【連載:10年続くクラブ経営の極意】第2回:銀行はクラブではなく「資産」にお金を貸す!経営者が知るべき「資本」と「資産」の超基本と財務戦略
こんにちは。宮城'亮'です 。 前回は、スポーツクラブが「やりたいこと先行」で立ち上がることの危険性と、コロナ禍が暴いた「単なる習い事」と「地域インフラ」の差、そして「継続」と「成長」の定義についてお話ししました。
今回は、多くのクラブ経営者が最も苦手とする、しかし最も重要なテーマである「財務戦略(資本と資産のマネジメント)」に切り込みます。
私がコンサルティングの現場で必ずお伝えする強烈な言葉があります。 それは、「銀行はあなたの『クラブ』にお金を貸すのではない。あなたのクラブにある『資産』にお金を貸すのだ」ということです。
なぜ、いつまで経っても資金繰りに追われるクラブがある一方で、潤沢な資金をもとに次のスタジアム建設や多角的な事業展開へと進めるクラブがあるのか。その決定的な違いは、「資本」と「資産」の概念の違いを理解しているかどうかにあります。
1. そもそも「資本」と「資産」は何が違うのか?
言葉としては似ていますが、経営学・会計学においてこの2つは全く異なる役割を持っています。
「資本」とは: 利益を上げるために行う「事業の元手になるお金」(会社運営の元になるお金)を指します。いわば、これから戦うための「元手」です。
「資産」とは: 個人や会社が持つ「換金可能な財産全体」、あるいは将来にわたってキャッシュを生み出し続ける「価値の源泉」を指します。
クラブ経営を始める際、あるいは新しい事業を準備する際、まずは手元にある「資本」をどう調達し、どう使うかを考えます。
あなたのクラブが持っている「資本」とは何でしょうか?代表的なものは、「貯金」「借金」「助成金」「時間」の4つです。
ここで、極めて重要な真実があります。 この4つの資本のうち、「時間だけは、どれほど大金を積んでも、後から増やすことができない唯一の資本である」ということです。
割くべき限られた「時間」という資本を何に使い、どのようなポートフォリオで他の資本と組み合わせるかが、経営者の最大の意思決定になります。
2. 4つの資本の「制限」を理解し、用途を最適化する
それぞれの資本には、使い勝手において明確な「制限の有無」があります 。
貯金(自己資金):
制限:なし。
何にでも使えます。最も貴重で自由度の高い資本です。
借金(融資・他者資本):
制限:原則なし(ただし返済義務あり)。
金利はかかりますが、事業の成長スピードを加速させるための「レバレッジ」として活用できます。
助成金・補助金:
制限:あり(非常に厳しい。
主に事業費のみに限定され、消耗品や特定のイベント経費にしか使えません。また、後払い(精算払い)が基本であるため、手元にキャッシュがないとそもそも使えません。
時間:
制限:なしただし、1日24時間という絶対的な上限あり)。
自分自身やスタッフが汗を流す時間です。初期のクラブ経営は、この「時間資本」を切り売りすることで成り立ちがちです。
多くの経営者が犯す最大の過ちは、「最も制限の多い『助成金』に依存したクラブ作りをしてしまうこと」です。 助成金は、あくまで「一過性の事業」に対する支援であり、クラブの永続的な運営費や人件費(固定費)を賄うためのものではありません。助成金が打ち切られた瞬間に、その事業だけでなくクラブ全体の息の根が止まってしまう例を、私は何百と見てきました。
経営者が行うべき最も重要な財務アクションは、「用途制限のない資本(貯金、借金、時間)を、いかに早く『資産』に変えるか」です。
3. 「決算書に載る資産」と「決算書に載らない資産」
「資産」には2つの種類があります。
① 決算書に載る資産(有形・金融資産)
これは、貸借対照表(B/S)の左側に計上される、目に見える資産です。
具体例:不動産、自社グラウンド、クラブハウス、車両、有価証券など。
特徴:用途制限のない資本(貯金や借金)をベースに構築します。銀行が融資の際に担保として評価しやすく、まさに「銀行がお金を貸してくれる資産」の代表格です。
② 決算書に載らない資産(無形資産・関係性資産)
これが、地域スポーツクラブにとっての「真の競合優位性」であり、10年続くクラブの土台となります。
具体例:
顧客リスト(コンバージョン客の蓄積)
地域からの信用・ブランド価値
行政との強固な信頼関係・行政支援
再現性のある指導マニュアル・組織体制
特徴:実は、用途制限のある「助成金」や、日々の「時間資本」の投資によっても構築することが可能です。
例えば、助成金を使って「子ども向け無料サッカー教室」を開催したとします 。これは単発のイベントで、決算書上は「助成金収入と同額の事業費支出」で利益はゼロ、決算書に載る資産も残りません 。
しかし、そのイベントを通じて「100名の子どもの名前、保護者の連絡先、運動に対する悩み」をアンケートで獲得した(=顧客リストの増加)としたらどうでしょうか? さらに、イベントの運営が素晴らしく、保護者から「このクラブは信頼できる」と思われ、地元の小学校の校長や教育委員会から「素晴らしい活動だ」と評価された(=信用・行政支援の獲得)としたら?
