人事評価制度を社員とつくるには?構築メンバーの選び方とキックオフの進め方
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先代の時代から続く評価や処遇の考え方を見直し、自分たちが目指す会社に合った人事評価制度をつくりたい。そう考えている3代目経営者や後継者経営者もいるのではないでしょうか。
人事評価制度を見直すことは、単に評価項目や評価票を変更することではありません。これから会社が目指す姿を明確にし、その実現に向けて、社員にどのような役割や行動、成長を求めるのかを考える取り組みです。
前回は、人事評価制度の目的や全体像、導入を検討するタイミングについて整理しました。今回からは、人事評価制度をつくる具体的なステップに入っていきます。
人事評価制度の構築というと、最初に評価項目や評価票をつくろうとするかもしれません。しかし、その前に行いたいのが、人事評価制度の構築チームをつくることです。
今回は、人事評価制度をつくる前提と、構築チームの作り方、キックオフの進め方について整理します。
人事評価制度の前提
人事評価制度をつくる際に、まず理解しておきたいことがあります。
それは、人事評価制度は、一度つくったら変更できないものではないということです。
会社の戦略が変われば、社員に求める役割や行動も変わります。事業が成長し、組織が大きくなれば、必要な役職や人材像も変わっていきます。
人事評価制度も、会社の戦略や組織の変化に合わせて、継続的に見直し、更新していく必要があります。
最初から完璧な制度をつくろうとすると、細部まで決めきれず、構築が進まなくなることがあります。しかし、実際に運用してみなければ分からないことも少なくありません。
まずは現在の会社に必要な制度をつくり、運用しながら改善していくと考えることが大切です。
そしてもう一つ、理解しておきたい前提があります。
それは、社員全員が完全に納得する人事評価制度をつくることはできないということです。
社員によって、担当している仕事や立場、評価してほしい点は異なります。新しいことに取り組むのが好きな社員も、苦手な社員もいるでしょう。
誰かにとって納得できる評価基準が、別の社員にとっても同じように納得できるとは限りません。
全員が納得する完璧な制度が存在しないからこそ、社員を制度づくりに巻き込むことが効果的です。
なぜ人事評価制度を社員とつくるのが良いのか
社員を制度づくりに巻き込む意味を考えるうえで、2人の少年が1つのケーキを分ける場面を想像してみてください。
A君とB君の2人で、1つのケーキを分けることになりました。少しでも大きい方を食べたいと思えば、ケーキの大きさをめぐって不満が生まれやすくなります。
ここで大人がケーキを切り分け、A君とB君に一つずつ渡したらどうでしょうか?
大人が同じ大きさに分けたつもりでも、どちらかが「自分の方が小さい」と感じるかもしれません。大人が切り分けた後、どちらか一人に先に選ばせた場合も、もう一人には不満が残る可能性があります。
このような場合に納得度を高めやすい方法が、A君とB君の役割を分けることです。
一人がケーキを切り分け、もう一人が先に好きな方を選びます。
切り分ける側は、相手が先に選ぶため、できるだけ公平に分けようとします。選ぶ側は、自分で選んだケーキを受け取ることができます。
どちらもケーキの分け方に関与しているため、大人から一方的に渡されるよりも、結果に対する納得度が高まりやすくなります。
人事評価制度も、これと同じです。
経営者や人事部、外部コンサルタントだけで評価制度をつくり、完成した制度を社員に提示すると、社員は「会社から一方的に決められた」と受け取るでしょう。
一方、社員が評価制度をつくる過程に関われば、会社が何を重視しているのか、なぜこの評価基準が必要なのかを考えることになります。
すべての社員が評価結果に満足することはありません。それでも、自分たちが制度づくりに関わることで、制度に対する理解と納得度を高めることができます。
そのために必要なのが、人事評価制度の構築チームです。
人事評価制度構築チームの作り方
構築チームと聞くと、人事部の担当者や外部コンサルタントを中心としたチームをイメージするかもしれません。
