【写真家に取材】お産に寄り添うフォトグラファーが語る、命の誕生と写真展『ようこそ。』への想い
「“普通”の出産って、いったい誰が決めたのだろう」
経膣分娩、帝王切開、無痛分娩、自宅出産。
出産のかたちはさまざまであり、すべてにおいて誕生する命と向き合う時間です。しかし現実には、“陣痛を経験したか”という優劣の物差しがあるのも事実です。
お産に寄り添うフォトグラファー・toncoさんは、そうした物差しを手放し 「どう産むかは、どう生きたいか」という問いを、写真を通して伝えています。
全国14拠点を巡回する写真展『ようこそ。』で展示される写真は、 自宅で迎えた出産、帝王切開の手術室、助産院での経膣分娩など、様々なお産のかたちです。
インタビューでは「産み方は自分で選ぶ、そのための選択肢を知ること」の大切さ、toncoさんの経験や考え方を語ってくださいました。読み終えたとき、きっとあなたのなかにも 「わたしはどう産みたいか」「どう我が子と向き合ってきたか」という問いが、芽吹いているはずです。

tonco | お産に寄り添うフォトグラファー
これまで多くの家族のお産の瞬間を撮影。帝王切開、自宅出産、経膣分娩など、多様なお産の形を写真で伝えている。お産の写真を展示する写真展 『ようこそ。 』はこれまでに全国計14拠点で開催。写真展やイベントの企画を通じて、産後の母親や地域の人々が安心して集える居場所をつくり続けている。
出産に正解はない 「どう産むか」は私が決める
ーこれまでに多くのお産を撮影されてきたtoncoさん。出産の形は本来さまざまなのに、なぜ多くの人が“普通”に縛られてしまうのでしょうか?
tonco:私自身、今でも感じている疑問です。前提として「どう出産したいか」を考える機会が本当に少ないと思います。妊娠すると、どこの病院で出産するかは選びますが「どんなふうに産みたいか」を選ぶ人は少ないように感じます。産み方に選択肢があることすら、知らない人も多いですよね。そのうえ経膣分娩が当たり前かのように語られている。そうした空気の中にいると、無意識のうちに「こう産まなきゃいけないんだ」と思い込んでしまいます。実は、いろんな方法や考え方があっていいはずなのに、ひとつの正解に向かいがちなんです。
ー「みんなそうしているから」「それが普通だから」と、知らず知らずのうちに選択肢が狭まってしまうんですね。
tonco:そうなんです。でも実際は病院での分娩にも様々なスタイルがあるし、助産院や自宅出産という選択肢もある。帝王切開や無痛分娩も含めて、自分で選べます。「この産み方を選んでよかった」と自分が安心できるかどうかが、いちばん大事だと思います。
ー「自分で選んだ」からこその安心ですね。
tonco:そうです。あとは「納得して選んだか」も大切です。出産は、命と向き合う尊い時間ですが、一方で必ずしも予定通りにいくものではありません。思い通りにならないことも、たくさんあります。だからこそ「自分で考えて、自分で選んだ」というプロセスが、あとから自分自身を支えてくれると思うんです。
ー「どんなお産を選ぶか」は、「どう生きたいか」にもつながっていきますね。
tonco:お産はゴールじゃなくて、人生の一部であり人生そのものです。心地よい出産スタイルを“自分で”選ぶことが何より大切だと思います。

「この瞬間を残したい」 お産に寄り添うフォトグラファーになるきっかけ
ー「お産の写真を撮り続けたい」と思ったのは、出産後の活動がきっかけだそうですね。
tonco:出産でお世話になった助産院は、産後も定期的に参加できるイベントがあり、私は参加者として関わっていました。通院中に助産師さんから聞いた「助産院が全国的に減ってきている」という実情を聞き、力になりたいと思ったからです。
イベントを開催している中で、あるフォトグラファーの方と出会いました。その方の写真が本当に素敵で「写真って、こんなに人の感情を動かすんだ」と感動したのです。それまで趣味でカメラを持ってはいましたが、その出会いをきっかけに「本格的に学ぼう」と一から勉強し始めました。
ー写真家として活動し始めた頃のことを教えてください。
tonco: 写真家として活動し始めた当初は、お産の写真を撮るなんて想像していませんでした。プロフィール写真を撮ったり、自分で主催したお話し会やイベントを撮影したりして、少しずつ経験を積んでいた頃だったからです。
そんな私の姿を見た助産師さんが「お産の写真を撮ってくれない?」と声をかけてくださいました。「前例が少ないなか、私に撮れるのかな?」とすごく戸惑いましたが、なぜ撮りたいのかを尋ねてみると、性教育の活動に力を入れていて、ご自身のお産の写真を教材として活用し、多くの人に伝えたいという強い思いをお持ちでした。その活動や熱意に心を動かされて「私にできることがあるなら」と挑戦することにしました。
ー初めてのお産の撮影はいかがでしたか?
tonco:震えるような時間でした。赤ちゃんが生まれる瞬間に、立ち会わせてもらうなんて。撮影した写真を見返していたとき「命と向き合う時間を写真に残すことは、大きな意味がある」と感じました。

