「僕と一緒にいると、楽しいですよ。」
「僕と一緒にいると、楽しいですよ。」
その言葉だけで、わくわくしてしまった。
恋のわくわくというより、息が戻る前触れみたいな、胸の奥がふっとほどける感じ。
私はしばらく、同じ悩みの中にいた。
考えすぎて、眠れなくて。ちゃんとしているはずの自分が、ちゃんと立てなくなっていた。
それでも人前に出る仕事だから、声だけは崩さないように、笑顔だけは置いていく。
「生きている形」を守るのに必死だった。
彼は、その時期の私を知っている。
相談を、静かに受け止めてくれた人だった。
だからこそ、あの一言はただの口説きじゃない。
過去をえぐらず、理由を問い詰めず、ただ私を「今」に戻すための言葉だった。
昨夜は、私は飲んだ。彼は飲まなかった。
「明日、仕事があるから」
お酒が嫌いなわけじゃない。ただ、今日は飲まない。
その選択の静けさが、逆にやさしかった。
カウンターの灯りは、必要以上に明るくなくて、
料理はちゃんとおいしくて、
会話は、深追いしないのに、置き去りにもならなかった。
私の話を聞きながら、彼は時々うなずいて、
「それは大変でしたね」とも「頑張って」とも言わなかった。
ただ、そこにいてくれた。
そして、ふと。
「僕と一緒にいると、楽しいですよ。」
私は、笑って、泣いた。
笑うのが先で、涙があとから追いついてきた。
悔しい涙でも、哀しい涙でもなくて、たぶん「戻れた」っていう涙。
心が、久しぶりに前へ傾いた瞬間。
わくわくする、って、派手な出来事だけじゃない。
劇的な決意表明でも、誰かに救われたと声高に言うことでもない。
ただ、「今日は息ができる」と思えた瞬間。
その小さな確信が、次の日の私を連れてくる。
あの言葉を、私は胸のポケットに入れている。
必要になったら、取り出せるように。
そしていつか、同じように苦しい人に、軽く渡せるように。
わくわくする、っていうのは、
明日が少しだけ、待てるようになること。
そしてその「少しだけ」が、
きっと私を、生きている方へ連れていく。