もちろん、人事に関する知識や制度設計の経験を持つメンバーはいた方がよいです。
しかし、人事部や外部コンサルタントだけで制度をつくってしまうと、社員が制度づくりに関わる意味が薄れてしまいます。また、現場の仕事や実態を十分に反映できず、実際の業務と評価基準が合わない制度になる可能性もあります。
構築チームには、各部門の管理職を加えましょう。
管理職は、部門の仕事だけでなく、社員にどのような役割や能力が必要なのかを把握しています。部門ごとに異なる業務の特徴を評価制度へ反映させるうえでも、重要なメンバーです。
ただし、役職だけを基準に構築メンバーを選ぶ必要はありません。
人事評価制度の構築に対するコミットメントがあり、会社をより良くしたいと考えている各部門のコアメンバーも候補になります。
この条件を満たしていれば、一般社員を構築チームに加えても構いません。管理職とは異なる立場から、現場の実態や社員の受け止め方について意見を出してもらえます。
会社として将来を期待している社員を選ぶことも考えられます。
現在は役職についていなくても、今後会社の中核を担ってほしい社員にとって、人事評価制度の構築は、会社の方向性や組織全体について考える機会になります。
また、ポテンシャルは高いものの、現在はモチベーションが落ちている社員を選ぶ方法もあります。
会社の制度や将来について考える役割を任せることで、自分が会社から期待されていることを感じ、仕事や組織に対する当事者意識を取り戻すきっかけになる可能性があります。
人事評価制度をつくるための知識だけではなく、会社を改善したいという意思や、制度づくりに継続して関わる姿勢を基準にメンバーを選びましょう。
構築チームのキックオフで何を話し合うのか
構築メンバーが決まったら、キックオフを行います。
キックオフでは、いきなり等級や評価項目を考え始めるのではなく、最初に人事評価制度をつくる理由を共有します。
会社が目指す姿を共有する
何を行う場合でも、「何をするのか」の前に、「なぜそれをするのか」を伝えることが重要です。
会社が新しい取り組みを始める理由の大きな根拠となるのが、経営理念やMVVです。
MVVとは、一般的に次の3つを指します。
Mission:会社の使命や存在意義
Vision:将来実現したい会社の姿
Values:社員が大切にする価値観や行動基準
会社によっては、企業理念、パーパス、社是、経営方針、行動指針など、異なる言葉を使っていることもあります。
名称が何であっても重要なのは、「この会社は何のために存在し、どのような会社を目指しているのか」を構築メンバーに伝えることです。
特に後継者経営者の場合、先代が築いてきた理念や価値観を受け継ぎながら、自分たちの代で目指す会社の姿を明確にする必要があります。人事評価制度の構築は、その方向性を社員と共有する機会にもなります。
そのうえで、会社が目指す姿と人事評価制度をつなげます。
「会社が目指す姿を実現するためには、社員にこのような役割や行動、成長を求める必要がある。そのために人事評価制度が必要だと考え、このメンバーに集まってもらった」
このような順番で説明することで、人事評価制度をつくる目的と、構築チームに選ばれた意味が伝わります。
単に「評価制度をつくることになったので集まってほしい」と伝えるだけでは、メンバーは自分たちが何を目指して議論すればよいのか分かりません。
まずは、会社が目指す場所を共有することから始めましょう。
現在の人事や組織の状況を整理する
会社が目指す姿を共有したら、次は現在の状況を整理します。
構築メンバーで、次の内容について話し合います。
現在の人事や組織の長所
現在の人事や組織の短所
長所が生まれている本当の原因
短所が生まれている本当の原因
ここで重要なのは、長所と短所を挙げるだけで終わらせず、その原因まで考えることです。
たとえば、「若手社員がなかなか育たない」という問題があったとします。
その原因は、社員本人の意欲だけではないかもしれません。会社が求める成長段階が明確になっていない、上司によって指導内容が異なる、仕事ができるようになっても評価に反映されないなど、組織や制度の側に原因がある可能性もあります。
