」。初対面でも容赦のない、非常にストレートな表現です。

  • Qapla'(カプラ)

    • スタートレックファン以外にも知られる、クリンゴン語で最も有名な単語です。直訳は「成功を(祈る)!」。別れ際や、乾杯の挨拶、戦いに赴く相手への励ましなど、日常のあらゆる場面で使われる非常に前向きな言葉です。

Qapla'

名誉を重んじる戦士の表現・悪口

  • Heghlu'meH QaQ jajvam(ヘグルメフ・カク・ジャジュヴァム)

    • 直訳は「今日は死ぬのに良い日だ」。戦士としての覚悟を示す、非常にクリンゴン人らしい名台詞です。

  • Hab SoSlI' Quch!(ハブ・ソスリ・クチ)

    • 直訳は「お前の母ちゃんは滑らかな額をしているな!」。クリンゴン人は額のゴツゴツした隆起(シワ)を誇りとしているため、「額がツルツルだ」というのは、彼らにとって相手の血統をも侮辱する最大の悪口になります。


地球上で増殖中?現実世界でのクリンゴン語ブーム

シェイクスピアもオペラもクリンゴン語に翻訳!?

映画の世界を飛び出したクリンゴン語は、一部の熱狂的なファンによって「本物の言語」として愛されるようになりました。

なんと、イギリスの文豪シェイクスピアの『ハムレット』がクリンゴン語に翻訳されて出版されており(劇中で「シェイクスピアはクリンゴン語の原語で読んでこそ真価がわかる」というジョークが出たことに由来します)、有名な「生きるべきか死ぬべきか」というセリフは「taH pagh taHbe'(タハ・パグ・タハベ)」と訳されています。さらに、全編クリンゴン語で歌われる本格的なオペラ作品まで上演され、大反響を呼びました。

引用

語学アプリや検定試験まで存在する

現在では「クリンゴン語学研究所(KLI)」という非営利団体が存在し、辞書の改訂や語学検定試験の実施を行っています。さらに、世界最大級の語学学習アプリ「Duolingo」でも、英語やスペイン語と並んでクリンゴン語のコースが公式に提供されており、誰でもスマートフォンで宇宙語の勉強を始めることができます。


架空の言葉が現実の人々を繋ぐロマン

「いかに異星人らしくするか」という言語学者の遊び心から生まれたクリンゴン語。それが数十年の時を経て、国境を越えた地球の言語オタクやSFファン同士を繋ぐコミュニケーションツールになっているというのは、なんともロマンチックな話ではないでしょうか。

もし次に『スタートレック』を観る機会があれば、字幕を追うだけでなく、彼らの荒々しくも美しい「言葉」そのものに耳を傾けてみてください。もしかしたら、あなたもクリンゴン語の魅力に取り憑かれてしまうかもしれません。Qapla'(成功を祈る)!


いかがだったでしょうか?

このブログでは他にも世界の面白い言語を紹介しているので、ぜひご覧ください。


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