ーその後、お産の写真をInstagramに投稿すると大きな反響があったそうですね。
tonco:この写真を多くの人にみてほしいと思い、ご本人のご協力を得てInstagramに投稿しました。すると、たちまち大きな反響があり「私も撮ってほしい」と連絡をくださる方や「出産を写真に残せるなんて知らなかった」と感動してくださる方が多くいました。出産は、多くの方が経験しているにも関わらず、実はすごく“見えにくい”世界だと気づかされました。
ー「写真」で、出産の多様性や個性を伝えようと思ったのですね。
tonco:はい。産み方や誰と一緒にその瞬間を迎えたいかは個性であり、多様に選べるはずです。選択肢があることを知り、自分の体や心と対話しながら選ぶことが「自由」につながります。写真を通して、1人でも多くの方が自分のお産について深く向き合い、考えてほしいと思い「お産に寄り添うフォトグラファー」として活動し始めました。
語られる写真展「ようこそ。」
―toncoさんの活動を語る上で欠かせないのが、写真展『ようこそ。』です。写真展を始めたきっかけを教えてください。
tonco: 最初は自分が写真展を開催するなんて想像していませんでした。お産の写真を広めていきたいと思ってはいましたが「ハードルが高すぎる」と感じて、躊躇していたからです。しかし、周りの方たちが「とにかくやってみようよ」と強く背中を押してくれて、開催することができました。そのときに、写真展のタイトルを『ようこそ。』に決めました。

―「ようこそ。」というタイトルには、どんな意味が込められていたのでしょうか?
tonco: ひとつは「この世界へようこそ。」です。命が生まれた瞬間を見届けた私から、赤ちゃんに向けての歓迎の気持ち。
そして、もうひとつは「あなたの物語へようこそ。」です。写真を見て自分の記憶と再会したり、あるいはまだお産を経験していない方が、未来の自分に思いを巡らせる。そんな入り口になるような写真展にしたいと思いました。
―写真展の反響は、いかがでしたか?
tonco: 初回の写真展では一週間在廊しました。印象的だったのは、写真を前にして、ご自身の経験をポロポロと涙を流しながら語る方が多くいらっしゃったことです。「実は、誰にも言えなかったんだけど……」と、これまで胸の奥にしまっていた思いを打ち明けてくださったり、ご年配の方はまるで昨日のことのようにお産の話をされていました。その光景に触れて「お産は、どれだけ時間が経っても、心の奥深くに残り続けるものなんだ」と、改めて感じました。
―「語られる写真展」ですね。
tonco:SNSに投稿したときも反響はありましたが、写真展はそれ以上に「届いている」と実感できました。
初日は、社会活動家の方とのクロストークイベントも行いました。その方は、4歳の息子さんを亡くされた経験を持つお父さんで、“死”の視点から「今を生きること」の大切さを発信されています。誕生と死という、一見相反するテーマで語り合い「今をどう生きるのか?」の問いを投げかけようと「ようこそ、またね。」というイベントをしました。
ありがたいことに反響をいただき「うちでも開催してほしい」「地元にも来てほしい」という声から、これまでに14回、カフェや、公共施設、映画の上映会場や講演会会場など、様々な場所で開催しています。

帝王切開と向き合ったとき
―帝王切開の撮影にも立ち会われたそうですね。
tonco: はい。きっかけは、金沢で開催した写真展に来てくださった、ある女性との出会いでした。その方は帝王切開で出産されたのですが、展示写真を見て「実は、“下から産みたかったんだ”と気づいた」と伝えてくださいました。前向きな言葉でしたが、その瞬間「避けて通れないテーマだ」と強く感じました。
―避けては通れないテーマとは?
tonco: これまで「どんなお産も素晴らしい」という思いで発信してきたつもりでしたが、経膣分娩の写真が多く、知らず知らずのうちに「経膣分娩が理想」という空気を醸し出してしまっていたかもしれない、とハッとしました。産み方の優劣は絶対になく、命の誕生は尊いことだと伝えたかったはずなのに、写真で表現できていなかったことに気づいたのです。実はこの女性に出会う前から、帝王切開の写真を撮りたいと思っており、病院や助産師さんとコンタクトをとっていました。偶然にも、2日後に帝王切開を予定している妊婦さんがいらっしゃり、手術に立ち会わせてもらえることになりました。