一方、「社員同士が自然に助け合っている」という長所がある場合も、その背景を考えます。
特定の社員が周囲へ積極的に声をかけているのか、部門を越えて相談しやすい文化があるのか、情報共有の仕組みが整っているのかによって、その長所を今後も維持する方法は変わります。
後継者経営者が会社を引き継いだ場合、現在の制度や組織風土がどのような経緯で生まれたのか、すべてを把握できているとは限りません。構築メンバーとの話し合いを通じて、これまで会社が大切にしてきたことや、現場が抱えている問題を整理することも重要です。
表面的な現象だけで判断せず、なぜその状態が生まれているのかまで掘り下げましょう。
人事評価制度の全体像を共有する
会社が目指す姿と現在の状況を整理できたら、人事評価制度の全体像を共有します。
今回の構築チームで、これから何をつくっていくのかを確認しましょう。
人事評価制度の構築では、主に次のものを順番に作成します。
等級
役職ごとの評価項目
評価基準
点数の定義
評価票
これらを作成した後、実際に評価を試し、運用上の問題がないかを確認します。
必要に応じて内容を見直したうえで、本格的な運用へ進みますが、キックオフの段階で、細かな評価項目まで決める必要はありません。
まずは、これから何を、どのような順番でつくるのかを構築メンバー全員が理解することが大切です。
経営自走化との関係
3代目経営者をはじめとする後継者経営者にとって、人事評価制度の構築は、先代から受け継いだ会社を、自分一人の力で動かすための取り組みではありません。
経営自走化を成立させるために必要な要素は、一つではありません。
会社の方針や目標を明確にすること、役割と権限を整理すること、業務を仕組み化すること、会議や数値管理の仕組みを整えることなど、さまざまな取り組みが必要です。
そのなかでも重要なのが、会社の中核を担う社員の当事者意識を高めることです。
経営者がすべてを考え、決めたことを社員が実行するだけでは、経営者がいなければ会社が動かない状態から抜け出せません。
人事評価制度の構築チームに各部門のコアメンバーが参加すると、社員は会社が目指す姿や組織の課題、今後必要となる人材像について考えることになります。
これは、単に評価制度をつくる作業ではありません。
会社の将来を自分たちの問題として捉え、どのような組織をつくるべきかを考える機会でもあります。
後継者経営者だけが新しい会社の姿を考えるのではなく、今後の経営を支える社員と一緒に考える。その経験を積み重ねることで、社員は経営者から指示されたことを実行するだけの存在から、会社の将来を担う存在へと成長していきます。
人事評価制度の構築チームをつくることは、コアとなる社員の当事者意識を高め、将来の経営自走化を支える人材を育てるうえでも有効です。
まとめ
今回は、人事評価制度の構築チームをつくる理由と、メンバーの選び方、キックオフで話し合う内容について整理しました。
人事評価制度は、一度つくったら変更できないものではありません。会社の戦略や組織の変化に合わせて、継続的に更新していくものです。
また、全員が完全に納得する制度をつくることは難しいからこそ、社員を制度づくりに巻き込むことが重要です。
構築チームには、各部門の管理職だけでなく、会社を改善したいという意思と制度づくりへのコミットメントがあるコアメンバーを選びます。条件を満たしていれば、一般社員を加えることもできます。
キックオフでは、会社が目指す姿と人事評価制度をつくる理由を共有したうえで、現在の人事や組織の長所・短所と、その原因を整理し、最後に、これから構築する人事評価制度の全体像を共有しましょう。
3代目経営者や後継者経営者にとって、人事評価制度の構築は、自分たちの代で目指す会社の姿を社員と共有し、今後の会社を一緒につくるコアメンバーを育てる機会でもあります。
人事評価制度の構築チームを編成し、会社が目指す姿と現在の課題を共有できたら、いよいよ制度の中身を考えていきます。
まずは、このチームで「自社にはどのような等級が必要なのか」を考えていきましょう。
次回は、人事評価制度をつくる最初のステップとなる「等級制度」について整理します。