これらは決算書には1円も計上されませんが、次の日から有料のレギュラー会員へ移行してもらうための、また次の行政委託事業を獲得するための「莫大な価値を生む資産」になります。
時間資本と制限あり資本を、ただ「消費」するのではなく、いかにして「決算書に載らない資産」へ「変換」していくか。これが経営者のファイナンスセンスの差となります。
4. 2021年コロナ禍 vs 2026年現在の財務環境:甘えの許されない「完全な自立」の時代
2021年の視点:政府の「カンフル剤」に救われた時期
2021年当時は、コロナ禍の特別融資(実質無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」)や、持続化給付金、各種雇用調整助成金、スポーツ庁による事業継続支援事業など、国や自治体から莫大な「緊急資本」が注入されました。経営努力を怠り、収益ポイントを作れなかったクラブであっても、これらの給付金という「カンフル剤」によって延命することができた時代でした。
2026年現在の視点:自主財源による「年1000万円」稼ぐ力
しかし、現在(2026年)それらの特例的な給付金・補助金は完全に収束しました。ゼロゼロ融資の返済本格化も進み、実力のないクラブは資金ショートを順次起こしています。
今求められているのは、「まずは自主財源で1000万円を稼ぎ出す」というビジネスモデルへの回帰、および自立化です。 「助成金・補助金」と「行政委託事業」は似て非なるものです。助成金は「お恵み」ですが、委託事業は「地域課題に対する対価(売上)」です。
手元資金(キャッシュフロー)を維持するために、私たちは資本を「総資本回転率」を意識して、高速で回していかなければなりません。
総資本回転率を意識するとは?
総資本回転率とは、「投資した資本(元手)に対して、どれだけ効率よく売上を上げ、現金を回収できたか」という指標です。 例えば、100万円をかけて指導者を雇い、場所を確保した(資本投資)。その投資が、1ヶ月でどれだけの月謝売上(キャッシュ)になって戻ってくるか。
回転率が遅い事業(例:年に1回の大きなイベント。準備に半年、回収は1日)ばかりに偏ると、クラブのキャッシュは途中で枯渇します。 回転率が早い事業(例:毎月確実に入金される月謝制のスクール)を基盤(ベース)とし、そこに他者資本(自治体の税金や、企業の事業費)をうまく組み合わせることで、総資本の回転スピードを最大化させることが、資金ショートを防ぐ極意です。
5. 次回へのステップ:他者の財布を開く「地域管理」
自己資金だけで資産を構築しようとすると、個人の貯金はいずれ限界を迎えます。借金を重ねるのもリスクがあります。
そこで重要になるのが、「他者の資本を活用して、自クラブの資産を構築する」というアプローチです。
ターゲットとなる地域住民の「生活費」、地元企業の「事業費(広告宣伝費・CSR費)」、および地方自治体の「税金」。彼らはそれぞれ、どのようなタイミングでお金を支払い、何に困っていて、どのような付加価値を求めているのか。
次回(第3回)は、地方自治体や企業を味方につける『地域管理』と『他者資本』の活かし方」について解説します。 他者から「あなたにお金を託したい」と言われるクラブになるための、地域戦略をお伝えします。
📝 今日の「クラブ経営アクションシート」実践タスク
あなたのクラブの「資本」と「資産」のバランスを評価してみましょう。
タスク①:【キャッシュフローの把握】
過去・現在・未来にわたって、「いつ、どこからお金が入って、いつ出ていくか」を1円単位で予測する「資金繰り表(キャッシュフロー表)」を毎月更新していますか?
タスク②:【自主財源比率の確認】
あなたのクラブの年間予算のうち、いつでも打ち切られる可能性のある「助成金・補助金」の割合は全体の何%ですか?(これが30%を超えている場合、財務は極めて危険なイエローカード状態です)
タスク③:【見えない資産の棚卸し】
現在、クラブがいつでもメールやLINEで直接アプローチできる「見込み客・OBOGを含む顧客リスト」は何件ありますか?そのリストは、安全に管理・活用できる状態ですか ?
宮城'亮’(Tasuku Miyagi)
Plus Nine株式会社 代表取締役 「スポーツで地域課題を解決する」をテーマに、全国の自治体向けにまちづくり支援を行う。文部科学大臣表彰、スポーツ庁長官表彰など受賞多数。Jリーグ・Vリーグ参入支援など、現場に根差した伴走型支援を得意とする。 Plus Nine株式会社 公式サイト
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