―実際に手術室で撮影してみて、どんなことを感じましたか?
tonco: 麻酔の準備から始まり、何層もの皮膚を切っていく工程や赤ちゃんが見えた瞬間、「ああ、本当に命がここにある、誕生するんだ」と身体の奥から震えるような感覚がありました。
―ご自身のルーツにも重なる体験だったとか。
tonco: 私自身、母から帝王切開で生まれています。 私が物心つく頃から「下から産んであげられなくてごめんね」と母は申し訳なさそうに言っていて。私は「そんなの関係ないよ、大丈夫だよ」と返してきたけれど、見えない心の底で「私は母と違って、経膣分娩で3人もお産している」と優劣をつけていた気がします。しかし実際に手術の現場に立ち会い、目の前で命と向き合う瞬間を見たとき「母は命がけで、私を迎えてくれたんだ」と心から思えました。帰宅後、すぐに母に泣きながら「産んでくれてありがとう」と伝えました。今まで何度も言ってきたけど、そのとき初めて本気で伝えられた気がします。
―命が誕生することの素晴らしさを感じますね。
tonco:この世に命が誕生することは、本当にかけがえのない奇跡です。どんな言葉を尽くしても言い表せないほど尊く、力強いものだと、たくさんのご家族を撮影する中で感じました。写真展を続けているのは、この感動を一人でも多くの人に届けたいからです。これからも、命を迎える瞬間をありのままに残し続けていきたいです。
届けたいのは「自分で選べる」ということ
―これからお産を迎える方や若い世代に、伝えたいことはありますか?
tonco: “お産は自分で選べる”ことを知ってほしいです。 まだ経験していない若い世代は、お産は“遠いもの”に感じられていることが多いんですよね。情報も少ないし、人と気軽に話せるようなテーマでもありません。だからこそ、写真で「命が誕生する瞬間」を感じてほしいです。 「こんなお産があるんだ」「お産は選べるんだ」と知るだけで、考え方の幅が大きく変わると思います。
―最後に、写真展という場をどんな居場所にしていきたいですか?
tonco: 写真展を通して「こんな世界もあるよ」「こういう向き合い方もあるよ」と静かに、選択肢をそっと置きたいです。届けたいのは“正しさ”ではなく“選べる自由”です。お産も、子育ても、人生も、いろんな形があるからこそ、選択できる世の中であってほしい。写真展がその入り口になったら、嬉しいです。
写真展以外にも、ママや地域の人たちが気軽に集まれるイベントを開いたり、誰かがふと立ち寄れるような場所と時間をつくるイベントオーガーナイザーとして活動しています。産後や育児で外に出るのも大変な方が、勇気を出してやっと外に出たとき、たまたま私の活動に触れる機会があったら、イベントで誰かと話せる機会があったら、写真展で自分のお産を振り返る機会があったら‥。その場所が「ここなら安心できる」と思える居場所になってくれたら本望です。そんな小さな奇跡を信じて、活動を続けています。

写真展のスケジュール
⚫︎8/8(金) 愛知県名古屋市 ソーネOZONE 10:30-15:00
⚫︎8/9(土)愛知県安城市 アンフォーレ1階 10:30-16:00
トークイベントあり
⚫︎8/24(日)大阪府岸和田市立公民館4階 14:00-16:00
great thanks音楽LIVEあり
⚫︎8/25(月)奈良県奈良市 大安寺
谷合えみ氏、堀越けいにん氏とクロストーク・great thanks音楽LIVEあり
⚫︎9/14(日)大阪市平野区 パンとランドリーPanndry
詳細後日
⚫︎10/1.2.3(仮日程)
静岡県藤枝市、静岡市にて
詳細後日
⚫︎10/13(祝)神奈川県横浜市
詳細後日
⚫︎10/19(日)大阪市住吉区レンタルスペースipponbari
展示のみ
⚫︎11/2(日)京都市北区
詳細後日
写真展を主催または協賛してくれる事業者さん・個人で活動されている方募集しています
『ようこそ。』を、あなたの街や場所でも届けてみませんか?
これまでカフェや公共施設、映画の上映会場や講演会の会場など、全国さまざまな場所で開催してきました。写真展の最終日に音楽イベントを開いたり、クロストークを行ったりと、地域や集まった方々と一緒に新しい場をつくることも大切にしています。
写真展を一緒に主催してくださる事業者様、協賛してくださる個人の方を募集しています。一緒に、命の物語を届ける場所を、全国にひろげていけたら嬉しいです。
興味を持ってくださった方は、ぜひInstagramのDMからご連絡ください。お待ちしております。
編集後記
命が誕生する瞬間に立ち会い、その物語を写真に残すこと。
誰かの涙や記憶に、そっと寄り添う場所をつくり続けること。
何十年も前にお産を経験し、子育てを終えた方へ
毎日頑張り続けて「もう無理かも」と思いながら踏ん張り続けているママやパパへ
お腹の中の命を守りながら「ちゃんと育てていけるだろうか」と不安を抱えている妊婦さんへ
命の誕生を遠い世界のことのように感じている若い世代へ
この物語が、すべての人の心に、そっと届くことを願います。
取材・構成・執筆/木全彩花 (「たしかなこと」ひとり編集部)
